第一章11 『血の涙』
『Oh~My♪Mother~♪』
1人の天帝兵の前で、マニスは2番の歌詞をを歌い始める。
――ゴキリッ。
骨が折れる鈍い音。
天帝兵の首元から離れるマニスの両の手。
――バタッ。
地に崩れ落ちる天帝兵。
マニスの行動を見つめるシャルル。
『君は、どうして~♪』
マニスは胸に手をあて、気持ちを込めながら歌い続ける。
フロアの中央で突っ立つシャルルは目の光を完全に失い……
(まただ。みんな、死んじゃう……みんな、みんな、みんな……)
次にマニスはすぐさま跳躍し、雨月の目の前へと現れた。
――ゴキリッツ。
――ゴキリッツ。
――ゴキリッツ。
マニスは雨月を取り押さえる天帝兵3人の首を次から次へとへし折る。
『私に~♪ つくすの~♪』
抜け殻のように1点を見つめ座り続ける雨月。
マニスは雨月の面に視線を移すが、雨月には何もぜず振り返った。
そして、マニスは雨月から瞬時に離れ、フロアを飛ぶように天帝兵の元へと次から次へと移動し……
マニスはフロアに転がる銃や槍などあらゆる武器を持つや自身の体術と合わせて、自身の部下である天帝兵を次々と殺していった。
全く抵抗しない天帝兵。
血に染まるマニスの白いスーツとコート。
次々と寝落ちるように倒れる天帝兵の肉体が地へとうちつけられる音が広がる。
『無償の愛が~♪ その愛が~♪』
マニスは悲しそうにもどこか愛しそうに歌い続け……
そして、次第にフロアの端で天帝兵と交戦するナキの前へと現れた。
「お前、さっきから何してやが……」
ナキは怒った様子でマニスを睨みつけ、続けて何かを言おうとした瞬間……。
マニスはひと蹴りにナキと天帝兵を巻き込むように全員を壁へと吹き飛ばした。
――ドガァアアン。
壁にうちつけられ、気を失う天帝兵たち。
――ゴトッ。ゴトォッ。
壁の瓦礫が崩れ落ちる。
フロア一帯に立ち込める煙。
その中に見える1人の人影。
ナキはマニスの蹴りを右顔隣で腕をクロスにし、ガードをしたことでその場から吹っ飛ばされずに1人立っていた。
「さっきの眼帯よりスピードは遅いが、なんて重い蹴りなんだ……」
マニスはナキを見るや歌う口元を少し緩ませ、蹴り上げた足の裏を地へと降ろした。
――カタンッ。
と、その音を合図に、ナキは自身の体を捻りマニスに回し蹴りを入れる。
が、俊敏に、その蹴りをかわすマニス。
『私を~♪ 包むの~♪』
マニスは最後の歌詞を歌い終わると、そのまま戦闘を続けず後方に3段ジャンプし、先ほどいた階段の位置まで戻った。
音色と歌声が止まり、一気に静まり返る1階フロア。
転がる肉塊と床に広がる数々の血溜まり。
血の海となるフロア一帯。
その中で雨月は依然と力が抜けたようにずっと座り続け微動だにしない。
辺りを見渡し、呆然とするナキ。
階段にゆっくりと腰を下ろすマニス。
――タッタッタッタ。
シャルルは黙って、マニスの目の前へともう一度近づく。
――パァンッ。
シャルルの平手打ちがマニスの頬へと入る。
マニスが口を開く。
「これもまた、愛ゆえに」
「マニス!マニス!マニス!マニスッ……」
マニスの顔の前で、名前を連呼し涙ぐむシャルル。
「天帝会がどれだけ正しいっていうの!あなたがどれだけ偉いっていうの!だったら何をしても良いの……」
マニスはシャルルの様子を見るや黙り込み、平然と何食わぬ顔でシャルルの顔を見つめ続けた。
「ねぇ、答えて!これはなにっ!どうしてこうなるのよ!ねぇ……」
シャルルはマニスの肩を掴み、何度も振るう。
――タッタッタッタ。
どこからと聞こえる走る足音。
――ドンッ。
「きゃっ」
シャルルに体当たる男性。
――ドサァアアアー。
その衝撃で、シャルルは床を擦るように倒れた。
倒れたシャルルの前に立つ天帝兵。
天帝兵はシャルルに向かい銃口を構える。
――カシャ。
「シャルル!!」
急いでナキが近づく。
ナキに視線を移す天帝兵。
「こっちにこないでくださいっ!撃ちますよ!」
天帝兵が声を上げる。
立ち止まるナキ。
その天帝兵はシャルルに視線を戻すなり大きく口を開け、崩れた泣き面で言葉を吐いた。
「シャルルさまぁ」
「オレのために……オレの家族のために…………この国のために……」
天帝兵は銃を強く握る。
「……死んでください」
先程、殺された母親と娘に視線を移す天帝兵。
「あんたのせいで、妻と……そして娘は死んだ。……今ここでだ」
同じく視線をずらし目を見開くシャルルとナキ。
「あなたは生きていてはいけない人なんだ」
シャルルは息をのみ、口を開く。
「……あなたのことはよく覚えているわ。昔、木の上から落っこちた私を助けてくれたことがあったわね」
シャルルはゆっくりと立ち上がる。
「な、なんで!こんな時にそんなことを言うんだ!!」
下唇を噛みしめる天帝兵。
「私はあなたに一度命を救われた。そして、今あなたの家族を殺める原因となった……」
シャルルは銃を構える天帝兵の顔をじっと見つめる。
「わかったわ。それがあなたの役目でしょ。愛する人のためなら、たとえその行動が間違っていたとしても迷わず信じた道を進みなさい」
シャルルは笑顔でその天帝兵を見た。
「だから、私は受け入れる」
「ごめんなさい。……シャルルさま」
――カチャ。
引き金においた指をゆっくりと引く天帝兵。
ナキがシャルルに走り近づく。
「シャルルゥーーー!!!」
――バァーーーーン。
銃声だけが静かなフロア一帯に広がる。
「それも愛ゆえに……」
マニスはひっそりとそう口に出し、瞳から涙を流した。




