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助っ人は三太郎  作者: シセツ
7/7

三太郎の主婦力やいかに

 結局、宴は翌朝まで続き、私が酔い潰れた三太郎を連れて帰宅したのは健全な生活を送っている人々がようやっと活発に活動し始める時間帯だった。

 というのも私は例のやらかしをしでかした後、当然誰からも話しかけることなく宴の渦中でソロ飲みをしていたので、アルコール摂取量を自制することはできていたのだが、三太郎もとい三馬鹿に関しては自制という言葉を知らない。

 普通、割って飲むような度数の高い酒を御伽話のように一升瓶ラッパ飲みでがぶ飲みし、宴の序盤から泥酔。

 さらに追い打ちをかけるように、冒険者という奴らはどうも酒が飲める奴に酒を注ぐ傾向にあるらしく、

 「兄ちゃんたちぃ、案外いける口だなぁ。ほれ、まだまだどんどん」

 なんて調子のいいことを言いながら、わんこそばよろしくのペースで注ぐ注ぐ。

 それに対して、桃太郎は来るもの拒まずな感じでそれは気持ちよさそうな顔で滔々と飲み続け、浦島太郎は受付嬢のお姉さんに酒が強いところを見せたいのか、明らかに弱そうなのに強がって飲み続け、金太郎は「この程度で俺は酔わんぞぉ」なんてベロベロな口調で言いながら飲み続けていた。

 三人とも、揃いも揃って勢いだけで許容を知らない二十歳になったばかりの大学生みたいなの見方をしていた。

 見た目の年齢は転生特典か何かで若くしてもらったらしく、正直言って三人とも私と同じくらいの年齢なので大学生のようなの見方をしていても傍から見ていても何ら不自然なことは無いのだけれど、それでも前世ではそれなりに生きたはずだし、天界での生活も含めればありとあらゆる経験を積んでいるはずなのだから、仲間としてはもう少し大人らしい飲み方をしてほしいものである。

 まぁでも、精神は少なからず肉体に影響されるなんてこともあり得るわけだし仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないのでできる限りこれ以上文句を言わないことにしよう。

 これから寝食を共にする仲間だし。

 少しくらい大目に見てやってもいいか。

 なんて、そんなことを思いながらそんなこんな時間が経って、泥酔していた三人が歩ける程度に酔いが醒めた頃に三人を連れて私は家に帰ってきたということなのである。

 「おお、ここが尊の家かぁ。尊ハウスかぁ。四人で暮らすには少し手狭ではあるがまぁ、文無しの俺たちに文句を言う権限はないから甘んじて受け入れるとするか」

 「女の子呼べそうにないのは辛いけどねぇ~」

 「まぁ、甘んじて、な?」

 家に入って早々、三太郎はそんないささか無礼な感想をこれ以上ない口幅ったい態度で嘆いた。

 「お前ら何様のつもりだ! 文句あるなら出てけ。そしてその辺で野垂れ死ね。桃太郎も言ったように文無しのお前らにおよそ人権なんてものはないことを理解しろ。もっと私を崇め奉れよ。滅私奉公しろ」

 「あーあー、尊様の金運に肖ることができて光栄ですよ。これからもどうか文無しの私目らにご慈悲を」

 飛んできた蠅を振り払うように、それもう気だるそうに浦島太郎が返事をすると、他の二人も同様に「ご慈悲を~」なんて心にもないことを言うもんだから業腹なことこの上ない。

 「お前らにくれてやるご慈悲なんてものはあいにく持ち合わせてないわ。私に肖りたければ働け馬鹿ども」

 「働けって言っても、具体的に何すればいいのよ。こう言っちゃなんだけど俺たちにできることなんてたかが知れてるんだぜ?」

 フローリングに寝転びながら全く悪びれることなく桃太郎は自分たちがいかに役に立たないかを示したが、

 「いやぁ、桃ちゃん。こればっかりは俺と金ちゃんを桃ちゃんと一緒にしてもらっちゃあ困るんよ。俺と金ちゃんはさ、前世でそこそこ一人暮らしもしていたもんだから掃除・洗濯・炊事ある程度の家事はできてしまうんだなぁこれが」

 うんうん、と、金太郎が自慢げに頷けば、

 「え、え、ええええええええええ。何もできないの俺だけなの。だって浦ちゃん金ちゃん、天界で暮らしてた時はそんな話してくれなかったじゃん。数百年暮らしてて一度も。ただの一度も」

 と、桃太郎は驚嘆した。

 「いやぁ、だってほら、なんか俺たち三太郎って一括りにされちゃってさ、それで桃ちゃんだけ家事出来ませんよ、なんて話になったら申し訳ないじゃんか。だからまぁ、隠していたつもりはないんだけど、言わなかったって言うだけ。悪気はないんだよ? いやほんと」

 ごめんね桃ちゃん、と金太郎は弁明し、同時に桃太郎は

 「そんな、親友だと思っていたのに……」

 なんて言いながら力なく立ち上がり、心底落ち込みながらトイレに籠ってしまった。

 「あーあ、桃ちゃん拗ねると立ち直るまで長いからなぁ。面倒なことになっちゃったねぇ、尊」

 「そうだ、面倒だぞ、尊」

 「桃太郎が拗ねたことを私の所為みたいにするのはやめろ。隠してなかったなんて言ってたけど、完全に今の今まで隠蔽してたよな。明らかにそれに対して落ち込んでたよな。私は無罪だろう」

 「いやぁでもほら、もとはと言えば尊が俺たちに対して働けなんて心無いことを言うから、こんなことになったんだろう」

 「じゃあなにか。私は働かない奴のために衣食住を保証しなければならないのか? 金は無限に湧いてくるとしてもそれはいささか癪に障るというのが人の心理だろう」

 「それが人の心理というならば、働かずして楽に生活を送りたいというのが人の心理でもあると思うのは俺や金ちゃんの勘違いかな」

 「詭弁をまるで最もな意見であるかのように標榜するのはやめろ。人数的な問題であたかも私が間違った意見を述べているように感じてしまうだろ。もう勘弁してくれ。そして働け」

 「あいあいさー」

 不承不承に浦島太郎と金太郎は納得した様相を装い、役割分担について少し話し合った末、金太郎は台所に行き少し遅めの朝ご飯を、浦島太郎は掃除を始めてくれた。

 嫌々始めた割には二人とも手際が良く、金太郎は贖罪を一通り確認するなり素晴らしい包丁捌きで料理を始め、新婚ASMRよろしくのトントントンという心地よい音が家に響く。浦島太郎は雑巾で家中の埃という埃を取り除いてくれていた。しっかり換気もしてくれているあたりがありがたい。

 ありがたいのだけれど、二人の主婦力が私よりも高そうなところに、女のプライドなのか分からないけれど悔しさを感じてしまう。

 悔しいとは言っても、でもやっぱりありがたい。

 日中に家事をしなくていいというのは、すごく楽だ。

 しかしながら楽で助かっているし、あれだけ啖呵を切って働けと言っておいてなんだか恐縮なのだが、いざ普段していることをやらなくていいとなると手持無沙汰で今度は私が人間として落ちぶれたように感じてしまう。

 自分よりも人格として破綻していると、どこかで見下していた二人がせっせと家事をしている中、自分は何もしないで寝転んでその様子をただ茫然と見つめているという環境はどうもいただけない。

 私たちはパーティなんだ。チームなんだよ。

 金銭面においては私が全般を負担し、四人の生活において大きく寄与していると言っても、いくら私がとは言っても、結局のところ、ただ道具を利用しているだけだし、本質的なところで言えば私は何も寄与なんてしていないのかもしれないとすら思えてきてしまう。

 足並み揃えなきゃならんだろう。

 役割を、負担を公平に分担しなきゃいけないでしょう。

 こんなんじゃいかんいかんの遺憾の意だ。

 何かすることを見つけなければ。

 いやでもそれにしたって掃除と炊事は二人がやってくれているし、洗濯と言っても洗濯物は特にないし。

 うーむ、どうしたものか。

 そんな傍から見れば羨望の的になりそうな悩みを抱えていると

 「尊! 俺は何をすればいい?」

 快活な声とともに、トイレの扉を勢いよく開け、桃太郎は飛び出してきた。

 あれれ、拗ねると長いんじゃなかったっけ。

 落ち込むと面倒くさいんじゃなかったっけ。

 「もう、垂頭喪気はいいのか?」

 「あぁ、せっかくの異世界だ。くよくよしている時間なんてもったいない。それに浦ちゃんも金ちゃんも悪気はないと言っていたし、そもそも悪いのは何もできない俺だしな」

 おお、存外あっさりと、正しい方向に立ち直ったな。

 いいとこあるじゃんか。

 「そうか、じゃあ朝ご飯を食べ終わったら私が街を案内しつつ、買い物の仕方を教えよう」

 「おう、よろしく頼んだ」

 「大船だよ」

 少しして、体感で言えばまぁ、五分くらいだろうか。

 「みんな、朝ご飯できたよ」

 と、金太郎がテーブルに朝ご飯を用意してくれた。

 パンとベーコンエッグとキャベツの千切りを塩コショウで炒めたものだった。

 いたって普通の朝ご飯だが、自分以外の人の手作りご飯をそれこそ五年近く食べていなかったので、途轍もなく嬉しい。

 そして美味そう。

 「いただきます」

 四人揃ったところで四人揃って、合掌した。

 そして美味い。

 いや、言ってみれば普通の朝ご飯だし想像を絶するような味はしないのだが、想像の範疇の味ではあるのだが、人が作ったご飯は想像を絶するほどに美味しい。

 たまに自炊をする程度だった頃は、人の料理よりも自分の料理の方が美味しく感じることが多々あったけれど、毎日のように自炊するようになってからは人の料理の方が美味しく感じてしまうのは何故なのだろう。

 摩訶不思議。

 「金太郎、料理上手なんだね。これから我が家の料理担当は金太郎にするのも悪くないかもね」

 「あぁまぁ、前世では動物たちに囲まれた生活だったし料理せざる負えない環境だったからな。あ、でも俺は断固当番制を主張する。美味しいと言ってくれるのは満更でもないが、できることなら料理なんてしたくない。自分で作った料理よりも人が作った料理の方が美味しいし」

 「あ、わかるわかる。じゃあ時間も時間だし、今日は朝ご飯と昼ご飯は一緒ということにして、夜ご飯は浦島太郎に作ってもらおうかな」

 「まぁいいけど、買い物には行かなきゃだよねぇ」

 「そうだね、じゃあ後で私と桃太郎と浦島太郎で買い物に出かけよう」

 「えー、俺はー?」

 「金太郎は家で筋トレでもして待っててよ。器具がないから自重にはなっちゃうけどさ」

 「筋トレか。そういえばこの世界来てから筋トレなんてしてなかったな。そうさせてもらおう」

 「うん、頑張れ」

 正直に言って、金太郎はいつ脱ぎだすか分からないから軽率に外出を許すわけにはいかないのだ。

 特にたちが悪いのが、私とて露出狂ではないが暑い夏は室内であれば多少なりとも薄着になることはあるのだけれど、こいつは今の格好を見てわかるように屋内で脱がない。

 ギルドで脱いだことを鑑みれば屋内では絶対に脱がないというわけではないことくらいは分かる。

 もっと危険分子だ。

 外の爽快感に当てられて脱ぐこともあるが、こいつは人の視線に反応して脱ぐ。

 人に注目を浴びるほど脱ぐ。

 犯罪者予備軍なのだ。

 いや、むしろ一軍と言って差し支えない。

 だからこそ、筋トレの提案に対して二つ返事で承諾してくれたことには安堵している。

 僥倖と言っていい。

 勿怪の幸い。

 とまぁそういうことで、私は桃太郎と浦島太郎の二人を連れて、金太郎を家に置き去りにして、買い物を兼ねた、社会科見学を兼ねた、散策に出かけたのである。

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