第一章6 『七英傑4席 VS 元五英傑3席』
アダマスが鉄扉を開くために両の掌を胸の前から左右に広げるように動かす。
――ギギギギギギギギッ。
動き出す赤い2枚の鉄扉。
――ガッシャン。
あっという間に完全に開く鉄扉。
――カツンッ。カツンッ。
暗闇から聞こえる足音。
「お~い。ばぁーさん。何の真似だぁ~?」
「また口の聞き方を教えないといけない輩がいるのかねぇ。ジーク」
「てめぇがここをしっかり管理しねぇ~と俺様の鉄壁のオモチャ箱の意味がなくなっちまうだろがぁ」
ジーク看守長の姿が部屋の明かりに照らされる。
と、その瞬間――。
「うおおおおおおおおおお!!」
大声を上げるナキは拳を構え、左から――。
そして、雨月は右から――。
2人は一斉にジークに向かって走り出す。
「お前さんら!!」
2人の行動を見たアダマスが焦った様子で言葉を吐いた。
ぼーっと突っ立っているジーク。
「あぁっ?」
ジーク看守長はナキと雨月の動きに合わせてゆっくりと瞳孔を動かすが、
その動きに体を反応させる様子もなくただ突っ立ていた。
そして、ぼんやりと突っ立つジークへ間を詰めるナキは右拳をジークの頬へと振りかざし――。
雨月も同時にカラ傘をジークの腹部へと振りかざした。
――と、その瞬間。
ジークがニヤリと不敵に口角を上げる。
「俺様は、今ばぁ~さんに話してんだよぉ!!」
その言葉を吐くと同時にジークの右拳がナキの頬に――。
そして、ジークの左足が雨月のカラ傘へと――
一斉に入る!!!
――ドォァアアアアン。
殴り飛ばされるナキ。
蹴り飛ばされる雨月。
ジークの両端へと大きく突き放される2人。
まず壁に打ちつけられた雨月が煙の中から姿を現す。
「やっぱり……なんて強さだ……」
カラ傘の生地を大きく開けジークの打撃をかろうじて防いだ雨月。
「ナキっ!!」
次に聞こえるシャルルの叫び声。
全員がナキの方向に視線を移す。
「うっ……グハッ」
ナキの口から勢いよく吹き出る血液が宙へと舞散る。
「イテテテテッ」
腹部に刺さる、斜めに折れたスタンドライトの支え棒。
腹部からポタポタ床へと滴る赤い液体。
「うぉあああああ――」
ナキは痛みを我慢するように叫びながら腹部に刺さる支え棒を抜く。
――グッシュッ。
シャルルはスカートの端を手でちぎりながら急いでナキに近づく。
そして、止血する間もなくナキの腹部を見てシャルルは大きく目を開いた。
「大丈夫だシャルル。オレさ、昔から怪我の治りだけは早いんだ」
元々へその出た服装であったナキの腹部の傷口が一瞬にして消え去っている。
「ほらな!」
「この能力……」
シャルルは口を押えてナキの腹部を見たまま黙り込む。
「いいねぇ~。やっぱりお前は色々と試す価値がありそうだぁぜぇ」
「おや、あの子がCROWNRINGの1つをねぇ。なるほどぉ」
――ガタッ。
足をふらつかせるナキ。
「あれっ……」
「ナキっ?!」
ナキを即座に支えるシャルル。
「わりぃ、シャルル」
「『気力』の消耗だねぇ」
そう言いアダマスはナキからジークへと視線を戻した。
と同時にその瞬間――。
アダマスは腰に当てていた右手を自身の顔の前に出した。
その動きに気づくように視線をアダマスに戻すジーク。
「ばぁーさん。何の風の吹き回しだ。随分とヤル気じゃねぇかぁ」
「ジークよ、年配者をあまりナメないことだねぇ」
「へっ」と笑うジーク。
「てめぇをナメたことなんて、一度もねぇぜぇ」
そう言葉を漏らすジークを見てアダマスは少し口元を緩ますと、ジークの身体に向かって右手の指を無造作に動かした。
「マグネット」
そうアダマスが小さく口に出すと――。
直線にいるアダマスにジークが勢いよくムチを振るう。
「させねぇーよ」
アダマスに凄まじいスピードで向かうムチの先端の刃。
「ばっちゃん!危ねぇ!」
ナキが叫んだ。
アダマスの額でピタッと止まる刃。
「反応するねぇ~」
いつの間にか、額の前に出ているアダマスの左手。
ジークの振るったムチの刃はアダマスの2本の指の間に挟まれている。
そして、アダマスはその2本の指を一気にジークの方向へと向けた。
「追尾磁弾」
ジークの元へ風を切るように向かい戻るムチの刃。
――バシッ。
ジークは、その刃を胸の前で即座に掴んだ。
がしかし、刃を掴んだ手から滴る血と永続的に入る握力。
ジークの手の震えが勢いを余す刃の動きを物語っている。
「さっき俺様の胸に「N字」を刻み、刃に「S字」を刻んだってわけだな。自然能力『マグネット』……やっぱりやっかいな自然能力者だぜぇ」
ジークの刃を掴む手の震えが次第に止まる。
力が抜けたように地に落ちるムチの先端。
――カランッ。
雨月がふと口に出す。
「やっぱりアダマスさんって……。あの伝説の元五英傑3席、磁愛のアダマスじゃ……」
「どんどんいくさねぇ。ジーク」
アダマスは出た右の掌を手前へと引っ張る。
「磁固め」
引力に引き寄せられるように突き出るジークの胸。
ジークの身体はアダマスの方へと急激に引き寄せられる。
「うぜぇなっ!」
ジークは引き寄せられる力に逆らわず、逆にその力を利用し瞬時にアダマスの隣へと近づいた。
――そして、
ジークはムチの持ち手のグリップ裏をアダマスの額に向け勢いよく振るった。
アダマスの額に勢いよく近づくグリップの裏面。
「磁力移動」
床と反発するように姿を消すアダマス。
空振るジークの攻撃。
「やるねぇ~」
そして、そのまま体制を崩したジークは部屋の奥にある壁へと引き寄せられる。
――ドォグァアアアン!!!
引力に逆らうことなく壁に打ちつけられるジーク。
立ち込める煙。
――ゴトッ。ゴトォッ。
壁の瓦礫が崩れ落ちる。
「すげぇ……」
ナキはその光景を見て、ぼそりと呟いた。
――ブーーーーォオン。
時間を置くことなくジークの周りに立ち込める煙を割く、飛来物。
その飛来物である瓦礫の破片は銃弾のように速くアダマスの方へと向かった。
アダマスはその瓦礫の破片に視線を移すやタクトのようにまた腕を振るう。
「磁石相殺」
軌道を変え近くの椅子に引き寄せられるように衝突する瓦礫の破片。
――ガッシャーーン。
瓦礫と椅子が相殺される。
「これが最強クラスの戦闘……俺たちの出る隙が全く無い」
雨月が小さな声で呟く。
部屋に立ち込める煙が晴れ、姿を現すジーク。
「やっぱりやるねぇ。元五英傑さん」
「腐っても元英雄さ。今の七英傑にいる奴らなど、おばばの頃には戦場にゴロゴロいたわい」
「いうねぇ~」
アダマスは再び磁力移動でジークの正面に移動する。
そしてジークの前に現れると、すぐさまジークの両手両足へ指をタクトのように振るい「磁極」を刻んだ。
「四肢磁縛り」
壁に引き寄せられるジークの四肢。
「接着するものがなかったら効力はきれんだろがぁ!」
――ガァアアアン。
壁に張りつく勢いを利用し背後の壁を大きく粉砕するジーク。
「そんなに俺様を縛りつけんじゃねぇーよ。縛りプレイは好きでも。縛られプレイはお断りだぜぇ」
「そうかい、てっきり美女に縛られるプレイがお好みかとねぇ」
少し笑みをこぼしアダマスは言った。
「全く冗談きついばぁーさんだぜぇ」
――カキンッ。カキンッ。
アダマスの向かいに立つジークはムチを床に叩きつけながら、ゆっくりとアダマスの方へと足を運ぶ。
「そうかい?男の扱いには慣れているもんだがねぇ」
スッと立ち止まるジーク。
「だとしてもよ、ばぁーさん。後ろの3人を守りながら俺様とヤれる気でいるのかぁ?」
アダマスの背後に突っ立っているナキ、シャルル、雨月。
「そうそう守る気なんてねぇわい。だからお前さんをあの子らと扉の前から離したんだよ」
自身の肩の隣で両手の掌を天へと向けるアダマス。
「年だねぇ~。少し磁極を刻むのに時間がかかってしまったが……」
――ガタガタガタガタッ。
揺れ動く、室内の物々。
「なっ!!」
ナキとシャルルが驚いたように目の前のアダマスの周囲を見る。
宙に浮かぶ椅子や机、様々な家具。
それも部屋のあらゆるモノが大量に。
「あの量を均一に浮かせる磁極線をこの短時間で……部屋中に刻んだと言うのか」
雨月も驚いた様子でアダマスを見た。
「どれだけの技術と『気力』が……」
「さぁ!後ろの若造ども!早く行くさね!」
「それと男ども!シャルルを頼んだよ!」
3人に背を向け声を上げるアダマス。
「なるほどねぇ。何の義理があるのか知らねぇが本命は後ろのやつらの逃亡かぁ」
そう言うとジークはムチを即座にナキに向かい振るった。
――カキンッ。
ムチの先端とガラスコップがぶつかる。
軌道が変わるムチの先端。
ムチの方向へ2本の指先を集中し向けるアダマスが立っている。
「無駄さね。そのムチはこの浮遊物を裂けては通れないね」
「アダマスさんっ!!」
声を上げるシャルル!
ナキに視線を移す雨月。
ナキは動かず、ただじっと突っ立ちアダマスとジークの戦闘を見ていた。
ジークに次々と向かい飛ぶ、室内の飛来物。
ジークは身軽くムチと手練れた体術で自身に向かうモノを破壊していく。
がしかし、ジークの体に少なからずと磁力によって張りついていく細かく散る飛来物。
「ぐずぐずしてんじゃないよ!」
「お前さんたちには、お前さんたちのやることがある!」
アダマスは大きな声で、足を止める3人へ訴えかける。
ナキを見る雨月。
(どうして、この男は動こうとしない……)
「おいっ!お前!聞いているのか!……ナキッ!」
ナキは目が覚めたように口を開いた。
「すまねぇ……」
「全く世話が焼けるねぇ。少々手荒だが……」
アダマスはそう言い、空いた右の手を腰にあて、後ろにいるナキ達の体に即座に「磁極」を刻んだ。
その直後、ナキ、雨月、シャルルの3人は赤い鉄扉の外へと飛ばされる。
「アダマスさん!!!どうして!」
叫ぶシャルル!
――ズシャアアアア。
鉄扉の外に放り出され、地に倒れ込む3人。