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忘れもの  作者:
第一章 灰と空
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第五話 怒られました……

 説教というのは、呆れるほどに長いのが常である。

 どれだけ言いたい事があるのか。何故言葉が尽きないのか。

 そう、思わず疑問に感じてしまうほどに。


 それは確かに、怒っている方には言いたいことが山のようにあって、それだけの事を怒られる側の人間がしたのだからこそ説教に発展するのであるから、それを考えれば寧ろ当然の事ではあるのだが。やはり誰にとっても長時間の拘束というのは耐え難いものがある。しかもその内容が自分を責める物なのだからなおさらだ。

 しかし責めるとはいえ大抵の場合、相手は正しい事を言っていて、間違っているのはこちらなのだ。だから「説教が長い」と文句も言う事もできず、途中で遮るのもはばかられる。


「いくら魔法で治したとはいえ、どこかに問題が残っていたかもしれないのですよ? それなのに貴方達は……」

 故に、終わらない地獄とはこの事だと晟夢は思った。朝、強制的に目覚めさせられてからかれこれ数時間(体感)、晟夢と小傘は見知らぬ女性に叱られ続けているのだ。


 その理由は飲酒。


 しかし未成年がどうのこうのという話ではなく、怪我で意識を失った状態から回復したばかりなのに浴びるように飲むのは一体どういう了見だ、という話。事実、晟夢と小傘の眠っていた縁側には一升瓶が何本も転がっており、それは確かに正しい。正しい、のだが。


 此方の体を気にするのなら、もう少し説教を短くしても罰は当たらないんじゃないかと晟夢は思う。もしかすると、こんなに酒が飲めるくらいなら、もう何の問題もないのだろうと思われているのかもしれないが。──というより、自分がここまでお酒に強かったのも驚きだが。


「それで? 怪我をして運ばれてきた人間と、それを運んできた妖怪が、どうして二人仲良く酔い潰れて寝ていたのでしょうか?」

 本日幾度目かの問い。ひとつ前までは、返答の余地もなくここから女性の言葉が続いていたのだが、今回は少しの沈黙が降りた。


 つまり──答えさせて貰えるらしい。


「いや、酒は百薬の長って……言うでしょ?」

 一度晟夢と顔を合わせた後、おずおずと小傘が口火を切る。晟夢はそれが拙い言い訳だとも思わないでもなかったが、自分が何も思いつかないのも事実なので、ここは大人しく傍観することにした。

「ふむ。確かにそういう言葉も存在しますが、一升瓶が五本も広がるこの光景を見せられてそれで分かりましたと言えるとでも?」

「うっ……」


 やはり分が悪いのか、言葉の続かない小傘。明らかにこちらが悪いので、どうしようもないのだ。だから縋るようにこちらの方を見られても、晟夢には助け船を出す事はできない。そもそも、助け舟が欲しいのは晟夢も同じである。

 どうしようもないのはお互い様なのだ。


 別にそれが嫌、というわけでもないのだけれど。



 ◆ ◆ ◆



 結局、二人で謝る事によって長い説教は終焉を迎えた。


「うああ……」

 長時間正座をしていたため、晟夢と小傘は説教が終わると同時に足の痺れに翻弄される事となっていた。うかつに触れでもすれば更なる苦痛を味わう事になるので揉みほぐす事すらできず、二人は畳の上でひたすら悶えている事しかできない。


 どうにかして回復を試みたいものだが、こればかりは時間の経過を待つしかない。唯一何とか出来そうな人物は助けてくれる気配すら見せないし、それどころか、これが当然の報いと言った様な顔をして二人を見ていた。


「うう、白蓮が冷たい……」


 足に触れようとして、結局止めて、という行為を繰り返していた小傘が、恨めしげな顔をして女性にそう言った。

「悪いのは貴方達ですからね。快復祝いにお酒を飲むこと自体は否定しませんけど……」

 それは快復を確認してからにして欲しいものです、と白蓮と呼ばれた女性は溜息を吐いた。腰まである、彼女の髪がその動きに合わせてふわりと揺れる。


「えっと、白蓮さんでしたっけ?」

 それを柔らかそうだな、と思いつつも、晟夢は白蓮と呼ばれた女性に声を掛けた。

「はい、確かに私は白蓮ですが……っと。そう言えばお互い自己紹介もまだでしたね」

「ええ、川原晟夢っていいます」

 あわててこちらに向き直った白蓮に、晟夢は小さく会釈をした。


「聖白蓮です。この命蓮寺の住職などを務めさせてもらっています」

 命蓮寺。その名前からすると、ここは寺の一角という事になる。

「ここって、お寺だったんですか?」

「ええ、正確にはその居住区画、と言う事になりますが」

 言われて周りを見渡せば、建物の雰囲気自体も寺のそれと言って差し支えないし、その住職であるのなら白蓮の説教の長さにも納得がいった。──まぁ、それは単なる思い込みでしかないのだが。

「それで、俺を助けて──怪我を治して下さったのは、白蓮さんで間違いないんですよね?」

「一応、そうなりますね。とは言っても……」

 白蓮はちらりと小傘を見てから、言った。


「貴方をここに連れてきたのも、看病をしていたのも、そこにいる小傘ちゃんなのですが」

「え、そうなんですか?」

 確かに小傘は晟夢が目を覚ました時、側にいた。呑気に晩酌をしていたが、それでも近くにはいてくれていた。しかしそれは、偶然の一言で済ませられる事ではある。

 たまたまそこで酒を飲んでいたら、たまたま晟夢が目を覚ました。

 と、そう言えなくもない。


 とはいえ、いつ起きるかも判らない人が目を覚ますその瞬間に居合わせるというのは案外、難しい事だ。大体何時に起きてくるか分かるような朝とは違う。

 でも、看病をしていたとしたら。そのために近くにいたとしたら。

 それならば、その人が側にいたって何もおかしい事はない。


「まぁ、看病っていうよりも、待ってたって感じだったけどね」

 話を聞いていたのか、晟夢と白蓮の会話に小傘が独り言でもするような口調で横から口を挟んだ。

「俺が起きるのをか?」

「そ」

 小傘は首を縦に振って、肯定の意を示した。


「巻き込んだ事を謝るためと、後は説明のためかな。晟夢は今の状況何にも分かってなさそうだし」


 続けて、何でもないようにそう言う。

 どうしてなのだろうかと晟夢は思う。どうしてこの少女はそれを知っているのだろうか、どうしてこの少女は自分のして欲しい事が分かるのだろうか、と。

 昨夜もそうだった。本当の事を言えば、初めて会った時だってそうだ。孤独に押し潰されそうになった瞬間に、まるで待っていたかのように彼女は現れた。……まぁ、少々乱暴だったのは否めないが。

 どちらも、きっと偶然でしかないのだろうけれど。まだ、説明のためとしか言っていない彼女だけれど。

 きっとその説明というのも晟夢の聞きたい事なのだろうと、何の根拠もなく晟夢はそう思った。


 晟夢がしようと、して欲しいと思う事全てをこの少女は晟夢が言葉にする前に叶えてしまう。決して悪い事ではないのだろうけれど、会って間もない少女がそれを自分に向けているのは不思議な気分だった。

 会う前から知られている。そんな感じだ。それが気にならないと言えば、嘘になってしまうけれど。


「俺も、聞きたい事があってな」

 今は、優先すべき事が他にある。

「うん、ここはどこかって事だよね?」

 しっかりと、晟夢の予想通りに小傘は晟夢の聞きたい事を言ってのけた。正確にはあれは何だったのか、とか先程の説教に含まれていたファンタジーな単語についてとか。細かい事を言えばきりはないのだろうが、全てここは“どこ”なのだ、という質問に対する答えが説明してくれるのだろう。


 ──自分はもうこの世界にはいられない

 

 全ては、この感覚を覚えた瞬間から起こった出来事なのだから。


 だから正解。故に知られている。そんな錯覚に陥ってしまった。


 そんな事、あるはずもないのに。

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