五年前
五年前、つまり私は中学一年生の頃に一度死んだ。
前の世界というべきなのか、前世というべきなのか、地球というべきなのか。まぁ、そこで死んだ。
死因はよく覚えていない。
というのも、死ぬ原因となった出来事の記憶がきれいに抜け落ちているのだ。
最後に憶えているのは親代わりに育ててくれた祖父の泣き顔。
きっと、私が死ぬ間際、泣いてくれていたのであろう。
そして、私は死後の世界に送られ、己を女神自称する美少女に異世界で暴れているという魔王討伐を依頼され、別に断る理由も、死後会ってみたい人も特にいなかったし、正直言えば、異世界もののライトノベルは大好きだったので悩むことなく異世界に転生することを選択した。
転生特典としてちょっとした特殊能力というか便利アイテムを与えられ、異世界転生への期待は膨らむと同時に、前世は短い人生だったので転生先の世界では順風満帆で悠々自適な生活を長期的に送るために、早々と魔王退治することを決意するのだった
異世界に転生する前に、どうしても気になったので私の死因について女神に聞いてみたけれど、
「管轄外なのでちょっと分からないです」
と、あからさまにはぐらかされてしまった。
一体どんな死に方をしたのだろうか。
本当に気になって仕方がない。
まぁ、前世のことなんてどうでもいいか。
さよなら。今までありがとうじいちゃん。
そんなこんなで異世界に転生することになった。
女神のそれっぽい詠唱の後、私は激しい光に包まれ、眩しくて堪らず目を閉じた。
瞼越しに感じる光が弱まった気がしたのでゆっくりと目を開けると、中世ヨーロッパを彷彿させるような街に僕は立っていた。
ベタである。
ベッタベタである。
しかし、ベタであるが故にワクワクは止まらないのである。
どうやら私は異世界に転生することができたようだった。
きっと私はこれから冒険者ギルドのような場所に行って、とんでもないステータスを秘めていることが露呈し、優秀な剣士や魔法使いを連れて勇者として魔王を倒し、崇め奉られ、順風満帆な異世界生活を送るのだろう。
そんなことを思っていた。
期待に胸を膨らませていた。
ちなみにいうと、まだ中学生なのでそこまで胸は膨らんでいないが、私はこの胸に将来性を感じている。
というか将来性、あれ。
ギルドに行き、冒険者登録を行った。
お待ちかねの魔法の石のようなものに手をかざしてステータスを測定するイベント。
流石に目を輝かせずにはいられず、ジャージの袖をまくって石に手をかざすと、
石から途轍もない光が・・・出ない。
石が盛大に、木っ端微塵に・・・割れない。
「あー、凡俗なステータスですね。まぁでも輝姫尊様は女性ですし、冒険者向きのステータスに長けていないことはあまねくあることですから。あ、でもかなり、いや相当、とうか世界トップクラスで金運が高いですね。これだけの金運をお持ちなのであれば冒険者よりも商人とかになって荒稼ぎすることをお勧めしますが・・・」
「・・・っ!」
なんということだ。女性冒険者に対して世知辛いにも程があるだろ!
女性であるというだけで冒険者稼業を否定されてしまうことが多々あるだなんて、遺憾の意を表明します!
まぁ、女であっても冒険者にはなれるみたいだし男女同権なのかもしれないけれど、それにしたって女性の方がステータスが低い傾向にあるだなんて、許せん。
前世で霊長類最強と言われていた人物は女性だったぞ。
この世界を作った責任者出てこいや。
「いえ、冒険者で、行かせてください。」
せっかく転生したというのに羞恥心でもう一度死にたくなってしまった。
心なしかギルドにいる冒険者らしき人たちが私のことをせせら笑っているような気がする。ひしひしと背中で感じる。
「そ、そうですか。まぁ、これほど高い金運をお持ちならば商人にならなくとも冒険者をしながら生活費を稼ぐことには苦労しないでしょうし、それに実際に主婦と冒険者を兼業なさっている女性冒険者様もいらっしゃいますので冒険者稼業、頑張ってくださいね!」
励まされてしまった。
ギルド中に笑い声が響いているが、絶対私に向けたものだ。そうに違いない。
やれやれ大学デビューならぬ、異世界転生デビューは盛大に失敗してしまった。
しかし、確かに笑われるのも仕方ないだろうと思えるほどに、私の冒険者稼業はかなり苦しいものであった。
街の外に出たところにあるだだっ広い草原に生息するボルボールという球体の、いわゆる雑魚モンスターですら、一時間ほどの時間をかけてようやく一体倒せると言った実力しかなかった。というか、身体能力に関しては転生前と変わったところは全くないと言っても過言ではなかった。
あの女神、転生特典以外は何のサービスもしてくれなかったみたいだ。
まぁ、この世界で言葉が通じている時点でサービスはしてくれていたのかもしれないけれど、この手の異世界転生系ライトノベルには圧倒的身体能力だとか、圧倒的魔力だとか、あるいはその両方といった、無双能力がサービスされて然るべきなのではなかろうか。
それがテンプレートでありベタなものではないのだろうか。
これで魔王討伐?
人をバカにするのも大概にしてほしいものである。
魔王を討伐するためにキーポイントになるだろう転生特典ですら、打出の小槌である。
戦闘に役に立つとは到底思えない。
まぁ、この転生特典は魔王討伐後に優雅な暮らしができたらいいなと、私が選んだものであるし、これのおかげで初期装備を揃えることができたり、雑魚モンスターしか倒せなくとも生活費を稼ぐことができているわけで、実際にこれがなかったらその辺の野で野垂れ死んでいたと思うので文句を言うことが筋違いなのは重々承知しているつもりだし、感謝しているのだが、なんというか、やっぱりあの女神、ケチ臭いよな。
死因すら教えてくれないし。
まぁ、そういうわけで、大した成長をすることもなく、魔王討伐なんてできるわけもなく、五年の月日が流れ、ついに痺れを切らした女神が私のもとに助っ人を送り込んできたということなのである。