幕間 ~夢幻~
風が、昼の森を駆け抜ける。
それが夏の濃い緑の匂いを撒き散らし、奇しくもその通り道にあった木々はその枝を揺らし、その先にある葉と葉は触れ合ってさわやかな音色を奏でる。
空には雲一つなく、視界を遮るように広がる樹木から漏れる日の光はさわさわという音に合わせてその位置を変えて行く。
それを下から眺めると、木々に宝石という名の果実が付いているのではないかと思わせるぐらいに、優美で幻想的だ。
それに、光の通り道が忙しくその場所を変えるせいで辺りがきらきらと発光して見えて、まるで自分の周りに精霊が踊っているかのようだった。
──本当に綺麗だ。
眠りと覚醒の狭間にある心地良い微睡の中、晟夢はそう思った。
目は開けていない筈なのに、どうしてこんなものが見えるのだろうとか、そもそも自分は風邪を引いて家で寝ていたのではなかったか、とか。ぼんやりと纏まらない考えをつらつらと巡らして、ふと気付く。
ああ、自分は今、夢を見ているのかと。
でも何故か、この夢には妙な現実感があった。
そう、音だって、匂いだって、光だって、きっとどこかで知っている。そんな感じだ。
どこで知ったのか。気にはならないわけじゃないけれど。
別にどうでもいいかとも思ってしまう。
この美しい世界に比べれば、それはきっと細事なのだ。
薄れていた意識がさらに薄れていく中、何となくそう思った。