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静かなる■■のお話

御劔静斎 『静』を極めた日本の剣士。何の因果か世界を渡ることになる。


シャテラ 大きな力を持つ貴族の一人。気まま、わがまま、マイペースの三拍子揃った。困った貴族様。


シャテラのお父さん 知・政・武の全てに優れた西の領地を納める大きな力を持つ貴族。


イシュタル 王国の闘技場王者イシュタル。王国でも有数の強者。最近のマイブームはネコ。

──才は無いが静はある。

『形に拘らずやってみるがよい』

 それは小さい頃、剣を習い始めた時に爺ちゃんに言われた言葉だった。


「才は無いが静はある……か」




 目の前には人型の案山子が数体立っていた。



 審判が手をスパンッと叩く。



「始めっ!」



 静斎は鞘に手を掛けすっと静かに目を閉じた。



 観客の唾を飲む音がやけに大きく聞こえた。



 身動ぎ一つせず、静かにその時を待つ彼の姿を見て、まるで明鏡止水だ……と誰かが呟いた。



 彼はまたすっと静かに目を開けると







 一閃。水が流れる様に自然と振るわれた刀は、まるで何もしていないかのように静かな一太刀だった。





 観客は静かにその時を見詰めている。





 いつの間にか鞘に仕舞われていた刀。終わったと言わんばかりにその場を去る静斎。




 そこには綺麗な切り筋の付いたバラバラの案山子があった。




 騒然とする観客。アナウンスが流れる




「ゆ、優勝は御劔静斎みつるぎせいさいですっ!!」


 歓声が割れた──




 ──時は聖歴581年。場所はアドミット王国、国家指定危険区域“魔女の森”。そこに訪れる一人の少女が居た。


「はぁはぁはぁはぁ……!?」


「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!」


「なん、でっ、こんな……事にっ!?」


 息絶え絶えにも翼の生えた化け物から逃げ続ける少女。


 彼女が此処へ訪れた理由は単純明快『面白そうだから』


「こんなの、が出るなん、て聞いてなっ、いっ!」


 人間の足で化け物から逃げられているのは、一重に遊ばれているからである。その気になればあの大きな口から出たブレスで黒焦げだろう。


 逃げていると人陰が見えた。


「危っ! 逃げ、てっ!!?」


 しかし、少女は不運なことに足を躓かせてしまう。これでもう命は終わった。そう悟った少女。しかし、先ほど見た人陰が


「あなただけでも逃げてっ!!」


 自分のことを棚に置き他人の心配をする少女。


 しかし、その人陰……否、その和服を着た男は──


──とても静かであった。


 自身の数十倍程もある化け物を見てもその心に一切の揺らぎは感じられない。






 明鏡止水。誰が名付けたものか、それはとても──否、酷く的を射ていた。





 迫る剛腕、当たれば一瞬であの世行きだ。





 決着はほんの一瞬だった。否、一瞬すらも少女には認識出来なかった。それは斬られた当人すらも。





 ズドーン、化け物の巨体は静かに音を立てて倒れた。





 少女は目を見張った。





「うそ……竜を倒すなんて!?」





「貴方の名前は?」




 御劔静斎と名乗る。




「セイサイ……うん、よし決めたっ!」




 少女は静斎にビシッと指差すと




「貴方に私の英雄譚を作る手伝いをさせてあげる!」





「シャテラその者は誰だ?」




「あら? 御父様お調べにならなかったの? こ、い、つ、は、」




「私の人生を彩ってくれる重要な人よっ!」



「なん、(人生を彩ってくれる=大好き

重要=超愛してる)だと……」




「ならんっ! 其奴をどうしてもお前の傍に置きたいのなら其奴の実力を計ろう。我が家に相応しい者かどうか……な」


「王国の歴史どころか、他国の戦争の真実まで知っているとは貴様何者だっ!?」


「家事・掃除・洗濯・貴族様宛の接客対応も完璧だと……!?」


「全く澱みない動作。まるで時が止まっている様だっ!?」


「竜を墜としたと耳にし、どんな猛者かと思えば……まさか化け物とは思わなんだ」


「王国から喚んだ剣聖が歯が立たないとは……最早手の内ようなしか……」


◆◆◆◆◆◆


「闘技場に出なさいっ!」


 理由を問うた。


「月一回行われるトーナメントで優勝すれば名声が上がるからよっ!」


『遂に待ちに待った決勝戦っ! 登場するのはっ! 我が国最強の闘士っ! イシュタルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!』


 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおとおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 闘技場に凄まじい歓声が鳴り響いた。


 『それに立ち向かうのはっ! これまでの闘いを全て無傷で勝ち上がって来た無名の剣士っ! セイサイィィィィィ!!!!!!!』


 殻の中ではイシュタルとセイサイが相対していた。


「君の事は一目見たときから気になっていたんだ」


 静かな瞳をイシュタルに向けるセイサイ。


「その目。その立ち振舞い。そして剣筋。それらを見て思ったんだ──」


──君は僕を殺せるなって


「楽しみなんだ、すごく。ただ、ね。僕が君を楽しませられるか分からないからさ、その静かな目を見開かせられる位には頑張るつもりだ、よっ!」


 そういってイシュタルは超音速でセイサイに肉薄し、振り下ろした剣は……宙を斬った。


 その目は静かだ。


──何をしているか分からない? いいや、何もしていないんだよ。


 静止和音。鳴らずの音。この男、音を鳴らすことなし。心臓の音すら聞こえぬ。ただただ静止するのみ。その男からは何も聞こえぬ。胸の鼓動も、心の高鳴りも、一切。


 そこに静はある。


 音すら無くすその能力は──


 独力のみでそこに至った男。能力などただの飾り。その“静”の本質は男の技量に依るものである。


「──!?」


「……」


 いつの間にか終わっていた。静かな終わりだった。その男には傷一つ無く。イシュタルにも傷は無かった。しかし勝ったのは──


「完敗だ」


──セイサイだった。


『──空気の動き、剣の傷み、筋肉が収縮する動き、剣を抜いたという事実すらもそこにはない。そこにあるはずのものがないという恐怖。それがアヤツの正体じゃ』


『──そんなのにどうやって勝てばいいのよっ!?』


『──勝てぬよ、アヤツは何もしておらんからの』


『──そんな……』


「静かじゃな、まるで何とも思っておらぬではないか」


 勝利したにはその瞳は静か過ぎた。

てきとー(締めの挨拶にゃ!)

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