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7. 敵の五人目

試合内容の説明回です。

『みなさんこんにちは! 本日の試合の実況を担当致しますシャワリーと申します。よろしくお願い致します』


 ドーム状の建物内に、陽気な声が響き渡る。

 建物の大きさは野球場よりも少し狭いくらいで、中央の平地を囲むように多くの席が設けられている。

 平地の部分には白くて広くて四角い舞台が置かれていて、選手達はこの上で勝負を繰り広げる。


『まず初めに、すでに観覧席に着席されている生徒様方にご連絡致します。本日はチームドラポンとチームヴェイグによる練習試合です。お間違えないか今一度ご確認いただければと思います』


 観覧席の一部に設けられている実況席に座るシャワリーが、音声拡大の魔道具を利用して会場にいる生徒達に注意喚起を促している。


 彼女もまた本学園の生徒であり、『戦える実況』というレアな職業を目指している。

 練習試合で練習をするのは、試合する生徒だけでは無いのだ。


 そしてその対象は実況以外にも存在する。


『それでは本日の解説を紹介致します。なんと、なんとなんと、アイシクルホワイトの異名を持つ第四位、クラリスさんです! はい、はくしゅ~!』

『はくしゅは良いですから。その、よろしくお願いします』


 指導者や教育者を目指す学生にとって試合の解説が副業として人気である。

 ただし、第四位程の実力者が最初から最前線ではなく指導者を目指すのは珍しいことであるが。


『はい、よろしくお願いします。それにしてもクラリスさんが練習試合の解説を担当されるなんて珍しいですね。好きな人でも参加されてるんですか?』

『炎上しそうなこと言わないで!? 少しややこしいと聞いたからです!』


 クラリスもまた見目麗しい生徒ということで人気が高い。

 それこそ、何度も告白されるくらいには。

 そんな彼女に男の影なんて言われたらそれだけで大炎上する可能性があるのだ。


『それは今回の二チームの選手達が互いにいがみ合っているという噂でしょうか』

『はい、解説がどちらかに肩入れしてしまうとトラブルの元になりかねないということで、先生方に頼まれました』

『なるほど、クラリスさん程の実力者相手なら文句を言いにくいということでしょうか』

『それよりも偏った解説をしない実力があるからお願いされたと信じたいですね』

『私は気にせずやろ~っと』

『気にして!?』


 試合の開始まではまだ少し時間がある。

 両チームはそれぞれの控室で待機中だ。

 その間にシャワリーは改めてルールの説明を行う。


 学生達は当然知っている内容ではあるが、学外に公開される本番のイベントを想定して説明の練習をするのだ。


『本試合は五対五の団体戦です。先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の順に一人ずつ登場し、それぞれ一対一で対戦します。先に三勝した方が勝利となりますが、本日は練習試合ですので大将戦まで行われます』


 他の試合形式として、個人戦と総力戦がある。

 個人戦はその名の通りに一対一で勝負し、学内ランキングは個人戦の結果により決められている。

 一方、総力戦は団体戦と同じく五対五のチーム戦。ただし、五人が同時に出場して戦うルールだ。


『どのタイミングでどの選手を出すかは、試合の直前に決めることが出来ます。例えば先鋒の試合結果を見てから次鋒の選手を決める、といったことが可能です』

『お互いのチームの選手の強さや相性などを考えて出場順の戦略を考える必要がありますね。例えば強い選手を序盤に並べて三連勝を目指すのも一つの手段です。相手チームが何を考え何を狙っているのかを見極めてどう判断を下すのかに注目して頂ければと思います』


 ドラポン達にかけられた呪いは団体戦で勝利すれば良いので、誰かが負けても問題無い。

 但し、フレンが極端に弱いことを考えると、フレンを除く四人で三勝しなければならないためかなりきついことになっている。


『試合の内容ですが、練習試合ですので五ポイント先取制です。額、両手首、背中の四か所に攻撃をヒットさせるごとに一ポイントを獲得します。なお、攻撃と言いましても特殊な空間の中で戦いますのでダメージを負いませんからご安心ください』


 ダメージ無効化の空間を生み出す魔道具は遺物であり世界に数個しかない。

 しかもそのほとんどが各学園に固定で設置されていて、動かすことも競技の内容を変更することも出来ない。

 その理由は遥か昔にこの魔道具を生み出した偉人が少しアレな人物だったからだと言われている。


 なお、ダメージを負わないことから、防具の着用は禁止されている。

 あくまでも武術を競い合う試合であって、装備の良し悪しで差が出てしまっては意味が無いからだ。


『防具の着用は禁止ですが、武器の持ち込み、魔法の使用は自由です。特に防御系の魔法は禁止されておりません』

『スキルスロットを一つ使う訳ですし、装備と違って発動し続けるには魔力を消費し続ける必要がありますからね。当然だと思います』


 以上のルールに基づく武術競技。

 それが世界中の学園で行われており、毎年学園対抗戦という盛大なお祭り騒ぎが行われる。


 ドラポン達はこの試合でヴェイグ達と戦わざるを得ない状況となっていた。


『それでは選手入場です』


 試合開始前にお互いに顔合わせをして、対戦相手の確認をする時間が設けられる。

 実況の合図により、出場口から因縁の二チームが入って来た。


――――――――


「よぅ、覚悟は出来たか?」


 開口一番、下卑た笑いを浮かべるヴェイグ。

 ここで負ければ禁呪契約を使ったことがバレて破滅するというのに、その恐れを一切感じさせない様子だ。


「…………」


 一方のドラポン達は何も言おうとはしない。

 怯えているというよりも、元から相手の挑発に乗らないようにと決めていたかのような無視具合だ。


「チッ、つまんねーな。まぁいいや、これが終わったら嫌という程に鳴かせてやるからな」


 彼らと観客の間にはかなりの距離があり、観客達も話をしていてざわめいているため、彼らの会話は客席まで届かない。 

 大声を出さない限りは、不穏な会話をしても聞かれることは無い。


「しかしまぁ、五人目を見つけるとは思わなかったぜ」

「…………」


 お前達が圧力をかけた癖に、と憤る気持ちはあるがそうしたら相手の思うつぼだ。

 この煽りが来るのも分かっていたため、必死で心を殺して耐え続ける。


「尤も、そんな激弱くんじゃあ、いないも同然だけどな! はっはっはっはっ」


 ヴェイグの仲間達もニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべてフレンを侮辱する。


 これにはドラポン達も思わず反応しそうになったが、フレンが小さく首を振ってダメだと止めた。

 誰よりも悔しい筈のフレンにそうされては、怒るわけには行かなかった。


「(少しでも勝率をあげないと!)」


 フレンはドラポン達が苦境に立たされていることを知っている。

 それゆえ、自分の事なんかどうでも良かった。

 むしろ仲間達がここで怒り狂って本来の力を発揮出来なくなるなんてことが無いように必死だっただけのこと。


「(僕に出来ることをするんだ)」


 ほぼ間違いなく自分は勝てないだろう。

 だったら仲間が勝てるように全力でサポートする。

 それがフレンが悩みに悩んだ末に出した答えだった。


「(こいつらがみんなの敵)」


 改めて相手チームの様子を確認する。


 リーダーのヴェイグは派手なアクセサリーを大量に身に着けジャラジャラと音を鳴らしている趣味の悪い男。炎の国、ファグマイアから送り込まれたスパイで貴族の息子らしい。


 やせ細った背の高い男と、それとは真逆で背の低い肥満の男が仲間だ。

 どちらもヴェイグと同様にドラポン達の体を舐めまわすような視線で気持ち悪い笑みを浮かべている。


 そして驚くことに相手には女性もいた。

 ヴェイグにしな垂れかかり、露出の多いその女は化粧が濃く売女のような淫らな雰囲気を醸し出している。ヴェイグの女なのだろうか。


「あれ、四人?」


 何も言わないようにと決めていたのに、フレンは思わず口を開いてしまった。

 だがそれはドラポン達も不思議に思っていた。

 団体戦は必ず五人いなければならないのがルールだ。

 このままでは不戦敗だ。


「くっくっくっくっ! はーっはっはっはっ!」


 ヴェイグは何も答えず心底おかしいとでも言った感じで豪快に笑うのみ。

 困惑するフレン達の疑問に答えたのはマリーだった。


「いや、違う。奥に一人いる」

 

 ドラポン達はヴェイグの挑発に乗らないように必死だったが、マリーだけは会場に入った時点で全く別のことに気を取られていた。

 ここにいてはならない人物が、遠くで壁に背を預けて立っていたことに気付いたからだ。


「え……?」


 フレンはマリーの視線の先を追って見る。

 そこにはこの学園の誰もが良く知る人物がいた。


「なんでレオナルドさんが!?」


 『剣士』レオナルド。


 強さを求め、ひたすらに剣術を磨き続ける彼の事を世間は『剣士』と呼ぶ。

 剣聖でも剣豪でもなく剣士であるのは、本人が自らの事をただの『剣士』であると自称しているから。

 その真意は誰にも分からないが、自らの立ち位置を常に『剣士』という一般的な戦士として認識することで、上を目指し続けているという意味があるのではと言われている。


 当然、普通では無い普通の異名をつけられているレオナルドはとてつもなく強い。


 学園第二位。


 学園最強の一角が、ドラポン達に牙を剥いた。

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