クールビューティーな彼女とのバレンタイン
どうも、ファウストです。
何気に初投稿です。
pixivでは他の作品も載せているのでぜひ。
誤字脱字はご容赦ください。
教室に甘い菓子の匂いが漂う。
ただでさえ、女子たちの香水のようなものの匂いで、手一杯だった俺はそそくさと教室から抜ける。
今は昼休み。
それだけならこんなにも菓子の匂いはしないのだが、今日はバレンタインデーと呼ばれるリア充共がさらに浮き足立つ日である。
さらに、普段は目立たない女子も今日だけは気合を入れてきているのか、メガネからコンタクトになっていたり、髪の毛が仄かに染まっていたり、香水を少しつけていたりしている。
それがいつもより匂いが充満している理由の一つとなっていた。
「はぁ。」
と、大きなため息一つ。
廊下に出た俺は行く宛もなく、校舎内をぶらつく。
他教室を余所目に覗いて見たがどこもうちと同じような感じだった。
甘い匂いから逃れたかった俺は、食堂に向かった。
うちの学校の食堂は、出されたもの以外の食べ物の持ち込みは禁止なので、甘い匂いがしないはずだ。
キィ、と金属がこすれる音を出しながら扉は開く。
無駄に自動ドアなのは未だに謎である。
入ると、あまり人はおらず、まばらに2.3人のグループが散っていた。
俺はカウンターに座り、懐に入れていた、文庫本を取り出す。
しかし、そこに影がさした。
「詠」
栞を挟んでいたページを開いたと同時に凛として、聞き覚えのある透き通るような声が響く。
確かに、俺の名前は詠だが、よくある名だ(ありません)。
決して俺ではないと心に言い聞かせて、本を読み進める。
すると、耳が引っ張られた。痛い。
「い、痛いって」
そう言って振り向くと、そこには1人の女子がいた。
綺麗にのばされた濡れ羽色の髪、白く、陶磁器のような肌に、スラリと長い足。
そんな、美がつくほどの少女が俺に話しかけてきた。
とは言っても俺はこいつを知っているが。
「なに?怜。」
そう、彼女の名を呼ぶ。
彼女はこの学校にいるものならば知らない人はいないと呼ばれている。
何でも頭脳明晰、容姿端麗、クールビューティーと来たもんだ。
それはさぞお近づきになりたい男子もいることだろう。
そんな引く手数多な彼女だが、浮き足立った情報が今までない。
それが不思議ではある。
「隣いい?」
そう、聞いてくる。
言うのが遅れたが、彼女とは所謂幼なじみというやつだ。
家も近く、0歳からの付き合いらしい。
らしいと言うのは俺が全く覚えていないのだ。別に記憶喪失だとかではない。
ただ単に俺が忘れているだけである。
もちろん、と断る理由が無いので、承諾する。
特段彼女が座ったところで俺は何もしない。
先ほど出した本を再度読むだけだ。
食堂の喧騒をバックグラウンドに、俺は黙々と本を読み続ける。
隣の彼女は別に何をするでなく、ただ足をぶらつかせていた。
たまに彼女に話しかけてくるイケメンの上級生や下級生がいたが、彼女は一蹴していた。
解せぬ。
さらには、同性の子も一蹴していた。
…解せぬ。
男どもはわからなくもないが、何故同性の子達の誘いにも乗らないのだろうか。
俺がそう思ったところで、予鈴がなる。
彼女とは違うクラスなので、ここでお別れである。
「じゃあまたね。いつも通りの場所で待ってるから。」
そう言って俺は去る。
先程にも言ったが彼女とは家が近い。
なので、一緒に登下校しているのだ。
小中高と変わらない生活に、高校入学当初は安心したものだ。
しかし、彼女のクラスは終礼が長く、俺は1度一人で帰ってしまった。
その次の日から彼女の機嫌が目に見えて悪くなっており、2日位口を聞いてくれなかった。
それほど話しているわけでもないので、ちょっと寂しいくらいで済んだのだが、テスト範囲とか、小テストの範囲などを聞けなかったのは痛かった。
それ以降俺は校門の端の隙間に隠れて、立ちながら本を読み、彼女を待つことにしている。
何故隠れているかと言うと、単に目立ちたくないからである。
1度普通に待っていたら次の日に大変な目にあったことはもう思い出したくない記憶である。
7限終了のチャイムが校舎内に響く。
それと同時に授業が終わり、終礼までの休憩タイムとなる。
その間、俺はカバンに教科書を詰め込み、懐から本を取り出し、読み耽る。
ペラ、ペラ、とページをめくる音が続く。
おかしい。
俺のクラスの担任は終了が早くて有名のはずだ。
なのに、一向に来ない。
俺としては、本が読めるから別に隣のリア充君みたいに怒りは覚えないが、帰りたいという気持ちが心を支配する。
そんな気持ちを流すためのように俺は本を読む。
今読んでいるのはミステリーで、只今絶賛謎の種明かしの途中である。
俺はすぐに本の世界にのめり込む。
すると、先程まであれほどリア充共が奇声を上げていたのがざわつきに変わる。
何事かと、俺は栞を挟み、あたりを見回す。
すると、教室の後ろ扉に、怜の姿が見えた。
彼女のクラスの方が早く終わったみたいだ。
明日は雪が降るかもしれない。
あ、いつも降ってました。
ふと、彼女と目が合った。
「詠、早く帰ろ。」
「まだ担任が来てないんだ。済まないがもうちょっとだけ待っててくれ。」
「なら、何か本貸して。暇。」
「分かった。」
そう言って俺はカバンの中にある数冊の本を取り出し、どれがいいか彼女に尋ねる。
「詠のお気に入りで」
「いや、全部気に入ってるんだけど。」
「なら一番右。」
俺は立ち上がり、彼女に本を渡す。
受け取った彼女は踵を返し、去っていった。
俺もすぐに自分の席につき、この本の最後を見届ける。
今からエピローグなのだ。
しっかりと、読まなければならない。
と、その時に、大慌てで担任が駆け込んできた。
「ごめんみんな!寝てた!」
と、爆弾発言を添えて。
おい、教師が何寝てんだよ。普段あんなに注意するくせに、と、クラスの視線が担任に刺さる。
先生はハハ…ハ…と乾いた笑いをこぼし、その後咳払いを一つ。
「えっと、今日はお疲れ様。伝達事項は特になし。明日も頑張ろう。あ、女子達ありがとう。チョコ美味しかったよ。以上!解散!」
おい、こんなことのために俺は3.40分も待たされたのか。
またクラスの視線が担任に刺さる。
「えっと…、女子にお返しのついでに、クラスのみんなにジュース奢るよ…」
「「「やったーぁぁ!」」」
まぁ、何ともちょろく、太っ腹な担任である。
俺は財布とにらめっこしている担任を流し目に、すぐに、合流地点へと向かう。
外に出ると、意外にも風が強かった。
「すまない。遅れた。」
「ん」
と、彼女は俺の胸に、先程貸した本と一つの小包を押し付けた。
これは…
「今日、バレンタインだから、君にあげる。」
そういった彼女はマフラーで鼻までを隠し、先に歩き出す。
心なしかほんのりと、顔が染まっているようにも見えるが、きっと寒さのせいだろう。
「ありがとう。お返しは何がいいかな?」
俺は少し、気分が良くなり、前を歩く彼女に尋ねる。
「いらない」
しかし、キッパリと断られた。
俺はショックを受けつつも理由を聞く。
「だって、いつも貰ってるから」
一体何をだろうか。
俺は記憶をたどる。
しかし、彼女にものをいつもあげている記憶など無かった。
「え、何をあげたっ「けど、」」
俺の言葉を遮り、彼女は振り向きつつ、言う。
冬の乾いた風が彼女の髪をフワッとかきあげる。
「どうしてもって言うなら、考えとく」
そう言うとまた、前を向き、歩き出す。
俺は彼女の背を追いかけ、肩を並べる。
夕日に反射したミラーが俺達の影を多方面へと伸ばす。
それはまるで、冬に立派に咲き誇り、春の訪れを、ひと足早く知らせにきた、二輪の花のようだった。
いかがだったでしょうか。
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