第一章14 『ナキVSマニス』
「ほぉうっ……」
マニスがニヤリと口角を上げる。
(私に向けられた殺気か……なかなかの心の力だ。これも愛ゆえに、か……)
そのままナキを見つめるマニス。
(そして、この異常にも体から溢れ出たオーラの量、心の力の暴発といったところか……)
ナキの身体を包むように無造作に揺れる紅いオーラ。
(気の流れを見てもコントロールはめちゃくちゃ……。自然能力の発動でもないことは先ほどの戦闘接触時に把握はしている。あと、気になるのは首のアビリティリングの能力……。なぜやつは先程から一度も使用しない。戦闘系ではないのか?……まぁいい。面白そうだ。もう少し戦ってみるとするか)
ナキは自身の掌をグー、パーと握り開くを繰り返す。
「大丈夫。オレは正気だ」
ナキは自身に言い聞かせるように言った。
そして、ナキは抜け殻のように座り込む雨月の元へとゆっくりと足を運ぶ。
雨月は生気を失った瞳で一点を見つめ座っている。
「母さん……母さん……」
と雨月の口から漏れ続ける言葉。
「目を覚ませぇ!!」
――ドンッ。
頬に入るナキの拳。
――ドサァアアア。
床に擦り飛ぶ雨月の体。
雨月はスッと自身の頬を触る。
(ナキに殴られたのか?……オレは……またあの夢を見ていたのか。……くそっ)
目をそっと開ける雨月。
(何してんだオレは、オレの目的はなんだ。こんなところで、こんなところで……)
ぼやける雨月の視界には階段に座り、歌を歌うマニスが映る。
フロア中に流れる音色(BGM)。
地に倒れる人々や天帝兵。
「あれ?」
と雨月は瞬きをすると、次はナキの前方に立つマニスが映り……
さらにはフロア中の音色はパタリと途絶えた……。
床に見えるのは無数の血だまりと、赤く染まる無残に倒れる人々や天帝兵。
雨月の瞳に映る光景はやはり血の海と化したフロアだった。
もう一度、雨月は目をつむるが何の変化も起こらない。
「なんなんだ。今のは……」
雨月は頭を押さえる。
「アマツキ、目が覚めたか……」
ナキが雨月を見てひとりでに呟いた。
ナキの顔を見返す雨月。
(様子がおかしい)
「……何があった」
ナキは雨月の言葉には答えず、意識が戻ったことを確認すると黙ってマニスの元へと向かった。
(あれ、シャルル第三王女は……)
――と、次の瞬間。
雨月はすぐさま血だまりの上で倒れているシャルルを見つけ、状況を即座に飲み込むように固唾を飲み込んだ。
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マニスは先ほどナキが蹴ったことで、地に落ちた金色の銃を拾い上げる。
「さぁ、少し私と拳で愛を語ろうじゃないか」
フロアの中心で向かい合うナキとマニス。
2丁の金銃を腰に直すマニスは拳を握りしめ、天帝会の白いコートを脱ぎ捨てた。
「お前は絶対に許さねぇ……」
――ドォーーーーーーーーーーーーーン。
両者の宙でぶつかり合う殺気にも見えるオーラ。
逃げ場なく殺気に満ちるフロア一帯。
――その瞬間。
マニスは地を踏み込み、瞬時にナキの前へと現れる。
(さぁ、首輪の能力を見せてみろ……)
先程ナキと交戦した時と同じように、ナキの右頬にマニスが上段蹴りを振りかざす。
――バンッ。
ナキは先程の戦闘時と違い、右腕1本で蹴りのガードするように衝撃を緩め。
同時に左手でマニスの足のすねを掴んだ。
「ほう……先ほどより蹴りの威力を増したはずだが。軽々と受け止めるか」
(やはり能力の発動はなし……。そして、このオーラはでたらめに、ただ身体能力のみ向上させたというわけか……ふっ素人が)
ナキは何も言わずに掴んだマニスの足を手前に引っ張る。
マニスは体制を崩しナキに背を向ける。
――瞬間。
ナキはステップするように一歩下がり、空いたマニスの横顔に拳を振りかざす。
しかし、マニスはナキに背を向けたまま瞬時に手の甲でその攻撃を顔の横で受け止め――
すぐさまナキの攻撃したその腕を掴み返す。
「攻撃が単純だ」
そして、ナキを勢いよく地へと背負い投げた。
――ダンンッ。
仰向けになり地に打たれるナキ。
「グハッ」
地に倒れたナキはダメージを受けながらも、ひるむことなくマニスの手首をそのまま握り返し、マニスの動きを封じた。
ナキの顔上にあるマニスの顔。
(なにっ!)
ナキはマニスの額へと蹴りを入れる。
しかし、かろうじて首を上げ、瞬時に避けるマニス。
ナキはマニスの手首を離す。
そして、両手の平を地につけ上体を跳ね起こす。
「隙だらけだ」
マニスはそれを見計らったように起き上がった瞬間のナキの背後へと横蹴りを入れる。
瞬時に、それに反応し宙へと高くとぶナキ。
(ふっ…避けるか)
凄まじい速度でマニスの蹴りを避けるナキは、次に宙でかかと落としの体制に入り、マニスの頭部へと足を振り落とした。
「甘いわぁ!」
が両手を頭上でクロスにし、ナキの蹴りを軽々と受け止めるマニス。
そして続けて、マニスは頭上でナキの足首を掴み……
自身の体を大きく回しながらナキの身体を一周させると勢いよく手を離した。
ナキは壁まで一直線に突き飛ばされる。
――ドガガガアッツ。
壁の前に立つ煙。
「紅髪、随分頑丈みたいだな」
つかの間、ナキは煙を割きマニスに向かい飛ぶ。
ナキはマニスの正面に近づくや、1撃目、2撃目と続けて宙でマニスの顔へと拳を振るう。
が、マニスは見切ったように顔の前でナキの拳をガードする。
両者攻防に全く引けをとらない。
そして、――ナキの3連打撃目。
「なにっ」
ナキは宙にいる体制のまま、マニスの顔面へと前蹴りを入れた。
――ドォーン。と風が宙で弾ける。
2人の重なる足。
マニスは体制を反るように倒し、危機一髪のところ振りかざすナキの前蹴りを跳ね返すように自身の蹴りを入れた。
「あぶねぇな」
両者譲らぬ威力。
ナキはそのまま足の力に任せた競り合いはせず、マニスの蹴りの反動を利用し宙で体を反回転させると拳に力を込め始じめ……
「なにっ!その体制から」
(だが、こいつの攻撃は単純。顔しか狙わな……)
――次の瞬間。
回転力を生かした紅のオーラをまとう拳が、地から体を起こそうとするマニスの顔面へと強烈な一撃を入れる。
「紅風」
――ドォ――ン。
マニスは起き上がると同時に顔の前で両手をクロスにしながらガードをした。
がしかし、あまりのナキの拳の威力にガードがはじけ、足を開いた状態で地をするように体を回転させながら後退した。
「なんて、威力だっ。ふざけた野郎だ」
ナキは攻撃を休めることなくマニスへ走り迫る。
紫色に腫れあがるマニスの腕。
マニスのクロスにした腕は突如と力が抜けたようにぶらりと垂れさがる。
腹部を無防備に空けた状態で突っ立つマニス。
「少しはやるじゃねぇか……」
マニスはナキを見つめる。
ナキは両拳を握りしめる。
「ハァアアアアアア!!!!」
マニスに迫るナキ。
「お前の愛の全力受けてやる!紅髪!!!」
両腕に集まる紅のオーラ。
「紅爪」
両拳を揃えたナキの渾身の一撃がマニスの腹部へと入る。
――ドォーーーーーーーーーーーーーン。
マニスの腹から突き抜ける打撃と風圧。
マニスの背後にあるフロアの壁が、丸くひび割れ崩れ落ちる。
――バキッバキッバキッ。
ナキの拳から自身の肩にかけて電気が流れるように両腕の骨全体へと一気に入るヒビ。
ナキの両腕の骨々が悲鳴を上げる。
つかの間、両腕が粉砕するほどの力で攻撃したナキの腕は赤紫に腫れ上がり、力がスンッと抜け落ちた。
ナキは息を荒げたまま、額に汗を流し煙立つ方向を見た。
「どれだけ、頑丈なんだよ……」
煙の中に立つ人影。
マニスはナキの最大威力である攻撃を受けてもなお微動だにせず突っ立ったままだった。
ナキの体からスンッと消える紅のオーラ。
元に戻る片の目の色。
――ポタッ。ポタッ。
地を見たままのマニス。
マニスの口から垂れる血液。
そしてマニスはナキに視線を移したあと、ニヤリと口角を上げる。
「残念ながらお前の愛は、届かなかったようだな」
――その瞬間。
マニスはナキに一瞬にして近づき……
両指を組んだ拳を天にあげた。
「なんで、まだ腕も動くんだよ……」
(あれ?体がいつもみたいに回復しない)
ナキはマニスの前で力が抜けたように膝から崩れ落ち、仰向けに倒れる。
(オレ、やられるのか……)
ナキはその天高く上がったマニスの両拳をじーっと見つめる。
その間は数秒――。
「母なる愛のもとで眠れ」
マニスはそう言うと、天を仰ぐナキの顔面へと組んだ両拳を一気に振り落とした。
――ドガァァァァァァン。




