第一章13 『愛の選択』
シャルルは足をそこから一歩も動かずにただ立っている。
(ナキ、ありがとう。私はあの戦争以来アダマスさん以外の人を全て失った。だから、今日あなたに会えて本当に心から幸せだったよ)
マニスに向けられる銃口。
「マニスッ!今ここにいる2人を逃がしなさい!そうすれば……私は大人しく言うとおりにするわ」
「それが、あなたの答えか……」
マニスは笑顔でシャルルの強い眼差しを見た。
ナキは横目で背後のシャルルを見ようとする。
「やめろっ、シャルル逃げてくれ」
遠のきそうな声でナキが言った。
シャルルの震える手。
定まらない銃口。
マニスはナキを掴んだまま一気に腕を床へと叩きつける。
――ダァァアアアン。
床に背から叩きつけられるナキ。
「ぐはっ!!」
ナキは勢いよく腹から空気を吐いた。
マニスはそのまま屈んだ体制で瞬時にシャルルの目の前まで近づくと……
マニスは銃を握るシャルルの両の手を包むように、そっと自身の両の手を覆いかぶせた。
――カチャ、カチャ。
――カチャ、カチャ、カチャ。
震える銃口がゆっくりとマニスの胸に当たる。
「さぁ、あなたの愛を示すときだ」
目を見開くマニス。
「さぁ!さぁ!」
「引き金を引け!!」
引き金にかかるシャルルの指に力を入れるマニス。
「あなたがここで引き金を引かないとそこの2人(ナキと雨月)は確実に殺す。あいつらの実力では私には敵わない。だが、今なら助けることができる。あなたの愛によって」
「私が憎いだろ。今すぐにでも殺してやりたいだろ。そう!それが!それが!愛、愛、愛愛愛愛!」
「それこそが貴様の真実の愛……歪んだ愛なのだ……」
マニスがシャルルの耳元で囁いた。
シャルルの引き金に添えられた指の力は徐々に増す。
「さぁ!引け!!」
「私は、私は……」
シャルルは涙を流しながら銃を強く握り持ち……。
「汚ねぇぞ!マニス……!!」
ナキは倒れながら床へ拳を叩きつけた。
(シャルル、お前に、そんなことができるわけねぇ……だろが)
そして指の力は次第に弱まり……
銃はシャルルの手から床へと滑り落ちた。
(ナキ、アダマスさん、雨月君……ごめんなさい)
――カッチャン……。
床に響き立つ金属音。
「はぁ~。なんて素晴らしい」
そう言うとマニスは腰からもう1丁の金色の銃をとり出す。
目を見開くナキ。
「残念だが、お国のためにそこの2人は死ぬ。だが、それがあなたの選んだ愛の結果だ。……自決の意思だけは称賛しよう。せめて母なる愛のもとで眠るがいい」
シャルルの額に当たる銃口。
「生きて……」
目をつむるシャルル。
「やめろ。やめろ」
片目を開け、シャルルの元へとふらつきながら必死に歩み寄るナキ。
「やめろぉ!撃つな、撃つなぁ!!!!」
「シャ、シャルルーーーーー!!!!!!!!!」
――バァ―ン。
シャルルの眉間を貫く銃弾。
宙に浮くシャルルの体。
銃を構えたまま微動だにせず、突っ立つマニス。
――ドサァアアア。
シャルルはあっけなく床へと倒れ落ちた。
「おい、シャルル。シャルル。シャル……ル」
マニスの隣を通り過ぎたナキはシャルルの元へと近づく。
「おい、おい、おい、おい!!!」
ナキは目を閉じたシャルルの顔を眺め肩を揺す。
「まただ、まただ、まただ、まただ、まただ。オレを助けようとして……」
ナキの力強く握るシャルルの服の布がしわをよせる。
「なんで、みんな……。オレが弱いから……」
ナキは悲しそうな面で歯を食いしばる。
「くっそ。くっそ、くっそ」
「やはり愛は美しく、素晴らしい」
「お前は、お前は、愛なんかわかっちゃいねぇ」
「なに?」
「シャルルがなんで引き金を引かなかったか、わかるか……」
「それはお国のためだ。お前も聞いただろ?自ら自決を選んでのことだ。それとも自身の手を汚したくなかったという……ただの自己愛とでも言いうのか」
「お国のため?自己愛?……そんなもの、こいつの本心にはさらさらねぇんだよ!辛くても、苦しくても、憎くてお前を殺してやりたくても……。それ以上にお前が死んだときのことを考えたからだろうがぁ!」
「私のことを?笑わせるな。偽善者が……」
「愛する者が誰にでもいることを、その大切さを、失うことの苦しさを、こいつが一番よく知っている……。それがどんなやつであってもだ。そういうやつなんだよ、シャルルは……。だから自分のこと放ってでも死ぬことを選んだんだろが……」
「あいつがどんな思いで、あの場所に10年間もいたと思ってやがる……」
「自分がそうだったから、誰かを思いやる愛は誰よりも強いんだよ。あいつわ」
ナキは拳を握りしめる。
「フッ。面白いやつだ。お前とは違う観点から愛を語れそうだ」
ナキはマニスを強く鋭い瞳で睨みつける。
「許さねぇ」
「…………」
「シャルル……」
――ブォーーーーーーーン。
ナキの身体からでる紅い霧状のオーラ。
ナキの片目の瞳が紅色に変化する。
フロア内に広がるおぞましく重い空気。
「やっと、でた……」
そう、そっと呟いたナキはシャルルから手を離すとシャルルの隣でゆっくりと立ち上がった。




