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ドラゴエスタと千剣の魔王  作者: デウスXマキナ
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第一話 騒動

毎日一話更新を心掛けます。

しかしながら、作者は非常に精神力が乏しいので、時折更新速度が低下します。

その点をご理解した上で、ご了承下さい。


くどいようですが、ブクマ登録、評価、感想等も宜しくお願い致します。

 クロード、リーザ二名が学院まで残り数百mの距離に到達した頃。


≪エリシュオン竜姫学院≫、学院長室に、≪風紀委員セーフティ≫が収集されていた。


 ≪風紀委員セーフティ≫は、各学年の成績上位者十名のみ、計三十名で形成される一大規模を誇る生徒統括システムの一環である。完全な縦社会であるこの学院では当然ながら、強き者が弱き者を管理下に置くのが慣わしと化していた。


やや悪習な感も否めないが、増長した生徒を生み出さない為の抑圧装置と考えれば悪くも無い。


現リーダーである、三期生のリューズ・ルミエラが口火を切った。


「我々を総員収集させるとは、一体何が起こっているのですか、学院長」


リューズの一言に、その場に集まった面々が相槌を打つ。


 ≪風紀委員セーフティ≫は、その性質上数が限られてしまう。無論、問題児の巣窟ではないので、常日頃から問題が発生しているわけではないが、軽微なものであれば、少なからず週間で何度か起きたりはしているのだ。


ただでさえ数が少ない≪風紀委員セーフティ≫が団子状態で詰め寄るのは非効率的だろう。

故に、自分と対応する学年の問題を担当するのが原則であり、こうして揃い踏みする事は滅多に無い。


「…まぁ、起きている、というか、起きる…ってトコなんだけど」


対する学院長、アルマ・シェフィールドは、やや言葉を濁してそう言った。


 アルマは学院長であると同時に、世界最強の名を欲しいままにした≪竜装兵姫ドラゴエスタ≫である。かつては≪始源の竜装兵姫(オリジン:ゼロ)≫と呼ばれる、六名で結成された最強の≪竜装兵姫≫集団のトップを担い、多彩な攻撃と戦況を細かく読み取る観察眼を武器に前線で戦った英雄なのだ。


何時も大抵のことは平然とした顔で対応する彼女の表情に、やや影が落ちる。

それだけで、場の面々は事の重大性を一様に感じ取った。


「今ね、この学び舎……まぁ、森なんだけど━━≪クロノフォレスト≫に侵入者が見つかったのよ」


「あの森に…? 我々でも野外訓練の時にしか使わない、あの場所を?」


「まぁ、正面突破で突っ込むには、森を突っ切るしかないわけだし、当然と言えば当然だけど…」


「……だけど、なんなのですか?」


そこで敢えて微妙に間を置いて、アルマは一声で吐き出す。


「侵入者が、男なのよ」


「男……?」


集められた全員が、その言葉を音としては認識していても、意味として認識出来なかった。


 この学院は無論、男子など居ない。乙女の園にして、外界とのパイプラインを途絶した隔離空間なのだ。必然的に、男や男子、ともかく彼女らにとって異性と成り得る存在を形容する言葉など、授業では勿論、授業の合間にだって出てきはしない。


それ程までに、無駄で無用な情報をカットした教育政策が取られているのである。


アルマは口端を吊り上げた。勿論、目の前の生徒には見えない角度で、だ。


「…そう、兎に角、緊急事態よ。もし第一防波堤である貴方達で防ぎ切れなければ、学院の女生徒は無慈悲にも蹂躙されてしまうわ…無論、性的な意味合いでね」


たった一言、付け加えられたそれだけで、彼女らの瞳に真っ赤な炎が見て取れた。

大方正義感にでも囚われてしまったのだろう。生徒の信心を弄ぶのは、アルマとしても心苦しかった。


━━などと、少しばかり聖職者ぶってみる。


「急いで正門前へ向かって頂戴」


「はっ!」


脱兎の如く学院長室を飛び出すと、各自最短ルートで正門前へと向かっていく。

その姿を眺め、クスクスと堪え切れなくなって笑い声を漏らす。


「ふふ……さぁ、どれだけ『腕が落ちたのか』、見せてもらいましょうか。クロード」


学院長室、その中央に位置する巨大な机、そして豪奢な椅子。

その真後ろに設置された、大きく間取された硝子窓は、そのまま正門前を見渡せるようになっている。


未だ笑いを抑える事が出来ないアルマは、一人静かな学院長室で上品に笑うのであった。







◆       ◆       ◆







 「そろそろか」


アルマが意地悪くも企んだ計画など露知らず、リーザとクロードは歩を進める。

あれから数分歩いた結果、木々の数がたった数分の間で見る間に少なくなっていった。

これは、人が少なからず歩いている証拠であり、結果ゴールへの近づきを感じる事が出来ている。


それにしても、とクロードは前置きした。


「刀剣は腰に差して歩くもんじゃないな」


「普通はそうやって歩く。ローがおかしい」


「…いや、けど、腰の辺りでガチャガチャと喚かれると非常に鬱陶しいんだけど」


「我慢」


「…はい」


今更ではあるが、リーザはクロードの事を「ロー」と呼ぶ。

相対するクロードは、特別呼称をアレンジするでもなく、普通にリーザと呼んでいる。


当人曰く腰元でガチャガチャ言わせながら、歩く事更に数分。


陽光の量が圧倒的に増えた。木々が大幅に少なくなったのだろう。

目の前にはゴールと思しき、人工の舗装された道路がちらりと視界を掠める。


「よし、着いた…!!」


リーザとクロードは勢いよく駆け出し、白光輝く未知なる場所へと足を伸ばす。


だが。


「侵入者と思われる不審者発見ッ!!」


出迎えたのは、非常なまでの一言。

目の前には、敵意を剥き出しにした、学院の女生徒と思しき人材が数十名。


各々が得意とし、自分に見合った≪竜装イデア≫を展開している。


 ≪竜装イデア≫は、≪竜装兵姫ドラゴエスタ≫が常用する兵器の一つである。≪竜族≫の技術で精製された武器は、既存のそれを大きく上回る耐久性と破壊力を持つ。最も自分の戦闘スタイルに対応する装備を契約した≪竜族≫が見繕い、≪詠唱スペル≫一つで展開出来る代物だ。


遠距離系の弓が半数名、近接系の剣・槍・斧・鎚……などが残る半数を占めている。


「……え、どういう事」


「…理解に苦しむ。多分、アルマの仕業」


苦言を呈したリーザの様子を見て、一瞬で理解を早めたクロードは、静かに脱力した。


 アルマ・シェフィールドという女は、兎に角狡猾で意地悪で悪戯好きなのだ。一先ず、人をイジるネタを見つけると、数週間は飽きずに連呼する。大事な食料を独り占めしては、チームの誰かに責任を擦り付ける。明確な敵と分かれば、いたぶってボロボロになるまで遊び尽くす。


史上≪最厄≫の悪女、それがクロードの見解の及ぶ所の、アルマ・シェフィールドなのである。


その点を鑑みるに、アルマがクロードをわざわざ呼び寄せた理由も明白になってくる。


「……あの野郎…ッ!!」


クロードが呼び出された理由は単純に一つ、『学園に入学する』為だ。


 クロードとしては、根無し草の旅人を長年やってきたので、衣食住が安定した生活にも憧れていた。何だかんだでリーザの服代にも余計な金が飛ぶし、はっきり言って生活に苦労が絶えなかった日は無い。そんな所に、かつての旧友━━アルマからの有難い勧誘が舞い降りてきたのである。藁にも縋る思いで飛びつくのは必至と言えよう。そして、それが罠である事も、本来ならすぐ気づけたはずなのだ。


そして、結論からして、これは無駄な事ではない。


言ってしまえば、入学試験、学園に入学する実力を現段階で保有しているかのテストなのだ。


そこまでナメられてたとは思っていなかったクロードは、やや憤慨している。

そして、「……あの野郎…ッ!!」からの情緒不安定な一連の動作を見て、彼女らは意思を固くした。


━━こんな危険な奴は一瞬で排除しなければ、と。


だからこそ、彼女は告げた。


「……貴方に任せていいかしら、ルーミア」


三期生にしてリーダー、リューズの鶴の一声で、群集の中から一人の少女が飛び出す。


ルーミア・ユースフォンド。


 ≪爆炎女帝≫の異名で知られる、レヴィア・ユースフォンドの一人娘にして、現当主である。実力は折り紙付きで、何より火属性魔法と多彩な剣術スキルを組み合わせた≪火炎舞踏≫は、ユースフォンド家の伝家の宝刀、使いこなすのは当然ながら、自己流のアレンジを加えたそれは、元より家柄にも血統にもセンスにも恵まれた彼女の実力により拍車を掛けていた。実力はリューズを上回るほどである。


「はい、お任せ下さい」


凛々しく返答を返し、十字剣をスラリと引き抜く。

純白の輝きを放つ刀身を、数十mの間隔が開いたクロードの喉元へと差し向ける。


「……サシでやるってことか?」


クロードとしては有難い話だが、なにやら話が好転し過ぎている。

無論、此処に居る数十名が一度に襲い掛かろうと、クロードとしては問題無かった。


単純に手間が省けて楽なのだが、どうしても不気味な感じは否めない。


「ええ。不審者如き、私の≪炎剣≫で消し炭にして見せます」


「……相当自信があるみたいだな…」


「ロー、手伝う?」


「いや、十分だ。取り敢えず、不意打ちとか怖いし、そっちは任せた」


コクリ、と頷くと、リーザはその場に腰を下ろした。

目の前の威圧的な人数に大して余裕の対応だ。


「アルマに指図されるのは極めて不愉快なんだが……まぁいい」


ルーミア同様に、クロードも粗雑な鞘に収められた剣を引き抜く。

それは、ルーミアのそれとは真逆で、無骨、という言葉を体現するかのような出で立ちである。


「では━━いざ、尋常に」


「………」


「始めッ!!」


その一言で、決戦の火蓋が切って落とされたのだった。







◆       ◆       ◆







 ≪竜語展開式能力ドラゴニックアーク


通称≪魔法≫と呼ばれ、≪竜族≫の能力の一部を指し示す。


 ≪竜装兵姫ドラゴエスタ≫の資格━━それは≪竜族≫と契約した印となる、≪烙印シグマ≫の存在である。多くは利き腕の手の甲に現れるが、取り敢えず、体の何処かに存在していれば、≪竜族≫と契約を交わした証拠となるのだ。


そして、≪竜族≫と契約を交わすと、高次元言語技術である≪竜語≫を理解できるようになる。


 ≪竜語≫とは、それ自体が霊的因子を持つ≪言霊≫に由来する能力顕現の必須段階だ。≪竜語≫で紡がれた言葉は、意味をそのまま現象として具現化させる。


 それらを総称して≪竜語展開式能力ドラゴニックアーク≫と呼ぶ。≪第一章第一節≫から≪第十章第十節≫まであり、章・節の数が増える程威力や効果が増していく。ただ、第一章と第二章での効果や威力の比較は意味を為さない。章節ごとに、≪盟約テーマ≫となる≪能力システム≫は変わっていく。例えば、第一章では≪強化系魔法≫、第二章では≪操作系魔法≫、といった具合にだ。


各章節の≪第十節≫は、その章節の末端であり、技術の精鋭である。


平均して、≪第五章≫までが、大抵の≪竜装兵姫ドラゴエスタ≫が使える領域だ。


━━しかし。


「汝が神炎を我が剣に宿さん━━≪エンチャント:フレイム≫!!」


≪属性付与魔法≫、≪第六章≫の序章を彩る強化魔法の上位互換。

目の前のルーミアは、それをいとも簡単に成し遂げた。


「(炎剣ね……なるほど、そりゃ、炎を纏った剣なんだから、炎剣だろうな)」


白銀の十字剣に朱色の赤みが差し込む。切先の周辺には、うっすらと陽炎が漂う。

一撃でも食らえば致命傷だな、クロードはやや左足を後ろに引いて構える。


「ハッ!」


瞬間、地を蹴って一足飛びでルーミアがクロードに肉薄する。

右肩を後ろに引き、十字剣の刀身に至近距離で左手を添える━━刺突の典型的な構えだ。


刺突はその性質上、一直線にしか進めず、付け入る隙の多い攻撃の型と言える。

だが、高速に近い速攻の一撃に関しては、これ以上最適な型は無い。


「(捉えた!)」


ルーミアは眼前で身動き一つ取れていないクロード目掛けて、鋭く一撃放った。


だが。


フォン……!!


豪快な風切音が盛大に鳴り響き、感じていた手応えが一瞬で消えた。

それはまるで、両の手で組んだ水が、その手の隙間から抜け落ちていくような、もどかしい感覚。


さっ、とルーミアが振り返る。


すると、先程と殆ど変わらない距離に━━しかし、真逆の立ち位置に、クロードは居た。


「な……!?」


「初っ端から殺す気満々かよ……嫌になるな」


やれやれ、といった具合に肩を竦めるクロード。

ルーミアは下唇を噛みながらも、今度はしっかりと視界にクロードを捉えて反撃を開始した。


またもや一瞬で距離を詰めると、大きく十字剣を真横に薙いだ。

本来なら真っ二つ、運が良くとも深い裂傷を負うような破壊力満点の一撃だ。


だが。


スカッ……!


豪快に空振り、またも風切音だけが響く。

何処へ行った、とルーミアが視線を巡らせようとした時、いきなり彼女の視界が歪んだ。


いや、厳密には斜めになり━━そしてようやく、自分が足払いをされたのだと気づく。


「足元がガラ空きだぜ、お嬢様」


「く……ッ!」


左手と両足、腹筋だけで体勢を持ち直すと、勢いそのままに振り下ろす。

さすがのクロードも意表を突かれたのか、思わず剣で受け止めてしまった。


ジュ……!!


鉄の焦げる嫌な臭いが漂い、咄嗟にその意味を察したクロードがバックステップで距離を取る。

皮肉にも、戦闘開始と全く同じ立ち位置に後退した二人。


だが、ルーミアの口元には笑みが浮かんでいた。


「チッ……」


クロードは剣を見下ろして、忌々しげに舌打ちをした。

無骨なワンハンドソード、その丁度中央に、溶解されたような痕跡が見える。


『溶かされた』のだ。彼女が纏う炎、≪エンチャント:フレイム≫によって。


切先が損傷したのなら、まだ使い道はあった。

しかし、中央に皹にも似た損傷があっては、いつ何時バキリと折れてしまうか知れたものではない。


苛立ちをそのままに、無骨なワンハンドソードを地面に突き刺す。


「降参するのなら、極刑は免れます」


「……何処の裁判官だっての。てか、降参するわけねーだろが」


一応入学試験という体を持つこの騒動である。諦める理由が、クロードには無かった。

しかし、実情を知らされていないルーミアは勘違いを更に勘違いし、その妄想は肥大化の一途を辿る。


「…なるほど。酒池肉林の夢は諦めきれない、と」


「は? 何言って━━━」


「黙りなさい、この淫乱狂!!」


地を揺るがす轟音が鳴り響く、それはルーミアが放った振り下ろしの一撃だ。

女性特有の細腕、刀身の細い十字剣━━その二つが混ざり合ったとは思えない、強烈な破壊力。


即座に距離を取り、クロードは思考を加速させる。


いや、この場合は『使用許可』を自分自身に下す為の、猶予時間モラトリアムと言うべきか。


「(……何やら色々と勘違いしてるみてえだが…まぁ、アルマの事だ。適当にそれっぽい法螺を吹きやがったんだろう。やはり、後で一度アイツを締め上げる必要性があるな…ってか、それよりも━━)」


連続する爆裂音、その全てが観賞用にしか見えない、気障な十字剣が放つ破壊の剣戟だ。

筋力以前に、最も力を生み出しやすいフォームなのだろう。


しかし。


「(仕方ねえ)」


それは、つまり『決まった法則』があると言える。


 例えば、振り下ろす時は肩を基点にする、とか。切り上げる時は腰を基点にする、とか。真横に薙ぐ時は両手で剣を掴む、とか。本当に注意して見なければ気づかない様な、些細な着眼点、そこにこそ、この膨大な威力のエネルギーを生み出すポイントがある。


そして、そう言った『人の弱み』に付け入るやり方は、クロード・レギオンの専売特許である。


「汝、我が盟約に従い、御身に力を授け給え。我が敵を葬りし力の具現━━型は剣、その源泉となりしは汝の鉄血なり。今こそ森羅万象を切り裂け━━≪龍帝の千剣エクスカリバー≫!」


言葉が紡がれた直後、周辺の空気が明らかに歪んだ。

足元に展開された幾何学的な魔方陣から放たれる圧倒的な破壊の波動。


ヴォン…!!


暴風が一瞬だけ吹き荒び、次の瞬間には、先程と何ら変わりないクロード・レギオンが其処に居た。

だが、ルーミア・ユースフォンドは理解した。彼がこの一瞬で大幅に変化を遂げた事を。


「(目が、据わった?)」


先程まで生気を宿した≪人族≫としての瞳だった彼の眼は、完全に据わっている。

やや眠たげに瞼を下ろし、半眼で睨むような彼のスタイルは、それだけで怖気を走らせる。


そして、その一瞬の躊躇、或いは恐怖が、彼女の一挙手一投足を遅延させた。


「(まず……ッ!?)」


次の瞬間、ルーミアは空を見上げていた。

たった一秒にも満たないコンマ何秒のやり取り、先程まで両の足で地に立っていた彼女は━━。


両手両足を投げ出して、何も出来ない無抵抗の状態でその場に倒れこんでいた。


「……≪憑依解除リブート≫」


 小さく、まるで蚊の鳴くような声でクロードが呟いた。ルーミアは、先程クロードから感じ取った本能的な恐怖が緩和されていく事に気づく。今のクロードは、間違いなく初対面の時の彼そのものであった。


「これで良いんだろう、アル━━━」


「危ない」


ビシィィン!!!


振り返り様に先程から遠巻きに眺めていたであろう、アルマにクロードは声を掛けようとした。

だが、それは突如として割り込んできたリーザの簡潔な一言に遮られる。


そして、結果として彼女の言葉は虚偽ではない。


 事実、今現在リーザの右手の人差し指と中指の間には、バチバチと嫌な音を鳴らしながら白光する、不気味な嚆矢が挟まっていた。雷光を凝縮して作られたようなその嚆矢は、それこそ稲妻の如き鋭さと素早さで人知れずクロードに肉薄していたのだ。


両手で剣を受け止める、真剣白羽取り━━それの改造版である、二指真剣白羽取り。

更にそれを応用した防御スキル━━二指嚆矢白羽取り、とでも言うべき技術。


クロードを最強の矛に例えれば、リーザは最強の盾なのである。


「…はーい、ご苦労様でした」


 常人なら反応する事さえ出来ないであろう、必殺の一撃を放った本人━━アルマ・シェフィールドは大っぴらに開放した窓辺から正門前に集った≪風紀委員セーフティ≫とレギオン兄妹に向けて、事も無げに、そして然して気にした風も無く、飄々とそう言った。


「「「「……え?」」」」


勝手に意図を汲み取ったレギオン兄妹以外の面々、即ち≪風紀委員セーフティ≫は揃って声を上げた。


「あ、言い忘れてたけど、彼は不審者なだけじゃなく、れっきとした転入生よ。そこの彼女もね。そんなわけなので、各自自身の職務を全うしてくれたまいなさい! それと、ルーミア。そこの転入生兄妹を私の部屋まで案内して上げて頂戴。以上、解散!」


バタン!! と勢い良く硝子窓が閉められる。

色々と間違った言葉遣いを平気な顔して多用するアルマだが、今は何よりも━━。


「「「「ええええええええええええええええ!!??」」」」


アルマの子供染みた大規模な悪戯工作に、≪風紀委員セーフティ≫の面々は、ただただ絶叫するだけであった。



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