第一章26 『同じ匂い』
ナキの方に手を大きく広げるロカ。
「ナキだ!」
するとナキに注目する各々のメンバー達が臆測を交わし合い、再びざわつきはじめた。
「おい!オレは革命軍に入るなんて言ってねぇぞ!……オレには確かめなきゃいけないことがある。……だから、ここで力をつけて主王宮へ行くためにここへきたんだ!」
拳を強く握りしめ視線を落とすとナキは少し暗い表情になった。
ロカが口を開く。
「そうだったね。ナキは昔に殺された家族、そして、さらわれた家族のことを知りたくてここへきたんだったね。力をつけるのも、主王宮に行く理由も、そのことを知るために……」
改めて静まりかえる大部屋。
ナキを切ない瞳で見る雨月。
(家族……か)
首をプイっと横に向け横目でナキを見るロア。
酒を飲む手をピタッと止める1番隊隊長アスラ。
――カランッ。
と、アスラの飲む酒に浮かぶ氷がコップにぶつかり大部屋に音が響き渡た瞬間。
アスラが笑みを浮かべ、口を開く。
「紅髪、じゃあ強くなって知るために行けばいいじゃねぇか。主王宮へ」
――と同時に大部屋全体がどこか寂しくも柔らかな笑顔へと包まれた。
ナキを強い眼差しで見つめるメンバーたち。
「よっ!いい心構えだっ!紅髪の兄ちゃんっ、強くなれよっ!」
「おいおい、面白れぇこと言うじゃねぇか。主王宮へ行くってか!自殺行為だな!まぁ、でもそういうのは嫌いじゃねぇぜ!」
「仕方ねぇーやつだな。何か情報があれば教えてやるよ!その時は飯おごれよ!」
あたりの反応を見渡したナキは驚きを隠せない様子で動揺した。
(あの紅髪も天帝会に借りがあるたちか…?)
シドは横目でナキを見た。
「やったれぃ!やったれぃ!」
リリィは酒樽を抱きかかえ両腕を交互に振りあげた。
「がんばって!お兄ちゃん!」
コルトは笑顔で声を上げる。
その雰囲気を見て笑みをこぼしたロカがナキを見る。
「ねっ。誰も君のことを笑ったりなんかしないだろ。ここにはそんな想いや信念を分かち合えるやつらがいる。……どう?なかなか悪くないだろ?」
ロカがニッコリと笑みをこぼす。
そしてロカは続けて少し大きめの声で話し出す。
「まぁべつに、君がここに入っても、入らなくても、これから仲間になろうが、敵になろうが、ぶっ飛ばし合おうが、好きにすればいいさ!ただ、君、ナキの帰る場所、オレ達の帰る場所はここにある……それだけは忘れるな」
「なんで…なんで。そんな簡単に見ず知らずのオレを受け入れるんだよ!」
「うーん。オレはそういうやつが好きだからかな」
ロカがヘラヘラと笑った。
「紅髪、総隊長の悪い癖だぜ」
ナキの近くのテーブルに座るメンバーの1人が笑いながら言葉を吐いた。
「それと……生きる道は違ってもみんなナキと同じだからだよ。オレ達にはそれぞれ目指すものがある。……誰かを思って進む強い意志があるんだ」
ロカは話しながらどこか強い眼差しでナキを見る。
「同じ……」
「そっ、まぁ同じ匂いがするってことさ。一緒にいればわかってくるよ」
「わかりあえる仲間がいる。帰る場所がある。それだけでいいじゃねぇか」
カウンターの方からナキへ向けヴィックが言葉を吐いた。
「よく言うぜぇ。全然オレらの酒を飲みてぇ気持ち、わかってくれねぇのになぁ~リリィ」
「そうじゃ、そうじゃ」
ヴィックに向かって不満げに言葉を吐くシドに続き、リリィが言った。
「よっし、じゃあお前ら今日は朝までオレと付き合えよ」
そう口を開くヴィックから目を逸らすシドとリリィ。
「それは…」
「勘弁じゃ…」
すごく嫌な顔をするリリィとシドの2人。
それを見てアスラは高笑う。
「ヴィックはこの中で一番酒強ぇからな」
(あれ以上って、どれだけ酒を飲めるんだよ……)
雨月は転がるビンやボトル、樽をみて苦笑いする。
アスラがグラスをカウンターに置き立ち上がる。
「それじゃ、紹介の途中で悪いがオレはそろそろ行くわ」
ロカの方へ向かって歩き出すアスラは雨月の隣までくると足を止めた。
「カラカサ一族の生き残りよ。お前の素性は知っているさ……。まぁ、あまり1人で抱え込むなよ」
「オレは別に抱え込んでなんて……」
「はっ、もっと素直になれや!いい仲間も見つけたんだろ?まぁ、またゆっくり話でもしようぜ」
アスラは雨月の背中をポンッと叩き、笑みを浮かべたまま通り過ぎた。
(オレには仲間なんていないし、そんなものは必要ない……。オレの目的のために、ただ馴れ合っているだけだ……)
続いてアスラはロカの手前までくるとナキの方を見て……
「紅髪!次会うときには強くなっていることを楽しみにしているぜ」
マントの裾からでた拳をナキに向けた。
「あぁ。おっさん……」
――と、その瞬間。
声を上げて返事をするナキの威勢を殺すように、アスラの拳から放たれた威圧がナキの体を突き抜ける。
背を委縮させるようなオーラにナキは瞳孔を揺らしながら目を大きく開く。
「世の中にはこんな化け物みたいに強そうなやつらがゴロゴロといるのかよ。……王都でもそうだった」
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ジーク、レオン、バトー、大鎌の男……。
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「……あいつらにも負けない力を」
ナキの額から零れ落ちる汗。
ナキは震えた拳をゆっくりとアスラに向け返す。
「あぁ。あぁ……。オレは、オレは!絶対に強くなってみせる!!……そして、必ず主王宮へ行ってやるからな!!」
(ふっ、オレの気を浴びたのになかなかの覚悟じゃねぇか)
それを見てアスラはニヤリと口角を上げる。
腕を組みナキの様子を見るロカ。
そして、黙ってアスラは振り返るとロカの方へとまた足を進めた。
「あっそうそう、言い忘れるところだった」
赤茶色の頭をかくアスラに注目する一同。
何事かと不思議そうな顔をするロカ。
アスラはロアの方へと視線を向ける。
「ロア」
「え、わたし?」
自身を指さしロアが不思議そうな顔をする。
「ナキは、いい男だぜ」
みんなに注目されるロア。
「は、はぁあああ!!ないないない!私、こんな弱い男、大っ嫌いだもん」
ナキの心臓に刺さる幻の矢。
「えっ、何、オレ?、なんか勝手に傷つけられてないか……」
「ハハハハハッ」
「振られてやんの!」
笑いに包まれる大部屋。
ナキは落ち込む様子で床に手をついた。
その賑わいの中、アスラはロカの隣で立ち止まり……
その瞬時にロカの耳元でアスラは小さく口を開いた。
「ロカ、ナキの首のリングのことはわかっている」
「うん。それと本部にシャルル第3王女は獅子帝レオンの手に渡ったから無事そうだと伝えてほしい」
「あぁ、わかった」
「あ、それとあと例の噂のやつのことなんだけど……王都でばったり会っちゃてね。やっぱり七英傑の1人として新たに天帝会へ入っていたよ。実はこの傷はそいつにやられちゃったんだけどね」
ロカは肩の傷口を抑えながら笑った。
「ふっ、しっかりしてくれよ、総隊長さんよ」
そうして笑うロカの肩をトンッと1回叩き、振り返るとアスラはナキが最初入ってきた鉄扉へと向かった。
「それじゃ、ちょっくら本部に副隊長を迎えにいってくるわ!」
後ろ向きで革命軍のメンバーに手を振るアスラ。
カウンターにもたれかかり黙って手を上げるシド。
手を振るリリィ。
「ばーい。ばーい。」
声を上げるヴィック。
「アスラさん、おやっさんによろしく言っといてくれ!」
「あの、おっさんめ……」
眉をしかめるロアはアスラを見ながら歯を食いしばる。
「いってらっしゃ~い」
手を振る他のメンバー達。
アスラの背中を見つめる雨月。
コルトは鉄扉の前でアスラを待ち構える。
「アスラのおじちゃん。副隊長さんにこれ」
コルトは摘んだ小さな花束をアスラに渡した。
コルトの頭にのせられるアスラの手。
コルトはアスラの顔をぽけーっと見つめ……
「ありがとな、コルト。お前も何かのために強くなれよ」
そういうと、黙ってアスラは鉄扉の外へと姿を消した。
――キュイーン。
――ガッチャン。
「さぁ、それじゃ!引き続き紹介するよ」
大部屋の中心に立つロカが口を開く。




