第一章7 『それぞれの思い』
――ドタンッ。パタンッ。トンッ。ガジャン。
アダマスに一歩一歩と近づくジークの身体に次々と付着する部屋中のモノ。
重なるように膨れ上がるモノは、次第にジークを球体のように包み込み身動きを封じる。
アダマスはジークから目を逸らさず、
続けて後方にある赤い鉄扉を閉ざすため腰にあてた手を使い「磁極」を刻んだ。
閉ざし始める2枚の赤い鉄扉。
そして、鉄扉が閉まりかけると同時にジークの足の動きも停止した。
――ギギギギッギ。
身動きが思うようにとれずジークの身体から鳴り響くモノとモノがこすれ合う音。
室内のほとんどモノがジークの身体に付着し、ジークは大きな固塊となる。
静まり帰る部屋。
シャルルは即座に立ち上がり、閉まりかける鉄扉の中へと急いで足を進めようとする。
しかし、シャルルの手首を握る雨月。
「無礼をお許しください」
涙ぐんだ瞳で雨月を見るシャルル。
「あなたに私の人生を咎める権利はないでしょ!」
シャルルのお腹から出る精一杯に力んだ声。
「私の、私の10年間を支えてくれた、たった1人の家族なの……」
少し緩む、雨月が握る手。
「男ども!シャルルを扉の中に絶対に入れるんじゃないよ!」
扉の内から声を荒げるアダマス。
その声に反応するようにもう一度、雨月はシャルルの腕を強く握った。
地に視線を落とし座り込むナキ。
「シャルル、今の戦いを見てわかっただろ。俺たちには何もできねぇんだよ」
そうナキが言葉を漏らすと、シャルルはキッと瞳に力を入れ、ナキの顔を見るように首を振り向けた。
「だからなにっ!あなたは諦めても私は諦めないわ!」
歯を食いしばるナキ。
「クッ。諦めない?」
「雨月君。離してっ!離してよ!!」
シャルルは雨月に掴まれる腕を強く引っ張り返し、必死に離そうとする。
が、雨月は黙ったまま掴む力を緩めず、シャルルから視線を逸らし続けた。
ナキは立ち上がりシャルルに近づく。
そしてシャルルの前に立つとシャルルの瞳をじっと見つづけた。
目を合わせる2人。
「諦めなくても俺たちに力がなけりゃ、何もできねぇ!って言ってんだよ!何でわからねぇ!!何もかも失うし!それに、何も救えやしねぇんだよ……」
ナキは悔しそうな顔でシャルルから目を逸らした。
しかし、シャルルは強い眼差しでナキを見続ける。
「だからなにっ!あなたの気持ちを押しつけないで!例え結果がそうだったとしても!それが間違っていたとしても!自分で何も選択できずに、誰かに生かされるのはもう絶対に嫌なの!」
「……それなら、死んだ方がまし!!」
目から涙を流すシャルルの険しい顔をナキは見つめ……
雨月はシャルルの手首を握る手を放した。
(俺にはこれ以上この子を引き止めることは……)
黙り視線を落とすナキの隣を通り過ぎ、閉ざしかける鉄扉の中へと入ろうとするシャルル。
「でも……シャルル、ダメだ」
「シャルル!!」
ナキは振り返り、呼び止めようと声を上げた。
だが、シャルルの足は止まらない。
「バカ娘……」
その様子を聞いていたアダマスが指のタクトを振るう。
――ガッシャン。
閉ざしかける赤い鉄扉が止まる。
その隙を狙ったようにモノの固塊から出るムチを握る1本のジークの腕。
――ガッジャン。
その直後、ジークの声が固塊の中からかすかに聞こえ……
「俺様はこの時を待っていたぜぇ」
そして、ジークは固塊から出た腕でムチを勢いよくシャルルに向けて振るった。
それに即座に反応し、阻止するようにアダマスがシャルルに向かって指を動かすが、しかし……
(間に合わない……)
シャルルの目の前にまで迫りくるムチの先端の刃。
目を見開くシャルル。
――ドォン!
シャルルを押し退けるナキ。
「そうだぁ。お前は必ず来ると思っていたぜぇ、紅髪!」
――ブッシュ!
ナキの腕を切り裂くムチの先端の刃。
そして、即座にナキの右腕にしゅるりと絡みつく。
「くっそう。離れねぇ!」
腕に巻きついたムチを外そうとムチを強く引っ張り握るナキ。
「当たれ。記憶の旅」
と、ひっそりと呟くジーク。
「まずいっ」
アダマスはそう言うと即座にムチのグリップを握るジークの指へ「磁極」を刻み込んだ。
グリップを掴むジークの指が徐々に引力で剥がされようとするが……
「ハッハッハッハ」
ジークが笑い出す。
「なるほどなぁ!やっぱ、紅髪はおもしれぇ男だ。まだまだ探りがいがありそうだぜぇ」
そう固塊の中で意味のわからないことを呟くジークは上唇を舌でペロリと舐めながら笑みを浮かべた。
そして、次第にジークの掴む手からムチのグリップは離れ、床へと落ちた。
――ギギギッギギ。
ジークの身体にまとわりつくモノがこすり合い、また激しく音を鳴らす。
――と、次の瞬間。
ピタッと音が鳴りやむと……
次はジークが身動きできなくなったのではなく、ジークにまとわりつくモノの固塊が一斉に粉砕したのだ。
――ドガァアアアアアアアアン。
ジークの身体から床へと落ちる物々。
――ガラッ。ガランッ。ゴトッ。
「ナキ!!シャルルを連れて早くいくさね!!」
アダマスはナキを見るように振り返り、声を上げた。
「ばぁーさん、少し黙ってろ」
そうジークが言った。
――瞬間。
アダマスの背中からは真っ赤な飛沫が一気に吹き出す。
その光景を見て瞳孔を開くナキとシャルル。
口を開け唖然としているようにも見える2人。
――ポタッ。ポタッ。
ジークの握る鋭利な包丁。
包丁の先にまとわりつく赤い液体。
「はしれっ!!!」
雨月がその隙を見て鉄扉の外からナキに向かって大声で叫ぶ。
その声により正気に戻るよう瞳に光を戻すナキ。
「アダマスさんっ!!」
叫ぶシャルル。
「シャルル、いくぞぉ!」
シャルルの手を引っ張るナキはシャルルをすぐさま担ぎ上げると鉄扉の外へ向かって一目散へと走った。
「アダマスさん。アダマスさん!」
後ろにいるアダマスを見ながら、手を差し伸べるシャルル。
視線を暗く落とし口を噛みしめながらも必死に走るナキ。
1歩、2歩、3歩とふらつきながらシャルルの方へと向かい歩くアダマス。
ジークが不敵な笑みを漏らす。
「いかせるかよ」
アダマスの背後から凄まじいスピードで消えるジーク。
ジークは即座に3人の方へと向かう。
しかし、アダマスは床へと倒れ込もうとした瞬間に自身の指先を3人へとまたタクトのように振るい……そして、笑った。
移動中のジークはアダマスの気を察知したのか、アダマスの方へゆっくりと振り返る。
「ばぁーさん、てめぇ!!」
雨月に凄まじいスピードで引き寄せられるように飛ぶナキとシャルル。
――ドサアアアアアァ。
2人を受け止める雨月。
――キュイィイイイン。
閉ざされる隙間から見えるアダマスの温かくも、どこか満足したような笑顔。
――ガッシャアァン。
完全に閉まりきる扉。
「あぁ~あ。逃げられちまったぜぇ」
ジークは閉まった赤い鉄扉の前で足を止めると、残念そうにそう言った。
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シャルルは、すぐさま立ち上がり扉へと近づく。
――ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドン……。
重く大きく赤い鉄扉を何度も強く叩くシャルルのか弱き拳。
歯を食いしばり、地を見るナキ。
赤い鉄扉からそっと目を逸らす雨月。
「いややぁあああああ!!いやだぁあああああ。アダマスさん!!アダマスさん!アダマスさんっ……」
涙を頬へと流すシャルル。
――ドンッ!ドン……。
シャルルが叩く鉄扉の音は次第に弱くなり、瞳から光を消すようにシャルルはそっと地へと崩れ落ちた。
「ア、ア、アダマスさん……」




