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伊栖之湖周辺の伝説に就いて

作者: 佐々宝砂

伊栖郡(いすのごほり)の話なら法月君に聞いた。◆ナニ伊栖郡は太平洋沿岸に位置する極当たり前の田舎であつて、とりたてて特徴が有る訳でない。只伊栖之湖という稍々(やゝ)大きめの塩水湖が一つあり、湖の周りには柞が沢山茂つてゐる。柞と書いてヒヨンと読んだりイスと読んだりする。伊栖の名は此の木に由来するものであらう。住民が未だに素朴なのか教育が足らぬのかハテどちらやら分からぬが、伊栖郡の郷民は実に奇妙な伝説を語つて呉れる。法月君が集めてきたのは其んな伝説と云ふ訳だ。◆其の昔、戦国の世の事であつたが、伊栖之湖の西に難を逃れてやつてきた民人が幾たりか住み着いた。伊栖之湖の西側は元々人が住んでをらなんだ場所であつて、暮らし振りは楽でなかつた。取り分け大変なのは水の確保であつた。井戸を掘つても湧き出るのは薄い(なが)らも確かに塩辛い潮水であつたから水争ひが絶えず、殺された者さへあつた。名前も墓も残つてをらぬが、石仏が残つてをる。毎年盆には石仏に水を掛ける。どれ程水を掛けようとも、水は瞬く間に乾いて仕舞ふと云ふ。◆伊栖之湖の中心に小さな島がある。ヒヨンの島と名付く。何時からゐたのか誰も知らぬが、ヒヨンの島に一人の女がゐたさうだ。夕暮れに手招きをする。手招きに答へたら命がないと云ふ。手元を見るだけでも危ないと云ふ。ヒヨンの島には未だもつて誰も近寄らぬ。◆伊栖之湖の北には山が(そび)えてゐて、伊栖郡の他の場所とは幾分趣の違ふ話を伝へてゐる。中でも面白いのは男蛇川と女蛇川の話であらう。男蛇川女蛇川はいづれも伊栖之湖に流れ込む数本の川の一つであるが、年に一度七夕の時分に縺れて一本の川になる。法月君は実際に見たさうだ。男蛇川女蛇川は、七夕以外の季節には離れた二本の川である。◆伊栖之湖の回りには、此の他にも時々妙な事がある。湖の底から笛が聞こえる事がある。笛の音を聞いても害はないが、笛が何処から聞こえてくるか気にしてはいけない。気にすると良くない事が起こると云ふ。◆此んな話は幾らでもある、と法月君は言ふ。

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