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お飾りの側妃となりまして  作者: 秋津冴
18/30

17

 水竜の好む食事、それは動植物でなくて、水だ。

 正確には、濃密な魔力を豊富に含んだ水。

 それは、はるか遠くの山脈奥深くに眠る、雨などに混じって魔石の鉱山から染み出た水分が地下水に合流し、地上に出た後に、河や湖を経由して空気を含むことで、より濃密になる。

 このアート王国の東側には大陸の真ん中を縦断する、レダクター山脈があり、三国の合間を貫いている。

 鉱業で盛んなボッソ帝国と、我がの故郷のフィラー帝国との国境線も交わる、いろいろな意味で問題を抱えている土地だ。

 ベネルズの街は西側に突き出したトレネ半島の付け根部分に位置していて、半島を超えればそこは故郷のフィラー帝国領土になる。

 このトレネ半島はレダクター山脈の始まりの地としても知られていて、海運の盛んな港町として栄えている。

 問題の水竜が出現するのは、この半島の湾内から外海にでようとした海域に多く出没している。

 

「……と、いうことは。その若い水竜は行き場を見失い、餌は豊富にあるものの、その海域を自分の縄張りと勘違いしている、と。そういうことですか?」


 本日の侍女は冴えている。

 わたしは、正解! と彼女を褒めると、更に自論を展開した。


「その餌を運ぶ海流が必ずあるはずなのよ。陸から流れ込む河と混じり合うところとか、海と湖の混じり合うところとか。その近辺で、急に深い海溝がある海域に、その竜は潜んでいると思うの」

「嫌に詳しいですね。深い海溝に潜んでいるとかどうして分かるのですか?」


 イリヤは半信半疑だ。

 これにはもちろん、理由があった。

 以前、レジーがフィンとともに海に潜った時、しばらく戻ってこない時期があったのだ。

 その時、彼女はお土産代わりに、海の深い部分に棲んでいる魚を大漁に捕獲して戻ってきた。

 わたしは特にそのことについて珍しい魚が食べられる、という感動を抱いただけだったけれど、王宮の学者たちは色めきだった。

 なにせ、水竜がどんな経路をたどって海の中を行くのか、誰も知らなかったから。

 フィンが羽につけてくる海藻や、排泄物などでそれなりの予測はついていたけれど、確実ではなかった。

 それが、レジーとフィンの活躍に? とりあえず、あの子たちが持ち帰ったお土産によって確実になったのだから、王国の竜学はこれで一歩前進したって、彼らは子供の様に色めきだっていたのを思い出した。


「学者様がおっしゃるなら、そうなのでしょうね」

「なによ、わたしの言うことは当てにならないと?」

「そんなことは、申しておりません。それよりも、仕度が整いました。そろそろ出発の御準備を。馬車を用意してございます」

「はいはい分かりました。それじゃわたしの論が間違っているかどうか確認してくるから、あなたは港で待っていなさい」

「そうさせて頂きます。……船は苦手なので」


 イリヤは海が苦手だと言う。

 正確には船に乗るのが嫌なのだそうだ。

 船酔いに慣れていなくて、ボートに乗っただけでも、悪酔いしてしまう彼女を連れて行くのは、ちょっと酷だと思えた。

 

 それから三日ほどをかけて、王都から港町ベネルズへ。

 王国から派遣されてきたという、竜騎士ガルドとその部下たちが、わたしたちの来訪を待ち受けていた。

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