第一章17 『七英傑Ⅲ 獅子帝レオン』
差し込む太陽の光が3人を照らす。
あまりの眩しさに目を細めるナキ。
「外だ!」
声を上げるナキと雨月の目の前には王都の中心、主王宮へと続く主王宮直属大橋が現れる。馬車が数台、横一列になり通れるほど幅のある巨大な石橋。
少し歩くと、傘を背に担ぐ雨月はナキの背後で歩く足を止めた。
「この巨大な橋の中心に下の王宮街へと繋がるリフトがある。脱出はそこからしよう」
同じく足を止めたナキは主王宮を眺めたのち、シャルルの子供のように温かく眠る顔を見つめた。
「そうかぁ。…あ、あのさ、雨月。1つお願いがあるんだ」
「なんだ?」
「シャルルを安全な場所へ連れて行ってほしい。……お前にしか頼めない」
「まてっ。お前はどうする気なんだ」
「オレはこのまま主王宮へ行く。確かめたいことがあるんだ」
雨月は少し大きめな声を出す。
「お前、今の状況わかっているのか!……無謀だ。たまたまマニスは倒せただけ。次はもうない……無駄死にするだけだ。それに、あの七英傑のジークも必ず追ってくるに違いない」
「あぁ。そうだな」
「そうだなって……オレの言っていることがわからないのか!……今じゃなくてもいいだろ!」
歯を食いしばるナキ。
「そうじゃないんだ。オレは最初からそのために王都へ来たんだ。そのために、今まで生きてきたしな。もう、もう目の前なんだよ……」
雨月の方へと何気ない笑顔で振り返るナキ。
「止めてくれてありがとな。やっぱお前いいやつだわ。安心してシャルルを預けられる」
そのナキの笑顔と瞳を見る雨月。
(意思は、固いかぁ……。これは何を言っても無駄だな……)
ため息をつく雨月。
「……わかったよ。シャルル王女はオレがなんとかしよう。その代わり、きちんと後でシャルル王女の元へきてやれよ」
「あぁ、約束する。ほんと、ありがとな雨月。んじゃ、頼むわ」
ナキの隣へと足を進める雨月。
「オレにもオレのやるべきことがある。お前にもきっとそれがあるんだろ。だから、オレはもう止めないよ。でも……死ぬなよ。生きていれば……きっと」
「お前もよく知っているだろ。オレはなかなか死なねーよ!」
ナキは笑みをこぼし答えた。
「あぁ、そうだったな」
そう言うと、それから雨月も少し笑みをこぼした。
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第3王宮、1階フロア。
階段に寝そべるマニス。
赤い絨毯の上を歩くジーク看守長。
ジークは倒れるマニスに視線を移す。
「面白くなってきたじゃねぇーかぁ。まさかマニスがやられるとはなぁ。マニスが戦闘向きではないとは言え、天帝会の中でも中堅クラス…。ますます、あいつらに興味が沸いてきたぜ」
ナキと雨月を思い浮かべながら笑みを浮かべるジーク。
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「うぅ……。今何か寒気しなかったか」
雨月に話しかけるナキ。
「オレもした」
主王宮直属大橋の中心付近のリフトへと向かって足を進める2人。
「おっ!あれがリフトか」
声を上げるナキ。
橋の淵に設置された巨大な昇降機が2人の目に映る。
「そうだな。急ごう」
リフトに近づくにつれ、橋の淵に足を組み座る人影が見える。
足を止めるナキと雨月。
橋の太い欄干の上で足を組み座る男は、アッシュゴールド色の少し長い髪をなびかせながら煙草をふかし、一息に煙を吐いた。白い天帝会のコート。首に垂れるチェーン。足はすっと長く、鼻の下と顎に少し髭を生やしている。
「待ってたぜ」
目を大きく見開く雨月。
「七英傑Ⅲ獅子帝レオン!?」
「なな、えいけつ……。あの変態野郎と同じ……」
続けて、驚くナキ。
「なぜここにいるんだ……。そんなに早く、軍のトップ戦力が動くわけがない……」
立ち止まり、驚きを隠せない様子の雨月。
(不可能だ。もう逃げられない……)
そしてナキは黙ったまま足を止めず、シャルルを抱えてレオンの背後にあるリフトへと向かった。
「ナキ!待て!」
雨月の言葉を無視して歩き続けるナキ。
シャルルを抱えたナキは獅子帝レオンの隣を通り過ぎる。
何事もなく煙を吐くレオン。
「お前らは見逃してやるから、そいつを置いていけ」
立ち止まるナキ。
「シャルルを……か」
「だいたい事情はわかっている。俺は今日非番だし、お前らに何かしようってわけじゃない」
「寄ってたかって、シャルルを……くっ、断る!」
一瞬止めた足を再び進めるナキ。
欄干の上から橋道へと降りるレオン。
ナキの背後に立つレオンが口を開く。
「大罪人の元王女様が実は生きていて更にはさらわれました~、なんて、国家として民衆に示しがつかねぇだろ。まぁ、俺達にもメンツってもんがあるんだよ。そこらへんはわかってくれよ。じゃなきゃ、俺はお前たちを殺さなきゃいけなくなる」
と殺気を放ち、ナキの斜め前へと一瞬にして現れるレオン。
その動きにナキは驚く。
「速いっ……」
レオンはナキの肩にぽんっと手で軽く叩くと、ナキの正面へと即座に立ちはだかった。
「なっ。紅髪」
ナキは眉間にしわを寄せレオンの眼を睨みつける。
「オレはこいつをここから出してやりたいんだ!どけろ!」
「それは、理想だ」
ナキを冷徹な様子で見下すレオン。
「お前に何ができる?俺をぶっ飛ばすのか?殺すのか?……もう少し考えろ。今のお前の理想には実力が伴っていないだろ」
「それでも俺は…」
煙草を咥えナキの胸ぐらを一気に掴むレオン。
「そいつもお前の実力不足でやられたんじゃねぇのかぁ!まだわかんねぇか!力がなけりゃ人前でそんなこと語るんじゃねぇ!」
レオンは目を見開き、ナキに怒声を浴びせた。
歯を食いしばり悔しそうな様子でうつむくナキ。
「わかってる。わかってるさ、そんなことわ……」
ナキの胸ぐらから手を離すレオン。
「これだけは覚えとけ、力がなけりゃ意見なんて通らねぇ。思い通りになんてならねぇ」
「それでも…」
ボソッと言葉を吐くナキ。
舌打ちをするレオン。
「守りたけりゃ力をつけろ、ガキが。さぁ、わかっただろ。そいつを置いてここから去れ」
レオンは少し暗い様子で続けて話し出す。
「そいつは俺に任せろ。悪いようにはしねぇからさ」
そう言ったレオンは突っ立つナキが抱えるシャルルへと手を差し伸べた。
――その瞬間。
「それでもここにおいていくことなんてできねぇだろ!お前らを信用できるわけがねぇだろがぁ!!」
威嚇するように吠えるナキ。
ナキの気迫でレオンの差し伸べる手が一瞬止まる。
「俺は、もう…失いたくないんだ……」
「なんて目をしてやがる」
少し動揺した様子のレオンの額から流れる雫。
どこか悲しげで、どこか怯えていて、それでも守りたいと強い意志が現れているような瞳。例えるなら、飼い犬が大好きな飼い主を守るために必死に強い敵に抵抗するようなそんな姿。
(お前も過去に大切な人を失ったたちか……。はぁ、覚悟なら既にできているってか)




