幕間 ~迷夢~
誰かが笑っていた。
髪の長い、女の人だった。
何か愛しい物を見ているかの様な微笑みを浮かべるその人の手は晟夢の額に添えられており、そこから伸びる細く白い指は、優しく、丁寧に晟夢の黒髪を撫でていた。まるで、割れ物に触れるかのように。決して、壊してしまわないように。
少しくすぐったくはあるけれど、それが気持ちよくて、あまりにも気持ち良すぎて、晟夢は思わず目を細める。
どことも知れない屋敷の、どことも知れない和室の中に流れる静かな一時。ゆったりとした贅沢なその時間に、晟夢は己の全てを委ねていた。
例えこれが夢であったとしても、すぐにでも消えてしまいそうな幻想であったとしても、誰かに愚かだと言われようとも。
それでも、今この時だけはこうしていたいと思った。
──だって、仕方ないじゃないか。
そう思う。
気付いたら知らない森の中で孤独に怯えていて、やっと人に会えたと思ったら、今度は謎の破壊光線に巻き込まれたのだ。だから今日くらいは、そんな事があった日くらいは、幸せな夢を見ていたいと思ってもいいじゃないか、と。
だから今見ている幻想に、ふわりと身を預ける。それを邪魔する無粋な輩などどこにもいないし、自分だって納得している。だから、何の問題もない。これは自分のモノなのだから、存分に堪能すれば良いのだ。
その中身は誰かに髪を撫でられるだけの、ただそれだけ、たったそれだけの夢だったけれど──
これはきっと、幸せな夢。