第一章16 『カラクリ』
座りこむ雨月に手を差し伸べるナキ。
「ありがとう。おかげで勝てた」
その手を握り返し、立ち上がる雨月。
「いや、オレの作戦を信じてくれたからだ。こちらこそ感謝する。一種の賭けだったがな」
雨月は自身の首を押える。
「もう耳の鼓膜やお腹は大丈夫なのか」
「あぁ、もう回復してる。さすがに作戦を聞いたときはびっくりしたけどな」
ナキは笑い答えた。
そしてナキと雨月は周りの状居を見渡す。
静まり返るフロア一帯。
気絶して、床に倒れる王都民や天帝兵。
「まさか、さっきまでの光景がマニスの歌声による幻覚だったなんてな……」
「オレもまさかとは思った。最初はナキに殴られた時に一瞬見えた現実世界を疑った。でもシャルルの死体を見たときに異変に気づいたんだ」
「シャルルが天帝会に生かされていたからか……」
「そう。それに、あの幻覚が現実だとして俺がこの事件の犯人にされたところでオレにこんな芸事はできないと天帝国にもわかるはず。偽りの暗殺犯が本当に王都民や生かされているシャルルを殺す理由もないからな」
シャルルに歩み寄るナキ。
「生きていてよかった」
気絶している親子に視線を移す雨月。
「あぁ。ほんとうによかったよ」
「ほんっと、でもよく見抜いたよな。アマツキ」
「あ、それと実は幻覚だと見抜けた理由はナキのおかげでもあるんだ。最終的にナキの体が回復しなかったことが偽りの世界であることの確信へと変えた。実体の体に傷がつかないと回復はしないからな」
「なるほど!だからオレの傷は回復しなかったのか!だけど、雨月や銃は実際に存在したから、幻覚からオレを覚ます方法として、マニスの歌声を聞こえなくするために耳の鼓膜を破ったってわけだな」
「そう、それこそがマニスの盲点であり、敗因となったんだ」
「まぁ、マニス自身が幻覚だったからよかったけれど、もしマニスの実体が幻覚の世界でも戦闘をしていたら、こちらの手は全てバレ、勝ち目はなかったけどな。まぁ、歌う能力だから実体が歌って話さないと幻覚であることが逆にバレる場合もあるし、その可能性は低かったと思うけど…」
――と、次の瞬間。
「えっ?」
雨月は銃を持ち上げるとナキに向かって引き金を引いた。
目を見開くナキ。
フロアに鳴り響く銃声音。
――パーン。
銃口が煙を上げる。
「あれ、銃弾が……」
両腕で体を守るようにポーズをとるナキは驚いた様子で雨月の持つ銃を見た。
続けて、瞬時に床に落ちる槍を持ち上げナキに突き刺す雨月。
「えっ?」
目を見開くナキ。
――グッニュ。
ナキの腹部にゴム材質でできた槍の刃があたる。
笑顔でナキを見る雨月。
「驚いた?」
「びっくりするだろがぁ!」
ナキは少し怒った様子で雨月に言い返した。
「そうこんな風に、これは現実世界であることの「傷」や「死」へのリアルを感じさせるカラクリの1つ。マニスは元々誰1人、殺す気はなかったってことさ」
続けてナキは天帝兵や王都民を見た。
「じゃあ、なんでみんなを気絶させる必要があったんだ?」
(隠ぺいのための記憶喪失をねらったのか?……いや)
「それは、わからない。でも、マニスにとって最善策であったに違いはないと思うよ」
「まぁ、どっちにしろオレにはこんなカラクリわかりっこなかったわ。ありがとな」
苦笑いし、頭の後部をかきあげるナキ。
「ナキの能力があってのこともある。おあいこさ」
「それになにより色々と運がよかった……。マニスの自然能力は歌声による実体を混じえた幻覚の世界だから非常に複雑だし、本来幻覚とバレることははなかっただろうからな」
******************************
シャルルを抱えるナキ。
仕込み刀をおさめ、背中にカラ傘を担ぐ雨月。
「さぁ、じゃあ早くここから出るか!」
「あぁ。急いで第3王宮の最上階を目指そう」
「ほんと、もう嫌だぜ~。天帝会との戦闘わ~」
勘弁してくれと言わんばかりに嘆くナキ。
「同感だ」
前を向き、ナキの隣に並ぶ雨月。
******************************
先ほどの螺旋階段を駆け上がるナキと雨月。
ナキに抱えられるシャルル。
「シャルル、もうすぐ出口だ」
――キュイーン。
――ガッチャン。
外へと繋がる扉から光が差す。




