13. 仲間想い 後編
フレンが血をまき散らしながらも奮闘している間、ドラポン達の控室は荒れていた。
「フレン! もういい、もうやめて!」
「ダメダメ! このままじゃ死んじゃう!」
「フレンさん! お願いです、止まって下さい!」
血だらけのフレンの映像が控室に流れている。
それを見て心優しい彼女達が平静でいられるはずが無かった。
ドラポンは泣き叫び、ドルチェは壊されたのとは別の相棒を抱き締めて震え、ホウシェからはいつもの冷静さが失われていた。
後一ポイントで逆転勝利となる状況であるのに、フレンの体を気遣ってもう止めてと懇願する。
「フレン……君はまさか知っていたのか?」
マリーはフレンが自分達の事情について知っていたと気付いた。
あそこまで強力な『仲間想い』が発動する理由に、それ以外思いつかなかったからだ。
思えば控室のフレンは、そしてここ数日のフレンはどこか様子がおかしかった。
それをフレンが緊張しているからだと勝手に誤解していたが、禁呪契約のことを知ってしまったからではないか。
「私達は……なんてことを……」
フレンに自分達の問題を背負わせてしまった。
そしてその結果、フレンは自らを傷つけながらも必死に抗ってくれている。
どれだけ悩んだだろうか。
どれだけ苦しかっただろうか。
どれだけ辛かっただろうか。
フレンの心情を思うと、涙が止まらない。
「ポンポコドーン! もう見てられないぜ! 止めてくる!」
ついにドラポンが舞台へと向かおうとする。
「待て!」
だがそれをマリーが止めた。
「ここでフレンを止めたら……フレンは……」
マリー達を守り切れなかったことを後悔し、マリー達の悲惨な状況に心痛めるだろう。
もしかしたら心が壊れてしまうかもしれない。
それは死に等しいことになる。
「フレンを見殺しにしろって言うのか!?」
「違う! 違うんだ!」
そうじゃない。
大事なのはそこじゃない。
確かにフレンのことは心配だ。
今すぐにでも助けに向かいたい。
もう頑張らなくて良いよと伝えたい。
でもそれではダメだ。
「フレンは『仲間想い』の力で頑張ってくれている」
「そんなの分かってるぜ! だから止めに」
「仲間なんだよ! 私達のことをあそこまで強く仲間だと想ってくれているんだよ!」
だから私達は責任を果たさなければならない。
仲間として。
仲間だからこそ。
フレンの想いに答える必要がある。
「私はフレンを、仲間を信じたい。無事に勝って帰って来てくれるって」
「あ……」
フレンならば分かっているはずだ。
このまま相打ちのような形で命を消費して勝利したとしても、仲間は喜ばないという事を。
だったら信じて待つ以外に何があるというのだろうか。
「フレン! 勝ってくれ! そしてまた一緒に!」
ドラポン達は再び画面に目をやった。
そこには変わらず血まみれになりながら戦うフレンの姿があった。
仲間のために懸命に戦う男が居た。
その目は決して自暴自棄になっていなかった。
狂乱の目つきにもなっていなかった。
言葉はバーサーカーのようであるが、目には意思がしっかりと感じられた。
「ポンポコドーン! オレのバカバカバカ! フレンが頑張ってるのにオレが信じてやらねーでどうすんだよ!」
「うんうん、そうだった。フレンは絶対に勝って帰って来る」
「その通りですね。私としたことがこんな簡単なことにも気づかないなんて情けないです」
フレンのことが心配なのは変わらない。
でも彼女達はフレンを止めずに応援すると決めた。
「フレン! いけいけー!」
「頑張れ頑張れ! 絶対勝てるよ!」
「終わったらみんなでパーティーをしましょう!」
「君なら絶対に勝てる!」
何故ならば彼女達とフレンは『仲間』だからだ。
――――――――
「くそっ、どうなってやがる! あのガキがあんなに強いなんて聞いてないぞ!」
一方でもう一つの控室もまた別の意味で大荒れだった。
ヴェイグ以外の三人は恐怖で縮こまっている。
何しろレオナルドが負けたらヴェイグ達が禁呪契約を騙して仕掛けたことが公になってしまう。
そうしたらヴェイグは世界中から非難され、実家は間違いなく彼を切り捨てるだろう。
仲間の三人も似たような扱いになるはずだ。
処刑かそれとも地獄の囚人生活か。
どちらにしろ人生が終わってしまう。
「どうしてこんなことに。楽勝だった筈だろうが!」
腕を大きく振り払いテーブルの上のものを全てぶちまけ、そのまま力いっぱい蹴り上げる。
本当だったらもう大将戦はとっくに勝負がついていて、今ごろ見目麗しい女共を屈辱を与えながら味わっているはずだった。
元々ドルチェとドラポン相手には絶対に勝てると自信があったからこそ勝負をしかけたのだ。
唯一の不安は五人目だったが加入したのは最弱の男。
強い生徒が入らないように裏から手を回した効果があった。
しかもこちらの五人目は最強の一角を引き入れた。
絶対に負けるはずの無い勝負だったのだ。
「レオナルドおおおお! てめぇ何やってやがる! 勝て! 絶対に勝て! 勝てなかったら殺す!殺す殺す殺す!」
実力差的に出来るはずの無い事なのだが、そう叫びでもしなければ心が持たなかったのだろう。
案じながらも仲間を信じるチームと、罵倒しながら仲間を脅迫しようとするチーム。
果たして勝利するのはどちらなのか。
戦いはついに決着を迎えようとしていた。
――――――――
「ああ!うお!おお!ああ!」
相変わらず意味の無い言葉を発するだけのフレンの全身は赤く無いところを探す方が難しいような有様になっていた。
このままでは出血多量で死んでしまうだろうが、問題はそれだけではない。
「(頭が……あつい……)」
レオナルドの攻撃を超速反応で対応するために脳も酷使しているのだ。
このままでは先に脳内の血管が破裂して即死するかもしれない。
そのギリギリのところでフレンは戦っていた。
「(絶対に勝つ!)」
そうはっきりとした思考があるわけではない。
何かを考える余裕があるのなら、それらは全て戦闘へとつぎ込んでいるからだ。
だがそれでも想いだけは残していた。
それがあるからこそ、どれだけ体がボロボロになろうとも戦えているのだ。
「(ドラポンさん……ホウシェさん……ドルチェさん……マリーさん……)」
頭から流れた血が目に入り、視界は真っ赤に染まっている。
真っ赤なレオナルドからは殺意にも近いプレッシャーが放出されている。
しかしそれでもフレンの動きに全く変わりは無い。
出血多量によるものか、あるいは脳がダメージを負っているのか、不思議と仲間達の姿がときおりちらつくような気がする。
その度に気合が入り、体が勝手に動いてしまう。
「(勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ!)」
レオナルドの攻撃を避け、弾き、受け、木剣を振り下ろし、薙ぎ、突く。
ただそれだけの動作。
フェイントどころか剣を振る動作すら初心者丸出しだ。
だが体を強引に動かすことで威力とスピードと反応を激増させて脅威とする。
ここまで来たらフレンの想いがレオナルドの技を超えるかどうか。
その一点しか無いだろう。
『申し訳ありません。思わず実況を中断してしまいました』
会場の誰もが彼らの試合に目を奪われていた。
レオナルドの弱点を調べるとか、フレンの負けっぷりを堪能したいとか、そんなことを考える人はいなくなっていた。
ただこの見惚れる様な剣舞に心が囚われていた。
それはもしかすると、フレンの強い想いが見る者の心を打ったのかもしれない。
そしてついにその時は来た。
偶然お互いが同時に木剣を上段から振り下ろし弾かれた。
その反動で両者が一旦後ろに少し跳ぶ。
「おおおおおおおお!」
「おおおおおおおお!」
これで決着をつけるとの意思か。
フレンだけではなく、レオナルドまでもが吠える。
両者は剣先を相手に向けて突撃する。
レオナルドが最も得意とする突きに、偶然にもフレンが応えた形だ。
技術ではレオナルド、速さではフレン。
だがこの瞬間だけは、レオナルドもフレンと同等の速度が出た。
一瞬の交錯。
勝負は決まった。
片方の切っ先は見事に相手の額を捕らえ、片方の切っ先は相手のこめかみを掠り後ろへと抜けていた。
レオナルドは確かにこの瞬間だけフレンと同等の速度の突きを放った。
だがそれは、技術を捨てスピードに拘ってしまったということでもあり、フレンの超反応についていけなかったのだ。
誰もが勝負にすらならないと思っていた大将戦は、大方の予想を裏切りフレンの勝利で幕を閉じた。
そのことが分かったのか、それとも偶然このタイミングで限界が来たのか。
フレンの体はその場に崩れ落ちた。
いや、きっと分かっていたのだろう。
何故なら倒れたフレンは満足気な笑みを浮かべていたのだから。




