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食事会に呼ばれたのはそれから二週間ほどしてのこと。
驚いたことに国王陛下はそれまでの間、私の寝所を訪れることがなかった。
理由がわからずもしかしたら、母国に戻されるかもしれない。
そんな不安を抱いてしまう毎日だった。
私は側妃という待遇の人質としてこの国でやってきたから‥‥‥子供を産むことができないと、その価値が暴落することになってしまう。
居場所を失って見知らぬ土地に追いやられるか、帝国と連絡を取れなくされて――下手したら命すら奪われる可能性だってあるわけで。
そんな状況が二週間も続いたらどんな強気な女性だって心が折れて砕けそうになるのも無理はないんじゃないのかな、と思っていた矢先のことだった。
ジュディ王妃から招待状が届いたのは。
「招待状‥‥‥こんな間近にいるのに、なんて無駄を好むのかしら」
私が自室でそう呻いていると、帝国から侍女として付いてきたイリヤが顔を曇らせる。
外はしとしとと薄い雨が降っていたけれど、侍女の顔色は土砂降りの雨に降られた野良猫のように、不安に満ちた顔をしていた。
「何よ?」
「テレンス様、ここは王国ですよ。格式ある由緒正しい歴史をもつ国です。そのような発言、もし誰かに聞かれたら‥‥‥」
「聞かれたら? 結婚してからほぼ一月。国王陛下すら訪れないこの部屋にほぼ監禁されているようなものじゃない。こんなことならレジーが産んだ子供を、一匹でも譲り受けてくるんだったわ」
「なんて恐ろしい。あんな飛竜の子供なんて争いの種になりますわ」
「あんなに可愛い子供達をそんな風に言わない! レジーが聞いたら気分を悪くするじゃない」
そう叱りつけると、イリヤは更に顔を険しくした。
どうもこの子は権威とか格式とかそういったものに弱いみたい。
もしかしたら一般の平民は皆そうなのかもしれないけれど。
私はともかくあの子達まで悪く言うことはないじゃない?
「いえ、それは。でも、王国の飛竜は国外持ち出し厳禁ですし」
「あの子達に国境なんて関係ないわよ。冬の時期になれば帝国の領土を飛び越えて公国まで。暖かいところまで移動するじゃない。人間のつまらない常識なんてあてにならないわよ」
「……そういったところが、国王陛下を寄せ付けない‥‥‥」
「何か言った?」
「いえ、何も。何も申し上げておりません」
きちんと聞こえているんだけどね。
私のこんな性格が陛下を遠ざけている? そんなバカなことあるわけないじゃない。
あるとしたら王妃様のご機嫌が悪いからこちらに伺えないというだけでしょ。
王妃様は公国の人質で。
私は帝国の人質で。
陛下はその両方に気を使わなければならない訳で。
そういう意味ではとても大変だなとこの時は思っていた。