31
全身が軋むように痛い。
頭がどうにかなりそうなほど雑音は大きくなり、痛みもひどくなっていく。
『ヴェルーナ』
雑音の中で、それだけが鮮明に聞こえた。
『ヴェルーナ。君は何者だ』
「わ、わたし…はっ…」
声はさらに明瞭にヴェルーナの頭に響く。
『ヴェルーナ。君は人間にはなれない』
「ちが、私は…私は!」
ヴェルーナが口を開けば雑音が大きくなり、さらに声は鋭く語る。
『ヴェルーナ。君は化物だ』
「ばけ、もの…」
誰かが言っていた。
『ヴェルーナ。君は化け物なんだ』
「私が…私のせいで…」
もう雑音は聞こえない。
『ヴェルーナ。人間は君を愛さない。誰も君を愛してはくれない。何故なら君は』
化け物だから。
「ヴェルーナ、ヴェルーナ!ちっ、なんだこの魔力…こうなったら…!」
瞬間、今まで何も見えなかった景色が一気にヴェルーナの視界を埋め尽くした。
目の前にいる男は、腕をかざし何かを唱えている。
何をする。
何をされる。
痛いのか、苦しいのか、辛いのか。
それは嫌だ。
嫌なんだ。だから―
「『ああああああぁぁぁぁっ!』」
獣の如き咆哮が、闇を引き裂いて風となり刃となった。
熱い。
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い。
……苦しい。
「ぐあぁっ!」
「っ!?」
そのうめき声で、ちぎれそうになっていた理性の鎖が強く巻き付いてヴェルーナはようやく自分を取り戻した。
目に飛び込んできたのは、綺麗に手入れされていた低木がボロボロになってレンガが敷き詰められていた地面が所々破壊されている、いつかに見た光景だった。
そして、その向こう側。
そこには地面に倒れている、ゲーティスの姿があった。
どうして。
さっきまで、手の届くところにいたのに、何故今はあんなに遠くで。
「う、そ…私…」
力を使ってしまったのか。
「私が…これを…やってしまったの…?」
この力で、また破壊してしまったのか。
ぴくりとも動かないゲーティスに最悪の結末が脳裏を駆け巡った。
まさか、そんな。
「…っ、ぐっ…げほっげほっ」
「ゲ、ゲーティス!!」
よかった、生きていた。
そう思って、駆け寄ろうとしたのに足が動かない。
ゲーティスは、なんとか起き上がろうとしているが肩を負傷しているのか上手く自分のバランスを保てていない。服だって、あちらこちら汚れてわずかに切れていることがわかった。
ゲーティスを傷つけたのは、自分だ。
「…ヴェルーナ」
「…!」
かすれた声に顔を上げると、菫と目があった。
まっすぐに、ただまっすぐにこちらを見つめていた。
「――っ」
今度こそ足が動いた。
それなのに、ヴェルーナの足は彼から遠ざかっていく。
これ以上彼の傷ついた姿を見たくなかった。
ヴェルーナは、その地獄のような光景から逃げ出した。