表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お飾りの側妃となりまして  作者: 秋津冴
7/30

6

 王国と帝国の合間にあるセダ湖を渡り、王国の王都へと入ったのはそれからしばらくしてのこと。

 結婚が決まったからいきなりすぐに夫婦になる、というには難しくて。

 王族、皇族というものはなかなかに権威や格式を重んじる。

 それに見合った日程と、式場と、招待客と‥‥‥それらを王国側でまとめて挙式してから、私は気忙しい日々を送っていた。


 アート王国ヴィルス様は、この時、四十二歳。

 一人息子のラベル王子がいて、奥様は若いご夫人だった。

 と、いうのも。

 ヴィルス王は二度目の再婚。

 相手は公国のお姫様。

 それから数年して、私。

 ラベル王子は最初の王妃様の息子で、母親は逝去なされたという。

 

「帝国からいらしたの。ああ、そう」


 最初にご挨拶をするためにお部屋を訪れたとき、ツンと澄ました顔で、第一王妃ジュディ様はそう言われた。

 言われるというよりも、お前なんかに用はない。

 この愛人風情が、と言いたそうな雰囲気を全開にして、こちらを威嚇してた。


「あれが帝国の女狐らしいわよ」

「信じられない。わざわざ側妃に成りに来るなんて」


 ジュディ王妃の側眼たちからあからさまな敵意が飛んでくる。

 その口の端に上がる悪口は、第一王妃の広々とした私室の端からでも、私の耳に届いていた。

 侍女たちの教育もできていないのかしら、と王妃をそれとなく見やると、彼女はむっつりとした顔で黙ってしまう。

 下にいる者たちが思うように彼女の命令を訊いていないのは、驚きだった。


「ジュディ様は陛下がお好きですか」

「そのようなこと、この場で返答する必要はありません」


 場を弁えなさい、と小さく叱責の声が飛ぶ。

 それを聞いて、侍女たちは胸がすっとしたのか、相変わらずクスクスと隠し笑いをしつつ、口を閉じてしまった。

 好きだということね。

 王妃様の頬がほんのりと赤らんで見える。

 若い―ーまだ二十歳をいくかそこらの王妃様。

 私よりも年上ではあるけれど、陛下は年下の女性から好かれる気質かもしれない。


「私も、そうなれるように努力いたします」

「お好きになさいな」


 頑張ります、と田舎者を演じて伝えてみたら、ふっと鼻先で笑われた。

 しかし、どこか緊張されていた顔つきが柔和になられたようにも思える。


「陛下からご挨拶はまだ?」

「明日の夜にお越しになられると‥‥‥」

「そう」


 公国から持参されたのだろう。

 大きく鮮やかな鳥の羽が幾つも付いた扇を侍女に扇がせていた。

 その風で涼を取る彼女の視線が王座に向いていたのに、どうも視線には冷たいものが混じっているように見受けられた。

 それはそうね、夫が愛人。しかも、自分より年下の女の元に夜に通うとなれば、誰でもいい思いはしない。

 この夫婦が良好な関係を保っているようで。

 そこにどうやって弾かれないように、嫌われないように混ざって生きて行けばいいものか。

 義理の息子は私より二歳年下だという、その現実もちょっと重く肩にのしかかってくる。


「いずれ夕食に招待します。お待ちなさいな」

「感謝いたします」


 これは多分、とりあえずは存在を認めてやるわ、という意思表示なのだろう。

 自室に戻った時、私はソファーに沈み込むようにして座り込んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ