第一章24 『砂漠の隠れ家』
王都から少し離れた砂漠地帯エルグード。
広がる砂漠地帯にあちらこちらと立ち並ぶ砂岩石。
吹き荒れる砂塵。
ロカはナキを抱え、大きな崖岩の先端から広がる荒野に向かって飛び降りる。
「もうすぐだよ」
「すっげぇ!綺麗だ」
果てしなく広がる荒野……
ナキはその広大な荒野を包むように照らす、茜色にほんのりと輝く夕日に圧倒される。
「お~い!」
砂漠地帯の中にひときわ目立つ、いびつな形をした大きな砂岩石のふもとでヴィックが叫んだ。
主王宮直属大橋にいた巨漢の男、革命軍特殊捜査部5番隊隊長、黒牛のヴィック。
脱いだ黒いフードから表す顔は四角くもどこかもの柔らか。少し大きな鋭い二重の目と短いあごヒゲ。
雨月はヴィックの隣に立ちロカとナキを見る。
いびつな砂岩石にもたれる狙撃銃と寄りかかる狙撃手の女性。
第3王宮地区で鐘のある塔にいた狙撃手の女性。革命軍特殊捜査部2番隊副隊長、ロア・ブラックチェリー。
脱いだ黒いフードから表す童顔は可愛さとは裏腹に少しきつめの顔にも見える。がどこか凛々しくもあり女性らしさを感じさせる。身長は160cmほど。大きなアップルグリーン色の瞳を瞬させると同色のミディアムショートの髪を風になびかせた。
立ち込める砂煙。
ナキとロカは3人の目の前へとたどり着く。
「少し、待たせたね」
ロカがみんなの顔を見るや笑みをこぼした。
ロカの肩に抱えられていたナキは雷で痺れてふらついている。
「ア・マ~ツ・キモ、キタノ・カ~」
そう、痺れるように喉と身体を震わせながら話すナキを雨月が見る。
「うん。プ、ハハハッ」
雨月はナキの痺れる様子を見て小さく笑った。
「なっさけないっ」
ロアはナキを見てプイっと首を横へ向ける。
「じゃあ、お前!やってみろよ!めっちゃくちゃ、シ・ビレ~ン、ダヨ~」
ロアへ向けナキが言葉を吐く。
が、続けて話している最中のナキに触れ、再びロカは電流を流し始める。
「おいっ!ヤ・メェ、ロォ~」
遊ぶように電流を繰り返し流すロカにナキが怒る。
「でも結構きくだろ?この電気マッサージ。疲労回復に良いんだよ」
ロカは悪だくみをしたように無邪気に笑った。
「タ・シカ、ニ~。じゃね!!――ハァ。ハァ。結構これ疲れるんだぞ」
ナキは手を下へ垂らし、ぐったりとだれた。
「じゃあ、次はロアもやってあげようか?」
ロアに視線を移し、からかう様子でロカが口を緩める。
ムカっと眉をひそめるロアはすぐさま大きな狙撃銃をガッチリ構え、銃口をロカへと向けた。
「やったら本気で撃つからね」
「まぁまぁ」
額に汗を流すヴィックが苦笑いしながら2人の仲裁に入り……
「ごめん、ごめん」
ロカは同じく額から汗を流し苦笑いした。
――その瞬間。
ロカの肩から右胸に一直線にかけて赤い飛沫が吹き出る。
――ブッシュ!!
それを見るや目を大きく開ける一同。
「ロカ総隊長!?」
ロアは口を開けたまま……
一瞬ふらつくロカを支えようと手を差し伸べた。
が、すぐにロカは踏ん張るように立ち直り、いつものようにヘラヘラとしながら口を開く。
「やっぱり斬られていたみたいだね」
「あの時の…」
ナキが何かを思い出すように口を開く。
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主王宮直属大橋で仮面の者がロカへ向かって鎌を振りかざす瞬間。
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(オレを守りながら戦ったから…)
(雷帝と渡り合える『仮面の鎌のやつ』はいったい何者なんだ…)
ナキと雨月の頭の中を巡る臆測。
ヴィックが続いてロカに近づく。
「総隊長!大丈夫か!」
ロカが開いた傷口を手で抑えた。
「大丈夫!大丈夫!みんな心配ありがとう。これくらいたいしたことないよ!さぁ、暗くなる前に中へ入ろう」
めったに総隊長が怪我をすることがないのか、ナキと雨月に比べ、ロアとヴィックの焦る様子がそれを物語っていた。
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5人は大きくいびつな砂岩石のふもとに眠る鉄扉の前へと立つ。
ロカが鉄扉全体を包むように雷で電気信号を伝えると鉄扉が開き、一同はその中にある革命軍特殊捜査部の拠点へと入っていた。
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「帰ってきた…」
黒髪の少年がどこかの部屋の鉄扉の前で小さく言葉を漏らす。
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土壁に松明が灯る地下道を進む5人一同。
整地された道。
ロカを先頭にナキと雨月が横に並び……
その背後にロアとヴィックが並び歩く。
「すっげぇ。砂漠の下にこんな道があるなんて…」
ナキが急に落ち込んだように暗くなる。
「あるなんて?」
そのナキの様子を見るや雨月が口を開いた。
「すんげぇ!!!わくわくするだろ!秘密基地だぁ!」
ナキは目をキラキラと光らせた。
「子供かっ」
ロアがシビアにナキにツッコミをいれる。
「じゃあお前は大人かっ!オレとたいして変わんねぇーだろ」
「なに?私が子供だとでも思ってたの!?」
「別にそういうこと言ってんじゃねぇよ!」
小競り合いするナキとロアの2人。
「まぁまぁ」
ヴィックは苦笑いしながら2人の仲裁に入り額に汗を流した。
(こいつらなんなの。相性悪すぎないか……)
そうしているうちに地下道の奥に現れる扉。
ロカは扉の前で足を止めた。
「さぁ、ここがオレたちの家だ」
開く鉄の扉の隙間から光が漏れる。
――ギィッ。
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開く鉄扉の前で笑みを浮かべる黒髪の少年……
に続き、鉄扉の内の大部屋にいる革命軍特殊捜査部のメンバー達が一斉に笑みをこぼす。
――ガッシャン。
音をたて完全に開く鉄扉。
カウンターに座るツンツン髪の男が合図のように口を開いた。
「帰ってきたぞ」
その合図と同時に歓喜の声を上げ騒ぎだすメンバーたち。
「おかえりっ!」
みんなの声が重なる。
「ただいま」
ロカが笑顔で答えた。
――カランッ。
グラスと氷がぶつかる音が反響する。
1人黙りカウンターでグラスに入ったブランデーを飲むほろ酔いのおっさん。革命軍特殊捜査部1番隊隊長アスラ。後ろに流れる赤茶色の髪と向き出た額。薄く口の周りに生えたヒゲ。ダークブラウンのマントを羽織り、白銀のブーツを履いている。
まず初めにナキの視線がアスラに移り……
「なんだ、あのおっさん……」
ナキは圧倒されるように目を奪われた。
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大部屋はどこかの酒場のようにあちらこちらと丸や四角いテーブルが並べられている。オーダーカウンターとカウンター裏の棚に並ぶたくさんの酒のボトル。宴会用に見える部屋奥の舞台。火のついていない暖炉。誰かが遊んだであろう樽の上のボードゲーム。通気口のパイプが取り付けられた数本の大きな柱。天井からぶら下がる大きなシャンデリア。
部屋の上部は吹き抜けの床が存在し、壁から手前に入り組む床を見ると2階にも大部屋があることを感じさせた。
「すんげぇ…!なんだよ、ここ!!それにいろんなやつらがいる」
ナキは広がる大部屋や個性豊かな姿形の革命軍特殊捜査部のメンバーたちを見渡し、圧倒されるように目を光らせた。
ふと、ナキは右足下の方へと視線を向ける。
「父ちゃん、おかえり!」
ヴィックの足にしがみつく黒髪の少年。
先程から鉄扉の前にいた黒髪の少年『コルト=シュティーア』。ヴィックのたった一人の息子。大きくぱっちりとした目。黒髪のてっぺんからピョンッと飛び出た髪。少年が浮かべる笑顔は子供独特の無邪気さを感じさせる。
「あぁ、ただいま。コルト」
ヴィックはコルトの頭に大きな手をおいた。
笑みをこぼすコルト。
それを見て和む様子を見せるロカ。
「コルトォ!いい子にしてたかぁ~」
と声を上げるロアがいきなりコルトの脇の下に手を突っ込み、こちょこちょこちょと指を無造作に動かした。
「もぉ!ロア姉!」
急いで逃げるようにロアから離れるコルト。
「まぁてぇ~、コルト!」
あどけない表情でコルトを追いかけるロア。
その光景を目で追う雨月はカウンターの上で足を組み、あぐらをかく少女へと視線を移した。




