第一章28 『黒牛ヴィックの紹介劇』
大部屋の中央にいるロカへヴィックが近づく。
「総隊長は少し休んでくれ。後はオレが説明するので……。それに総隊長も雨月君も傷の手当をしないとな」
「お気遣いありがとう、ヴィック。それじゃ頼むわ」
ロカはカウンターの近くの椅子に腰掛ける。
「リリィ、ロア!2人に手当てしてやれ」
ヴィックが声を上げる。
「へ~い」
リリィは返事をすると椅子から降り、トコトコと歩きカウンター奥の扉へと救急箱をとりに向かった。
「雨月君もこっちに来て」
「なんか、すみません」
雨月はロアに呼ばれるとロカの隣へと座る。
「もう隊の一人だろ。気にするな」
カウンターに座るシドが雨月に向かって言う。
「はい」
そして、ヴィックが勢いよく口を開き……
「ナキ君、雨月君よく聞けよ!まず、ここは何度も言っているが革命軍支部である特殊捜査部だ。まず革命軍は知っているかな?」
「全然わからないっす!」
自信満々な様子でナキは答える。
「天帝国と敵対関係にあり、世界で起こる数々の事件に関係していることくらいは……」
続いて雨月が返答をした。
近くのテーブルの椅子に座るナキとその隣にちょこんと座るコルト。
(ずっと思ってはいたけど、ナキは本当にこの世界のことを何も知らないんだな……)
雨月がふとナキを見た。
「うん。おおよそ雨月君の言った通りだな。まぁ簡単に言うと……はい!そこのコルト君わかるかな?」
「はい!革命軍は新しい帝国を作る人たちが集まるところです!」
「はい、ご名答。コルト君よくできました!」
ヴィックはコルトを見てとろけるような笑みをこぼす。
「はい!」
「まぁ、新帝国建設なんて大層には言ってはいるが、俺たちは本当にその実現を目指しているんだ。10年前の戦争によってこの世界の全てが変わってからはな……。だから今の天帝国が変わらない限り、俺たちは戦い続けることになるだろう」
(10年前の戦争……)
雨月は下を向き暗い表情になる。
「あぁ。そして、ここで俺たちがやっていることは主に天帝国の情報などを秘密裏に取り扱っている」
コルトがナキの横顔を不思議そうに見つめている。
凄い真剣な眼差しで唇を噛みしめながらヴィックを睨みつけるナキ。
「ナキ兄ちゃん大丈夫?」
「なめんなよ。……コルトだっけ?」
うん。っと頷くもコルトはナキの顔を見ながら冷や汗を流した。
(ナキ兄ちゃんは何と闘ってるの…)
リリィとロアに手当されている雨月とロカ。
ヴィックは説明を続ける。
「だから、俺たち特殊捜査部は世界各地に情報網を張っていて、王都へ潜入捜査したり、天帝国に関わる世界の国々を巡ったりなどして、常に極秘裏に情報を集めているんだ」
――プシュウ~。
ナキの頭から出る煙。
「父ちゃん!ナキ兄ちゃんが!」
ヴィックの言葉を理解できないナキは意識を失い、テーブルに顔を伏せた。
「ナキ兄ちゃん、ナキ兄ちゃん!」
ナキの肩を揺らすコルト。
それを見てヴィックは苦笑いをする。
(そんなに難しい話なんてしていないはずだがな……)
「まぁナキ君は、またコルトと一緒にオレの隊のリリィ先生の授業を受けるといい」
そう言うとヴィックは続けてメンバー1人1人の顔に視線を移し、紹介を始めた。
「それから次は革命軍のメンバーを簡単に紹介しよう。まず革命軍特殊捜査部をまとめる総括がそこにいる総隊長のロカ。最強の能力者に名付けられる帝の称号から『雷帝のロカ』とも呼ばれている」
「さっき出て行ったのが1番隊隊長のアスラさん。見てわかったと思うがめちゃくちゃに強いおっさんだ」
「そして、1番隊の副隊長は今は療養のため革命軍の本部にいる」
「でだ、雨月君の隣で飲んでいる男が長刀の使い手2番隊隊長シド」
「その副隊長が雨月君を手当している狙撃手のロア」
「オレが5番隊隊長で、天帝会からは黒牛なんて呼ばれ方をしている」
「あとは俺の隊の副隊長のリリィだな」
「……そして、なんとなんと!ナキの横にいるのがオレの自慢の息子コルトだぁ!!」
ヴィックは最後にドヤ顔で息子を紹介すると視線をコルトへ移した。
「つまり、5番隊隊長は親バカってことだな」
シドが水をさすように口を開く。
「うるせぇ!トンガリ頭!」
「言われてんぞ、ダークボール教徒」
シドがアフロ男に向かって指さす。
アフロ男がシドに言い返す。
「ダークボール教徒……ってか、どう見たらオレがトンガリ頭になるんっすか!ってか、シド隊長が言われてんすよっ!」
「はい、ダークボール教徒の処刑が決定。怪しい団体はオレが破滅させまーす」
しれっとシドが長剣に手をかける。
――その瞬間。
アフロ男はすばやく自身の髪を一点に束ね、アフロ頭を一瞬にトンガリ頭へと変形させた。
「あーあぁ、ってか僕でした。僕……(泣)」
「もーっ、シド隊長。黒マリモさんをいじりすぎですよ!可哀そうじゃないですか!」
「ってか…ロ、ロアさん?」
「ん?」
ロアは不思議そうに綺麗な瞳でアフロ男の方を見た。
「シド隊長には私から言っておくから!任せて!」
(この人庇ってくれてるけど、黒マリモって言ったことに悪意の欠片が微塵もなかったーーー(泣))
ロアに包帯を巻かれる雨月が口を開く。
「そういや3番隊、4番隊や他の隊はいないのですか?」
隣にいるロカがそれに反応するように答える。
「3、4番隊は各々の任務で世界各地に今はいるんだ。たまに帰ってくることはあるけどね。そうだ、また次はみんな集めて2人の歓迎会がしたいな!あ、あと6番隊もいるよ」
「そうなんですね」
「あれ、6番隊の隊長と副隊長は今日いるはずなんだけど……」
黒いコートに包まれた6番隊と思わしき者の1人がハレンチな女性の写真を数枚、片手に持ちながら大部屋の2階で1人座っている。
そして、もう1人の6番隊と思わしき女性は拠点の中にあるどこかの暗い部屋で鼻提灯を膨らませ寝ていた。
ナキは飯を頬張りながらコルトに説明を受けている。
「ナキ兄ちゃん!だから、これがこうでこれがこうなの!」
「なるほど!よしわかったぞ。次はコルト、肉を持ってこーい!」
コルトはカウンターにいるセクシーな格好でエプロンをしたお姉さんから料理を受け取り、肉の乗った皿をせっせとナキの元へと運ぶ。
「な~にっ!オレの息子をこきつかってんじゃ!」
ヴィックが近くの空樽をナキに向かって投げつける。
ナキは額に酒樽をぶつけると椅子から崩れ落ちた。
「いってぇえええ」
額を押え痛がる様子のナキ。
床に転がるナキを見て慌てるコルト。
「父ちゃん、やりすぎだよ!」
そして、ナキは何ともないようにムクッとすぐに立ち直り、口に肉を咥えると机の上でヒーローのようにポーズをとった。
「見ろ、コルト!オレの回復力!」
「おぉおお~」
コルトが拍手する。
それを見て雨月は薄っすらと笑みをこぼし……
その雨月の優しそうな横顔を見てロカも笑った。
「ロカさん。どうかしましたか?」
「べつに」
ロアは呆れた様子で口を開く。
「子供同士で共鳴し合っているのよ」
「まぁ楽しけりゃいいけどさ」
ヴィックもやわらかく微笑んだ。
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カウンターから、なみなみと垂れ落ちる液体。
「じゃぁ~~~」
リリィはロカの傷口に大量の消毒液を垂らす。
「いってぇぇぇえ」
ロカが叫ぶ。
「ロカ総隊長~」
そうリリィは寝言を吐くとロカの背に寄り添うようにカウンターの上で眠った。
「勘弁してよ、リリィ」
ロカが苦笑う。
「総隊長~。こいつじゃダメです。オレがやってあげますよ」
シドが頬を赤らめながらフラフラとロカへと近づく。
「あぁ、いいのかい。頼むよシド」
ロカが笑みをこぼす。
「じゃーーーーー」
またまたロカの傷口に大量に流れる消毒液。
「いってぇぇぇえ」
ロカは叫び、少し涙目になる。
「総隊長~」
シドもリリィと同じくロカにもたれかかるようにロカの隣の椅子に座りながら寝落ちた。
「お前らなぁ…」
ロカは眉間にしわを寄せると笑みを浮かべた。
――と、その瞬間。
ロカは眠るリリィとシドの肩に手をそっと乗せる。
――ビリビリビリッ。
2人の体には小さな雷が流れはじめ……
一瞬にして一気に2人の全身体へと雷を巡らせた。
――バァーーン。
大きく叫ぶリリィとシド。
「これでオレの痛みが少しはわかったかな?」
満足そうにロカは笑みをこぼした。
丸焦げになりカウンターにうつ伏せになる2人。
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ヴィックはカウンターのロカや雨月、ナキとコルトに視線を移し、騒ぎ舞う大部屋内を見渡した。
「はぁー。もう、誰もオレの話を聞いていないな……」
苦笑いするヴィック。
「ってか、きたぞ。ついに俺たちの紹介が……」
アフロ男を筆頭に未紹介のメンバー達がそのヴィックの様子を見るや笑みを浮かべて言葉を吐いた。
「あっ、そうだったな、お前たちの紹介を忘れていた。あとはもろもろ・・・」
「隊の人達だ」
「おい!雑ぅううううう!!」
アフロ男を筆頭にメンバー達が激しくヴィックへとツッコミを入れる。
そして周りのメンバーを見てナキは平然とした顔で口を開く。
「なるほど。隊の人達なんだな、よろしく頼む!」
「ってか、なんで、お前はそこだけ理解はぇんだよぉ!!」
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雨月の手当てを終えたロアがロカの肩に包帯を巻き終える。
「終わりましたよ」
「ロアありがとう。助かったよ」
はだけていた服の布を肩に被せ、ロカが立ちあがる。
「ま、説明はそんなものかな。ってことで、ナキと雨月は明日から強くなるために修行してもらうので、よろしく!……あ、そうそう。君たちの師は明日発表するから楽しみにしててね!みんな今はこんな感じだからさ……」
ロカはいつも通りへらへらと笑い、リリィとシドを見た後、騒ぎたてる大部屋に視線を移した。
「オレの師か…オレの師匠は誰なんだぁ!明日が楽しみだな!」
ナキは無邪気に目を光らせる。
「師匠!師匠!」
「師匠!師匠!」
ナキとコルトが机の周りをリズムよく愉快に走り回る。
「それじゃ、そういうことで今日はこれで解散!」




