第一章12 『愛ゆえに』
――バタッ。
金色の銃口から立つ煙。
金色の銃を手に握るマニス。
頭部を撃ち抜かれ地に転がる天帝兵。
シャルルの背後の床に残る弾痕。
弾痕をかすったシャルルの頬からは血液がスゥ―っと垂れ落ちる。
緊迫した空気はまだ続くが、一瞬だけどこか安堵した様子にも見えるナキ。
マニスは階段から腰を上げる。
「あなたの罪と命の重みがわかりましたか。大罪人元第3王の娘、シャルル元第3王女」
――ピチャ。
――ピチャ。
とマニスは液溜まりの上を歩き、シャルルに近づいていく。
シャルルは目の前に落ちる銃を即座に握りしめ……
(まだ生暖かい。あの人がどれほどの気持ちでこの銃を握っていたことか……)
「マニスッ!マニスッ!許さないっ!あなたは罪を犯しすぎた!」
「私が罪を犯した?あなたはまだそんなことを言えるのか。私は、第3王宮副官長として、やるべきことをやっただけのこと」
シャルルは涙ぐみながら目を見開く。
「必要な死だ……。あなたには自身の罪について自覚していただかないといけない……。そうでなくてはここで死んでいった者たちが救われないだろ」
「それで……ここにいる王都民も天帝兵も全て殺したっていうの」
暗く視線を落とすシャルル。
「そうだ。あなたが生きているという事実が国に不安を与え、人々の心に魔を与える。そして秩序を乱す。だから、あなたはただ生きていること自体が、罪。わかっただろう?ここにいた人間は全てあなたが殺したのだ」
「私は、私は、何も……していない。お父様だって……。あなたたちが、天帝会が全てを、全てを奪ったのよ!!」
下唇を噛みしめるシャルル。
口の片端から垂れ流れる血。
シャルルはマニスに銃口を向けた。
「その行動も愛ゆえに。だが、それでは争いはなくならない。その心こそ間違った愛であり罪を生み出し続ける。憎しみの愛など歪んでいる……」
「でも……私は……」
「甘えるな!王の娘であった責任を持て!貴様の愛は国か!貴様自身か!」
マニスは声を上げた。
ナキがシャルルの目の前へと現れる。
「もういい。シャルル。……逃げろ」
シャルルは銃を握る手を下へと降ろし、うつむいた。
「ナキ……。私、やっぱり……生きてちゃダメなのかな」
シャルルの震える声。
「お前は生きてちゃダメなんてことはない。オレだって、ばっちゃんだってそう思ってる」
静かに答えるナキ。
「私のせいで……みんなに迷惑かけちゃうよね」
あふれ出るシャルルの涙。
「だれだって、生きていれば誰かに迷惑なんてかけるさ……」
床を湿らす雫。
「10年間、檻の中にいたからわかんなかったよ……。バカだよね、私」
シャルルの強く握られた拳。
「だからね。私が……いなくなればいいんだよね……」
シャルルは笑顔でナキの背を見た。
その言葉を聞くや、ナキは全開で振り返り、力みながら声をあげた。
「強がるなよ!!」
目を見開き、口角を下げるシャルル。
「死にたくもねーのに、死ねばいいなんて口にするなよ!思うなよ!お前のことを思うやつらを置き去りにするんじゃねぇよ……。なんでお前は進むって決めたんだ。なんでお前はここまできたんだよ!」
ナキはシャルルに背を見せ、拳を強く握る。
「それは……」
「生きる、ためだろが」
「私は、私は……」
ナキの背中の布を掴むシャルル。
「それがお前の答えだろ」
「オレはさ、シャルルに生きていてほしいと思ってる」
ナキは曇りのない笑顔で答えた。
「でも私は大罪人の娘。第3王女……。生きているのが辛いよ……ナキ」
胸を押さえるシャルル。
「シャルル。世界にはお前のことを酷く思うやつらがいるんだろ。だからってそいつらの言葉を無視しろなんてオレは言わない」
「でも、お前のことを思うやつも必ずいるからさ。そいつらの言葉も無視せずに聞いてやってくれよ」
「お前には受け入れる心があるんだからさ」
そう言いながらナキはマニスに一歩一歩と近づく。
「それに生きていたら苦しいことばかりじゃない。それはオレが一番よく知っている。……だって、今日オレはお前に会えたんだからさ」
シャルルは歩くナキの背中を黙って見つめ続けた。
マニスの前で足を止めるナキ。
「悲しいな。愛は。苦しいよな。愛は。愛ゆえに……」
マニスは目の前のナキを見下しながら言葉を吐いた。
向かい合うナキとマニス。
両者は黙って見つめ合う。
その直後、マニスは黙り込むナキの首を即座に絞め上げ、ナキの体を容易に持ち上げた。
「わかるだろ紅髪。本当は俺から王女を守りたいのに守れねぇ自身の非力さがよ。愛があっても抗うことすらできねぇ無力さをよ。だから力は大事なんだぜ。自分や誰かのためにも……。そして、何より愛のためになぁ」
ナキは苦しむ様子でマニスの腕を強く掴んだ。
「それでも、オレにできることはある!」
と、ナキがそう言った次の瞬間――。
ナキはマニスの握る金色の銃を蹴り飛ばした。
「今だ、いけ!シャルル!走れぇ!」




