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「どういうことかしら?」
「は? 王妃様、何か?」
ジョブスがこちらに向かい不思議そうな顔をする。
自分の案内になにか不満があるのかと思ったようだ。
わたしにしかりを受けると感じたのかもしれない。
「ああ、あなたのことではないの。イリヤ、どうしてこうも顔色を悪くしているの?」
侍女ははっと顔を上げ、それからまた青白い顔を下げてしまった。
同席している陛下付きの医療神官の一人が、「治癒魔法をかけましょうか」と気を配って進言するが、わたしはイリヤの態度がどうにも気に食わない。
乗り物酔い以外のなにかが、彼女の健康な体調を妨げているような、そんな気がしたから。
「正直におっしゃい。どうしてそんなに辛そうな顔をしているの?」
「……。申し訳ございません。竜と、船とその両方が揃って待っていると思うと、もう恐ろしくて恐ろしくて」
「呆れたものね。だから宿で待って入るようにと命じているでしょ。どうしてそんなに恐ろしいの?」
「幼少の自分に、荷車を運んでいる地竜に踏みつけられそうになったことがあって……。それを思い出すとどうしても、申し訳ありません奥様」
「そういった過去は、早く教えてほしかったわね」
なるほどね。
本日二回目のなるほどだ。
過去のトラウマが彼女に恐怖を思い出させてしまっていたのか。その結果、顔を青くして震えるまでになってしまったのだ。
無理強いは良くない。
「ジョブス。あとどのくらいで、宿に着くかしら」
「あと15分ほどで」
「では、イリヤ。宿屋に着いたらすぐに休みなさい」
「え、ですが、そんな! それでは侍女長にしかられます!」
「いいのよ。わたしが許可したの。それにあなた、いま体調そのものが悪いでしょ。無理をしては駄目よ」
自分の体調の悪さを打ち消すかのように、彼女は激しく頭を振った。
顔面はさらに青白くなっている。
同じ女だから体調が悪い時は分かる。
わたしはそうでもないけれど、あれのときは酷い女性は、呻くほど苦しむという。
拷問のような痛みだと聞いたことがあるから、イリヤが少しでも楽になるならこれが一番いいのだ。
宿は、この地方ベネルズの領主館だった。




