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campus life 1

 ああ、なんかダルイ、疲れた、眠い。

 だけど、今日の一時間目は落とすわけにはいかない講義なんだっけ。

 これがまた眠さとダルさに拍車をかけるような内容と、子守唄のように声の小さいおじいちゃん先生の授業だから厄介なのだ。

 枕元に投げてあった携帯で時間を確認し、あと10分、目覚ましが鳴るまでベッドの中にいようと布団をかぶった。


「それにしても、静かすぎる……」


 嫌な予感がする。

 今日は私の家事当番じゃないし!

 だけど、襖一枚隔てた居間からは、肝心の家事の音が聞こえてこない。

 大学生活も二年目、狭くて門限がありながらも、わりと至れり尽くせりだった学生会館とも、この春にお別れした。

 憧れの、オシャレなマンションでのひとり暮らし☆ を夢見てたのに。

 なのにっ。


「だめだ」


 この10分、もしも朝食ができてないとしたら、それは私にとって貴重な10分だ。

 ダルイ身体を起こして携帯の目覚し機能をオフにすると、勢いよく襖を開いた。


「……ったく、あれだけ言ってるのにっ」


 思ったとおりの状況に、いつもの事ながらムッとしてしまう。

 10畳ほどの狭いリビングは、カーテンも閉められたまま、しんと静まり返ってる。

 テーブルの上には袋が空いたままのスナック菓子が散らばって、まだ半分くらい残っている2リットルのペットボトルが置かれたまま。

 ついでに脱いだ形を残して、裏返しになったソックスが一足。

 見慣れたTシャツが、私がお金を貯めて買ったグリーンのソファの上にだらりと掛けられている。


「この……っ」


 早朝からこの不愉快な惨状を見せ付けられて、黙ってはいられないっ!

 私は今日の家事当番であるはずの彼を叩き起こすために、居間を挟んでちょうど私の部屋の真向かいにある襖を、音を立てて思い切り開けた。


「川島くんっ!! なんなのよ、これっ!……って、あれ」


 カーテンさえ引かれていない、眩しいほど朝日を浴びた4畳半の部屋の主は、どこにも見当たらない。

 そして、ベッドもちゃんとメイクされたまま、本棚の本ひとつ、触ることを許されないほどきちんと整頓されている。


「自分の部屋は、これだけ綺麗なのに」


 居間を振り返って、私はがっくりと肩を落とす。


「どーして共有スペースはこうなのよ」


 呆れて溜息をつきながら、私はもうひとつのドアを見た。

 たぶん、いつものように、あの部屋にいるのだ。

 わずかに開いているドアの隙間から、鈴の音とともに、まあるいふたつの目が私を見つける。

 そしてまるでにっこり笑うように口を開けた。


 にゃあ


 彼女はそう鳴くと、長い尻尾をゆらゆらさせながら、ゆっくりと私の足元にきて身体を擦り付ける。

 真っ黒な毛に覆われた彼女を抱き上げると、ゴロゴロ喉を鳴らしながら目を閉じた。


「シロ、またあの人たち、つるんでるんでしょ」


 返事をしない代わりに、シロは金色の瞳でちらりと私を見る。

 そんなに怒ったって無駄よって言ってるみたいに。


「そうだよね……わかってる」


 私は彼女を床に降ろすと、一度大きく息を吐いて、静かにそのドアを開けた。

 薄暗い部屋は小さなテレビがつけられたままで、画面の中では若い女子アナが笑顔で何かを喋ってる。

 そこから伸びる黒い線は、毛布をかぶって床に転がる大きな物体に繋がっていた。

 テレビの前にはゲーム機とソフト、それにDVDが散乱してる。

 昨日も、遅くまで声がしてたけど、一体いつまでこんなことしてるんだか。

 一緒に暮らす、なんて話になったときは、あんなことやこんなことを想像してドキドキしたのに、実際暮し始めてみれば、このふたりばかり楽しく盛り上がっちゃって、女の私はまるで蚊帳の外。

 私と川島くん、そして北原に真っ黒な捨て猫だった♀のシロ。

 そんな三人+一匹の妙な共同生活が始まって、2ヶ月とちょっとになる。

 毛布の中身がもぞもぞと動いて、なんとなく、私はそれをめくってみた。


「って、えぇぇぇっ!?」


 目の前に突如現れた目くるめく場面に、愕然として私はその場に座り込んだ。

 すぐ毛布を元に戻して見なかったことにしたかった。

 だけど、あまりにも衝撃的過ぎて……。

 一部の女子には、ウケるんだろうけど、私はちょっといただけませんっ。


「ん……しおり」


 いやいや! 違う違う!!

 それ、私じゃないからっ!!!!

 って、すぐにでも否定して、その腕を引き離したいのに、体が硬直して動かない。

 彼は、ヘッドフォンをしたままの川島くんを引き寄せ、胸元で抱きしめる。

 そして、ゆっくりと目を開けた。


「………」


 寝ぼけてうつろな瞳が私を見つけると、アンニュイな微笑を向ける。


「おはよ」

「あ、あ、あ、あの……北原」

「ん?」

「それ、私じゃ、ないから」


 私の台詞に、ようやく気付いたのか、北原は胸の中にいる川島くんを見て眉根を寄せた。


「なんで?」

「……私が聞きたい」


 北原は不機嫌そうなまま身体を起こすと、川島くんを挟んで座り込んだままの私のほうへ乗り出してきた。

 まだ眠そうな顔した北原が目と鼻の先に現れて、咄嗟に身体を引こうとしたものの、狭い部屋の壁にこつんと頭がぶつかった。


「ちょ……」

「たぶん、あれだよ。最近、しおりが一緒に寝てくれないからだな」

「だって、それは、川島くんもいるから」

「川島は、俺たちのこと公認で三人で暮そうって言ったんだし、べつにいいと思うけど」

「でもっ」


 なんだか、やっぱり気まずいよ、そういうの。

 そう続けようと思ったところで、北原の唇が私の口を塞いだ。


「おはよ、しおり」

「おは…よ……」


 私は、ふたりの間で眠ってる川島くんが起きないかとハラハラしてるのに、平然と北原はこんなことをする。


「今日はコイツが当番だったけど、俺やるよ。メシ作るから、しおりは支度しろ」

「あ、ううん、いいの。私、自分で」

「いいよ。明日の俺の当番と交代するから。それに、女子の朝の10分は大事なんだろ?」

「う……」

「早くしないと、ここで襲うよ?」

「わ、わかりましたっ、支度しますっ!」


 平気でそういうことを言っちゃうようになった北原に比べて、相変わらず慣れない私は慌てて部屋を飛び出した。



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