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お飾りの側妃となりまして  作者: 秋津冴
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 わたしが王都に戻ってから、二ヵ月が経過した。

 ベネルズ伯爵邸に残してきた部下たちが、竜騒動が収まったことを確認して王都に帰ってきたのも、この頃のことだった。


 季節は年の瀬へと移行し、南国のアート王国もさすがに、肌寒さを覚える。

 騎士たちの報告をもってベネルズを悩ませていた竜騒動は終了したと見なされ、わたしは与えられた離宮、水央宮で陛下からお褒めの言葉をいただいた。


「テレンス、さすがだ」

「陛下の御心が晴れやかになりましたら、幸いです。陛下」

「褒美は何がいい? 望みを言うがいい。叶えてやろう」

「褒美――、ですか」


 わたしはうーん、と考え込む。

 ヴィルス様と夫婦になってから約七ヶ月。


 その間、王妃様に気遣ってか、それとも帝国との関係を進めたくないのか。

 陛下の御心は定かではなく、わたしたちの仲は、なかなか進展が見られないままだった。


 夫婦として、月に数度は寝所を伴にするものの、まだ妊娠した覚えもない。

 本当なら、そろそろこの関係を進展させたいところだ。


 わたしはそのために帝国から嫁いできたのだから。

 月に数回ではなく毎晩でもいいから、新しい愛を育みたかった。


 けれども、陛下は王妃様の目を気にしてか、こちらは求めてくることはあまり多くない。

 昼間に政務の間を縫い、こうして暇を見つけては茶飲み友達のような会話をするのだけれども。さすがにま昼からそういった情事に持ち込むわけにもいかず、私は何やら悶々とした日々を送っていたのだった。


「二週間ほど、旅行などに行くというのはいかがでしょうか?」

「冬のこの時期にか? 今よりもっと寒くなるぞ」

「これくらいの寒さは慣れておりますので」

「いや、私が言いたいのはそういうことではなく……分かるだろう?」

「ジュディ王妃様の問題です、か」

「ま。そういうことだな」


 はあ、と大きなため息をおおげさについて見せたら、陛下は申し訳なさそうな顔をして、どこか他所を見てしまった。

 もう一度同じようにため息をついたら、今度は申し訳なさそうな顔して。


 ちらりとこちらを横目で窺ってくる。

 二人の妻を持つ男性は、それぞれの機嫌を損なわないようにしなければいけないから大変だな、なんて。


 当事者の片方なのに、他人事のように考えてしまうわたしがいた。


「どうして駄目なのですか?」


 竜騎士ガルドにした時のように、意地悪く質問する。

 王妃様だけずるいです、とこんなときだけ十六歳の自分に都合よく戻って、拗ねてみた。


「順番があるのだ。いますぐにというわけにはいかないが、春になれば必ず……」


 陛下は困ったようにそう言った。

 順番とはつまり妊娠のことだろう。


 最初に王妃様。次にわたし。

 そういう順番にしないと、この国は二つの大国から政治的な圧力を受けてしまう。


 わたしが先に懐妊したら、帝国は喜び勇んで、政治的な介入を本格化にするだろう。

 そうなれば彼はわたしだけのものになる――。


「春を待たなくても過ごす夜を増やせば、公国の勢力を王宮から削ぐこともできると思いますけれど」

「……この王国がそれを許してしまったら、帝国と公国は王国の支配権をめぐって、全面戦争を始めるだろうな」

「陛下の意地悪」

「私がそうしたいわけではない。待ってくれたら、それなりにちゃんとする」

「本当ですか?」

「本当だとも! 何より、いま旅行に出てしまっては見れなくなるぞ?」

「見れない、とは?」

「竜が渡っていく姿を。王宮の中からはこの場所から一番よく、その景色を眺めることができる」

「陛下っ」


 この離宮を割り当てられた理由がようやくわかった。

 誰がどう見ても寂れたこの場所が、まさかそんな素晴らしい場所だったなんて、考えもしなかった。


「おまえは竜が好きだと帝国の皇后殿から聞いていた。それも含めてこの場所を用意したのだ」

「そんなことは全く知りませんでした。ふう……男性ってずるいですね。こんな時に、そんな秘密を明かされたら、嫌だと言える者などおりません」

「二つの大国に挟まれてながら国を動かしていたら、いつの間にか小利口になってしまった。こんな私でも飽きずに待っていてくれるか?」

「だから。そういうセリフが……もう、仕方ないですね。来年には家族が増えていることを祈りたいものです。ああ……再来年だったわ」

「もう今年も終わる。来年と言葉を止めて置いてくれたら、あと一年は猶予が伸びたのに。テレンスはそういう点が抜け目ないな」

「わたしではなく、陛下が抜け目がないのです! どうしてこんなに意地悪なのかしら」


 こうなったら、やっぱり嫌ですと言い、来年の夏まで期限を引き上げるべきだろうか? 


「まあ、そう言うな。機嫌を直してくれ。今夜は一緒にいることにしよう」

「もう――っ、そうやって、毎度……ずるいです!」

「ははは。すまんな」


 ヴィルス様の青い瞳は、あの子を思い起こさせて、つい甘い顔をしてしまう。

 わたしも自覚している弱い部分だった。

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