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ドラゴエスタと千剣の魔王  作者: デウスXマキナ
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第二話 転入

 「ごめんなさい」


アルマ・シェフィールドの悪戯騒動で、一番の被害者と言えるルーミアは、直後素直に頭を下げた。

クロードも謝る女性を罵倒するまでのインモラルな人間ではない。

取り敢えず、その場は許諾して収めて、ルーミアに案内を頼むこととした。


「…申し遅れましたね、私はルーミア・ユースフォンドと言います」


「ユースフォンド……あぁ、≪爆炎女帝≫の…」


クロードがやや納得した様子を見せる。

その間に、リーザが口を開き、情報を端的に伝えていく。


「リーザ。こっちはロー、よろしく」


「俺はローじゃなくて、クロードだ。…ま、よろしくな」


「リーザさんと、クロードくん、ですね?」


「え、何、ルーミアって俺らとタメじゃないの? 呼び捨てで構わないけど」


「年齢は十七ですけど…。その、呼び捨てにするのって、少し抵抗があって…」


「そっか。なら、まぁ、なに、呼び捨てにする覚悟?が出来たら呼んでくれよ。あ、後、年はやっぱり同じだな。リーザは少しワケ有りだけど……」


「ロー、うるさい」


リーザは俊敏な動きで脛を蹴り当てる。

いって! と脛を抑えて片足でちょんちょんと飛び上がるクロード。


それを見て、思わずルーミアは相貌を崩した。


「人が痛がってるのを見て笑うとは……」


「ち、ちが……。そ、そうではなくてですね、その、お二人は仲睦まじいのだなぁ、と」


「だから、俺にその手の趣味はねーって。なに、お前ん中で俺はドMキャラになってんの?」


「ど、えむ……?」


「あー、悪い。忘れてくれ。ドが付くほどのマゾヒストって意味だ。自分で調べな」


お生憎様、クロードもリーザも長年冒険者暮らしである。


 冒険者は謂わば傭兵のそれに近い。酒場で屯するオッサン達は日銭を稼いでは、最低限の貯蓄分を残してほぼ全てをエール酒に注ぎ込む。酒に酔って徒党を組んでは下卑た話題で盛り上がり、やれあそこの女は良いだの悪いだのと下らない話に花を咲かせる。


悪質な環境で育った二人の言葉は、一つ一つに品の「ひ」の字も感じられないだろう。

リーザに関しては少し例外だが、口数が多くなれば無論ボロが出る。

結果、二人揃って冒険者から成り上がった体の、薄汚い下々の庶民に過ぎないのだ。


それからは暫し歓談に耽りつつ、巨大な学院の中をルーミアに先導されながら歩いていく。


≪エリシュオン竜姫学院≫


 その実態は五階層の高さと、全長8キロにも及ぶ敷地面積を誇る巨大な教育機関である。中央広場に設置された天窓は突き抜けるように高く、比較的ガラス張りの壁が多い学び舎なので、朝の新鮮な太陽光が鮮やかに、艶やかに豪華な内装を照らす。キラキラと乱反射する陽光は、それだけで豪奢な絨毯のそれに等しい。豪華絢爛とはまさにこの事だろう。


 十歩歩けば調度品が置かれているような、如何にも『お嬢様学校』然としたスタンスに、クロード・リーザ両名は呆れを通り越して最早感服していた。


成金趣味、此処に極まれり、というヤツだ。


無論、内装が全部純金なワケではない。どちらかというと、銀や水晶の方が多いだろうか。

アルマ・シェフィールドは鉱石マニアだ。それも高価で美しい物ともなれば、尚更執着する。


彼女の趣味が具現化した空間に、思わず胸焼けしそうになってしまう。


━━それにしても、何より驚いたのはルーミアについてだった。


 この豪華な校舎に見劣りするどころか、まるで自分の引き立て役にしてしまうかのような、圧倒的な美貌。セミロングで切り揃えられた灼熱の赤髪は、色合いに似つかわしくないはずの清楚さや清潔感を生み出している。澄んだスカイブルーの双眸は、純粋な光を湛えており、見る者の心を写す鏡のそれに近い。


 全体的に白色をベースとして、ブレザー部分にはアクセントにブルー、スカートは末端を黒く縁取りする事で野暮ったく見せないスタイルの制服は、凡庸な━━しかし、庶民には手も足も出ない程の高額な━━ものであるが、しっかりと着こなしている姿を見るに、持つ者である事を再度実感する。


初めてご対面した時は、クロードもリーザも人の顔など然して見る事も出来なかった。

故に、こうして間近でご尊顔的なルーミアの整った表情を見ると、思わず感嘆の声が漏れる。


「……どうか、しましたか?」


「い、いや、ちょっと雰囲気に呑まれてな」


「分かります、その気持ち。此処、まだ新設なので、五年程しか経過してないらしいですけど、私もそうでしたよ。初めて来た時の、何て言うんでしょう……こう、場違いな感じが、今も鮮明に思い出します」


「だ、だよな…」


言えない、少しばかりルーミアに見蕩れていたなんて、口が裂けても言えない。

クロードは苦笑いを零した。言えない理由は二つ在り、一つは悟られるのが気恥ずかしいから。


もう一つは、妬きもち焼きの甘えん坊体質なリーザが酷く不機嫌になるからだ。


無論、既に若干クロードが呆けていた様子から感じ取ってやや不機嫌気味にある。

此処で敢えて明言でもしようものなら、今日一日は膨れっ面でまともに口も利けないだろう。


能天気でやや天然混じりのルーミアと、クロードの機微には敏く嫉妬癖が強いリーザ。


両者の板挟みに遭い、それからは歓談しながらも、学院長室までの道程で冷や汗が止まらなかった。







◆       ◆       ◆







 「ここが学院長室です」


ルーミアの先導に従い、玄関から入室し、既に五分程が経過している。

最上階の右手最奥地に存在するこの部屋に辿り着くまでに、少しばかり疲れが溜まった。


「積もる話もありそうですから、私は自分のクラスに戻りますね」


「あぁ、案内ありがとう」


にこやかに別れを告げるルーミアに、言葉だけでも、とクロードが感謝の意を告げる。

トタトタと数歩ばかり進むと、くるり、と唐突にルーミアが振り返った。


「あ、あの……」


「ん?」


「その……クロードくん、貴方とは一度、じっくりお話してみたいです」


「…ま、機会があればな」


「二人きりは不健全。当然私も参入する」


「ふ、ふけん……!?」


「おいバカ、ちょっと掠ったようなワードでも敏感に反応するんだから、自重しろ」


「それについてはしっかりと謝罪。ごめんなさい」


「い、い、いえ、いえいえ! こ、こちらこそ、も、申し訳ないです!!」


何故か無意味な謝りと共に、びゅん、と風もビックリの素早さで目の前からルーミアは姿を消した。

リーザはふんす、とやり切った感を演出しながら、鼻から息を吐き出した。


「……やれやれ。取り敢えず、行くぞ」


ギィィ、と古めかしい音を上げながら、漆塗りされた濃紺の扉を開く。


先ず目に飛び込んだのは、圧倒的な書物の量であった。


 書斎と言われても納得してしまいそうな量の書物。それらが散乱する事なく、巨大な本棚に丁重に仕舞いこまれている。クロードは、大雑把でやる事為す事が雑極まりない、体たらくなアルマの姿しか見た事が無いので、彼女の私室を初めて観覧して、思わず新鮮な感動に囚われた。


長机に豪奢な椅子、その背凭れを此方に向けた当人は、静かに振り返る。


アルマ・シェフィールド。


 ベージュ色の長い髪をハーフアップにし━━視力が悪いわけではないのだが、知的なイメージを醸し出そうとしているのだろう━━縁なしの伊達メガネを着用している。もう五年は会ってないはずだ、再会による感動も一入といった所だろう。


━━なんて温い話は無い。


くるり、と振り返ったアルマに向けて、情け容赦なく何処からともなく取り出した剣で切りかかる。

クロードの一撃は確実に、そして絶対に不意を突いていた。


それこそ、ルーミア『程度』であれば、きっと気づく間も無く殺されるレベルで、だ。


しかし。


「あらあら、全く、物騒な挨拶もあったものね」


つい先程リーザが遣って退けた、二指による真剣白羽取り━━厳密には少し違うが。

それを、完全に虚を突いた一撃を防ぐ為に平然とした顔で活用したのだ。


「…チッ」


「ロー。殺るなら、事前に合図」


「…あのねぇ、せめて其処は違うフォローしなさいよ、リーザちゃん。ま、けど、そーゆートコ好きよ」


クロードは即座に空中で回転しながら距離を取る。いつの間にか、先程の剣は消えていた。

こほん、とわざとらしく咳払いをすると、アルマは微かに濁りを見せる碧眼で二人を見つめる。


「はい、取り敢えず入学おめでとう。どう? ウチの学院のエースは?」


「…ルーミアの事か。まぁ、悪くないんじゃねえの。実力は勿論、ポテンシャルも高い。格式ばったやり方を止めさせて、もっと柔軟な動きに重点を置けば、もっと強いだろうな」


「≪第六章≫の詠唱、凄い。計り知れない実力」


殺されかけた人間と、殺そうとした人間にしては、随分と平穏な会話である。

というか、≪始源の竜装兵姫オリジン・ゼロ≫ではこれが最早日常茶飯事なのだ。


━━まぁ、そもそも全員が集結する処か、一対一でさえ会う事の無い連中なので、実害は無いだろう。


「…まー、アタシとしては? ボッコボコにされちゃうんじゃないかって心配してたけど」


「寝言は寝て言え。こちとら元≪始源の竜装兵姫オリジン・ゼロ≫だぞ。そう易々と負けていられるかってんだよ。性悪女」


「あーらら、ひっどい言い草。アタシが折角心配してあげたのに。殺人装置くん♪」


「……チッ。相変わらずだな、そのうざってえ面と、人の神経逆撫でする喋り方はよ」


「ふふん? そうそう人の性根なんて変わんないわよ。ってか、それ言っちゃう? ブーメランもいいとこでしょ、それ。リーザちゃんは例外としても、アンタだってそーでしょーが」


バチバチ、と火花が散る程に強く睨みあう両者。

リーザはふぅ、と溜息を付いて、先程から影で姿を隠している『もう一人』の何者かに声を掛けた。


「貴方も黙って見てないで止めて欲しい」


「…気づかれていたようですね」


すすす、と御淑やかな歩法で扉の影から姿を現したのは、メイドだった。


 モノトーンカラーで描かれる、フリルの付いた可愛らしいデザイン。そもそも一般のメイド服自体をお目に掛かった事のないレギオン兄妹であったが、それでも目の前の謎の美少女とメイド服のシンクロ率が以上に高いことから、きっとメイド暦が長いのだろう、と直感した。


「リーザちゃん鋭いわねぇ。≪影殺しフェード≫させておいたのにぃ」


「単純に五感を騙すのなら、隠す方がより賢明。幾ら気配を消していても、視線までは消しきれない」


「ほんっと、頭抜けて五感が敏感よね」


良く出来ました、と言わんばかりのアルマ。

先程から一連の行動に深く瞑目し、口を閉ざしていたクロードが唐突に口を開いた。


「……お前、≪ランスロッド≫だろ」


「よくお分かりになられましたね。何処でバレたのでしょう?」


「……アルマ、テメェ…。自分の≪契約竜バディ≫にメイドの格好させて、家事全般こなさせてたのか…!?」


「あら、失礼ね。アタシだって一介の聖職者ですのよ? ランちゃんが不恰好な≪竜族≫の姿じゃ、何か締まらないでしょ。丁度お世話してくれる人も欲しかったし、ランちゃんならメイド服も似合うだろうなーって思ってたし、一石二鳥?」


「おい、自分の種の起源を根本から否定されてんぞ、お前」


「……? 別に私は自分自身の出自は勿論、種族や性別に対して特別な想いはないですし、≪竜族≫である事に関しても、矜持や誇り、なんてものは一切在りませんので」


相変わらずの無頓着無関心な対応━━これだからいい具合にアルマに利用されてしまうのだ。


彼女、否、彼の者の名前は≪ランスロッド≫


 ≪竜族≫の中でも、それらを統括する≪円卓≫に数えられる高貴なる血統の継承者だ。計十二名からなる≪円卓≫は、今や血統の後継者達も散り散りとなってしまい、機能していない。代わりに、と言ってはなんだが、≪人族≫の≪竜装兵姫ドラゴエスタ≫がそれをもじって≪円卓竜姫士(RODK)≫なる世界機関を建築し、≪竜装兵姫ドラゴエスタ≫の画一化を目指している。


≪Round of Dragon Knight≫━━その頭文字を取って、≪RODK≫と命名されている。


━━大幅に話が横道に逸れたが、要約すれば、≪竜族≫の頂点の一角なのだ。


そして、≪円卓≫に数えられる十二名の血筋は、密接に≪人族≫と繋がっている。

故に、その能力を以て、人にも竜にも化ける事が可能なのだ。


そう、それはつまり━━━。


「それなら、クロード様、貴方の≪契約竜バディ≫である其方の、リーザ様にも問うて見ては如何ですか? リーザ様も、≪円卓≫の血筋を背負う者なのでしょう?」


リーザ・レギオン。彼女もまた、≪円卓≫に数えられる、十二の長の一角。

その上、ただの長ではない。自分を除く十一の頂点を総括する、実質的≪竜族≫の頭領。


≪アーサー≫


≪竜族≫の実質的頭領にして、≪龍帝≫の名を冠する事を許された唯一無二の血族。


 ≪ランスロッド≫とクロードは初対面ではない。戦場で幾度か手を組み共闘した事もあるからだ。無論、あくまでビジネスライクな関係であり、話した事は無い。しかしながら、リーザと≪ランスロッド≫は完全なる初対面だ。リーザ自体、あまり人前に出ることを好まない為、必要不可欠であると判断された時以外は戦場にさえ出ることが無かった。


何より、当時はクロード・リーザ両名共に心中穏やかではなかったのだから、致し方ないだろう。


問題は、彼女━━≪ランスロッド≫が初撃にしてリーザの核心を突く一言を放った事にある。

既に五年の歳月が過ぎて、傷も癒えてはいるだろうが、決して掘り返して良い話題ではないのだ。


とは言え、相応の踏ん切り及び割り切りは当の昔に済んだ事。

未だ問題は山積みで、解決へ向けて事態がやや前向きに進み始めたに過ぎない。


そして、そういった柵から開放されるべく、二人は根無し草の冒険者を続けていたのだ。


━━向き合う覚悟、立ち向かう勇気、それらを蓄えながら、癒えぬ傷を少しでも治す為に。


 だから、≪人族≫にして≪竜族≫━━ハイブリッドな形態、≪竜人族≫であるリーザの答えは、問われた瞬間、否、問われるずっと前から決まりきっていたのである。


「私は誇りも矜持もないけど、自負はある。最強の血筋に生まれた、っていう自負」


本来、種族間での交配技術は進んでおらず、大抵は母体が拒絶反応を起こす。

リーザの母親━━名も知れぬ一人の女性は、余程強靭な生命力と精神力を有していたに違いない。


「……ここ数年で、変わったみたいね」


「まぁ、リーザ自身、割りきりが必要だったんだ。当人は不貞腐れて、結局開き直ってあっけらかんとした今に至るまでに、長い月日を費やした」


「かっこ良く決めたのに、ロー、酷い」


むすっ、と表情を少し膨らませながら、不満気にローを上目遣いに見上げる。

もう手馴れたもので、クロードはそっと柔らかく艶のある黄金の髪を撫で上げた。

見る見る内に表情が和らぎ、いつもの無表情に戻る。


ただ、少しだけ頬が紅潮しているのを見るに、ご機嫌ナナメではないらしい。


と言うより、クロードが編み出したリーザのご機嫌取りスキルの一つだ。

妹の頭を撫でる兄、その如何にも兄妹然とした姿に、アルマは一言付け加えた。


「…変わったって言うのは、アンタもよ、クロード」


「俺が…か?」


「当時は死に場所探してるみたいにギラギラ目ぇ光らせて歩き回ってたでしょ。今のアンタは、なんか、落ち着いたっていうか、大分穏やかになったって感じね」


本人的に変化を感じはしなかったが、どうやら知らぬ間に少しではあるが、成長していたのだろう。

当時十二歳にして、実力第一主義の冒険者稼業に足を突っ込んだのだ。

守るべき妹を持ち、人を殺さず友好的に金を稼ぐ術を知らず知らずの内に覚えていった。


それは、リーザ同様に、クロード━━彼もまた、≪人≫としての意識の開花があったのだろう。


「調子は良いの? リーザちゃんは平気みたいだけど、アンタの『三割』の方は」


「これといって変化無しだな。まぁ、ここ最近は友好的かも知れんけど、かといって特別仲が良いわけではないし、隙あらば残る『七割』を乗っ取ろうとしてくるからな」


「ふーん……にしても、アンタ…腕落ちたわね」


「うっせぇよ。あれは手加減だ、手加減。ってか、それ言うならお前のさっきの≪ライトニングボルト≫もカスだったじゃねーか。あんなん、ただの弓矢のがはえーだろ」


「……あのねぇ、これでもアタシは教職者なのよ。平然と自身が手塩に掛けて育てた生徒の前で、殺害行為を横行するのは、超絶的にインモラルでしょうが」


━━と、心配をしたりされたりしてみては、次の瞬間には口喧嘩が勃発する。


喧嘩する程仲が良い、とは良く言うが、この両名間においては言葉の真偽を疑いたくなる。

暫しの睨みあいを挟んで、一瞬だけ瞳を細くすると、アルマは鋭い声音で一つ問う。


「いつの間に≪無詠唱ノーモーション≫で≪千剣≫を展開出来るようになったの?」


「んなの、数年前の話だ。お前を含めて、当時のメンバーは誰一人信用してなかったからな。切れるカードを保険に一枚持ってただけの事だ」


「相変わらず陰険ね。アンタの情報操作にまんまと引っかかってたって思うと、怖気がするわ」


≪千剣≫


 名前の通り、『千にも及ぶ刀剣を生み出す能力』である。クロードが男にして≪竜装兵姫ドラゴエスタ≫を名乗れるのは、『竜語を理解し、使役できるから』だ。その点を除けば、≪千剣≫以外のスキル適正はクロードに無い。自身の『三割』に依存した能力なのである。


しかし、それ故に非常に強力でもある。


 あれもこれも、と取捨選択をしている暇を、たった一つしか選びようの無い固有の能力に全精力を注げるのだ。熟練度は無論、その技術に関してはスペシャリストの域に達しているだろう。


「…って、あまり長話もしてられないのよね。取り敢えず、これ着てきなさい」


唐突に放り投げられたそれを見事顔面で受け止めたクロードは、表情を歪めた。


「ウチの制服よ。アンタのは特注なんだから、感謝してほしいわ」


「そりゃご丁寧にどうも。ほらよ」


「中々お洒落。可愛い」


ほい、と気軽に袋詰めされた制服を投げ渡す。

リーザはデザインを気に入ったのか、ほくほく顔で胸元にそれを抱き寄せる。


「中に学生寮の鍵も入ってるわ。部屋は隣接させておいたから。それと、貴方達は二人共『Sクラス』で授業を受けてもらうわ。その点も含めて、もう一度立ち寄ってもらえるかしら?」


「構わないが、なんだ、Sクラスって」


「学年間での上位クラスの総称よ。主に学年主席から四十位までが圏内で、学年が上がる毎にリセットされて、進級テストの内容次第で継続もするし、下に落ちる生徒も居るわ」


「一度決まったら、その学年での取り返しは不可能なのか?」


「ええ。最初でコケるヤツは、大抵最後もコケるものよ。逆説的に言えば、最初に成功したヤツは、最終的に万事成功するのよ。アタシみたいに」


「一言余計だ」


ややドヤ顔で告げるアルマにうんざりしつつ、二人は部屋を後にした。

しかし、学生寮が何処にあるのか、分からないという現状にはたと気が付いた。


「…不味いな、学院長室何処だ?」


「探し物?」


「いや、学生寮って何処か分からねえだろ?」


「…これじゃないの? 地図、入ってた」


そこには空中から見た≪エリシュオン竜姫学院≫の模式図と、学生寮の位置が明記されていた。

相変わらずソツの無い仕事ぶりである。


「こういうトコ、変わらない」


「そうだな」


巨大な迷宮とも思える学園を、北へと向かって二人は歩を進めた。



 


能力、と≪竜語展開式能力≫は全くの別物です。

つまり、クロード君のそれと、ルーミアさんその他のそれは相応にして違います。


はい、補足説明でした。


今後も語彙力の足りない作者は、後書きで補足説明していきますね。

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