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祖母‥‥‥フィラー帝国皇后アンジーはどことなく機嫌が悪かった。
「おばあ様、参りました」
短くそう告げると、本来ならば祖父である皇帝陛下が座するその場に、祖母はゆるりと腰を据えていた。
いつもなら、玉座と家臣の間には、御簾が垂らされる。
権威を保ったり、健康状態の不調を見せない為であったり、いろいろとそれは役に立つらしい。
けれど、今日ほど機能していない日はないように思えた。
「また、竜の厩舎に行っていたようね」
「……分かりになられますか」
「その格好を見れば誰だって一目でわかります」
「至急の呼び出しと耳にしたものですから。取り急ぎ参ったのですけれど」
お気に召しませんか? 可愛い孫が飛竜に跨って飛ぶための恰好は。
ちょっとおどけて首をかしげたら、祖母は額に眉根を寄せていた。
普段からシワが刻まれたその顔に、さらに深いしわが刻まれていく。
困らせてしまったかなと反省しつつ、呼び出された言葉の意味を考える。
多分、理由はあれだろうな、と思っていたらそうだった。
「王国から使者が来た。意味は分かるわね」
「……テイラー国王は何をお望みで」
「知れたこと。その格式と権威が欲しいなら、人を寄越せ。そう言わんばかりに偉そうな使者だったわ」
「歴史があるところに人は足らないということですか」
「そういうことよ。だからお前を選んだの」
「……」
別に嫌ではない。
政略結婚も皇族も立派な仕事を一つ。
それを嫌がっていては、この帝国では生きていけない。
責任を果たさない者を祖母は優遇しない。
さっさと平民にされ、追い出されることだろうから、それはさすがに悲しい。
レジーたち、飛竜親子とまだまだ触れ合う時間は、設けたい。
今すぐには無理でも、帰国した際に、あの子達とふれあう時間ぐらいはできるはず。
ただ問題なのは――テイラー国王ヴィルス様にはお子様がいらっしゃるものの、まだお若い王子で十歳ほどだと聞いている。
私は十六歳だけど、さすがに六歳も年齢差のある、しかも子供に嫁ぐのは‥‥‥抵抗があった。
「お相手がどなたかになるかは大体想像がついていますけれど。お伺いしてもいいですか、陛下」
「陛下? お前が陛下と私を呼ぶの? あれだけ竜の問題で泣かせた、この祖母をそう呼ぶなんて。この縁談が破談になりそうで怖いわ、テレンス」
「その点につきましては反省しておりますので‥‥‥せめて嫁ぐ相手が誰かぐらいは知っておきたいと思うじゃないですか」
と、唇を尖らせて文句を言ったら相手もやはり同性。
祖母もまた別の隣国から嫁いできた身だからか、こうやって訴えたら普段は眉ひとつ動かさない鋼の皇后の意思も、少しは揺らぐかと思われた。
案の定、私がすんなりと提案という名の命令を受け入れたからか、祖母の顔から険しい小じわは消えていた。
王国から居丈高に物言いされたことが、まだ腹立たしいらしい。
片肘を突いてその上に顎を乗せていた。