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お飾りの側妃となりまして  作者: 秋津冴
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24

 私のことを引き合いに出さず、ただ黙ってそこに立ち。

 今回の一件が落着するまで静かにしてるなら、失態の数々も見過ごしてあげようと思ったのに。


「愚かな男ね、竜騎士ガルド。あなたは私を利用して、この港を竜から解放した、という手柄を持ち、そのまま帝国に戻るべきなのよ。そんなことも考えが及ばないなんて」

「王妃様、どういたしますか。話は帝国の中でつけていただければと思うのですが、彼らを偽物と断定して捕まえますか」

「そうね。どうしようかしら。でもその前に……」


 怒りで顔面が紅潮し、どす黒くなりかけている竜騎士の指南役に背を向ける。

 彼より竜だ。


 船主からそう遠くない距離に竜がいる。三頭。いや四頭。

 生まれたばかりの小さなオチビちゃんが、母親の背中に必死にしがみついているのが見える。


「竜の子供がいるみたい。ヘタに近づいたら、炎でこの船なんか燃やし尽くされてしまう」

「子供! そんなバカな!」

「本当よ、ガルド。あなたも竜騎士を名乗るなら、それはどういう意味か理解できるでしょう。見てみますか?」


 彼に望遠鏡を譲る。

 ガルドは食い入るようにして、そのあぶらぎった顔を、淵にぴったりと押し付けていた。


 あとから消毒して貰おう。……次に使う船員さんが気の毒だ。


「ありえん! こんなことはありえない! あんな小さな幼竜を母親が連れて旅をするなど!」


 がばっと、彼は勢いよく望遠鏡から顔を外すと、わたしに詰め寄ってくる。


「どういうことですか!」

「それをわたしが知っていれば、こんなところまで来たりしませんよ」

「それは――そう、か。大変失礼いたしました、王妃様。つい取り乱してしまい」

「いいのよ。あなたが取り乱す理由もよくわかるから。あの子供がいる限り、竜たちは神経質になっていることでしょう」


 竜は生まれて半年程度の子供を連れて飛んだりはしない。

 巣から近ければ話は別だけど、こんな遠い土地まで飛んできたりはしない。


 ここは竜たちの土地がある西の果てからも、十分、遠い。

 レジーとフィンの間に生まれた子供たちもそう。翌年の冬まで一年近くは帝国ですごし、そして西へと向かうのがいつものこと。


「困りましたな。それではしばらくこの港閉鎖しなければならなくなる」

「いいえ、船長。その必要はないかと」

「王妃様? 何か、御考えでもございますか?」


 ございますか、とまで言われたらちょっと心苦しい。

 このまま進んでくださいとも言えないし。

 私はそばにいた竜騎士ガルドをじっと見やる。


「……何か?」

「あなたも竜騎士として名を挙げたいはず」

「は?」

「船長、ボート降ろしていただきますか。十人乗りぐらいのものがいいです」

「漕ぎ手はどうします。船のものでよろしいですか」

「そうですね。竜騎士たちと、ガルド。あとは水兵の方たちにお力添えをいただければと」


 途端、ガルドは恐怖に顔を歪める。

 彼は怒りに猛り狂った竜の暴れ方を知っているようだ。

 我を忘れた彼らの暴れっぷりは凄まじく、ひとつの白でも壊滅させてしまう程だ。


 ぶるぶると震えながら、それでも彼の心の中で、功名心が勝ったらしい。


「お、お供いたします!」

「俺たちもです、王妃様!」

「俺達も行きますよ、竜騎士だけにいい目を見せたんじゃ、水夫の名が廃る!」


 操舵室は彼らのやる気に満ちた叫び声で、一気に賑やかになった。



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