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二人旅  作者: イナイチ・モトヤ


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序章

上位魔法を取得した魔法使いに遠方から使者が訪れる。

雪原の真ん中に二人の人影。男は背中に斜めに弓と矢筒を提げている。女は武器らしきものは持っていないようだ。二人とも雪原を闊歩する獣の毛皮で作られた白いマントを纏い、また別の獣の皮で仕立てられた帽子と手袋で寒さに備えている。

黄緑の季節とは言うものの、高地にあるこの雪原では雪は解けない。

 「伝承によると、もうすぐだ。」男は女に向かって言う。女は頷く。

伝承では「黄緑の季節に二つの月が新月となりし夜明けに二つの槍を重ね、鐘の音を聴け」とある。二つの月が新月となる日が黄緑の季節と重なるは5年に一度しかなく、今日を逃せば次は5年先のことになる。

二つの槍とはこの雪原から見える二つの山の頂のことで、ぴったりと重なって眺めることができるのは今二人が立ってる場所だけである。

 日が最も高く上ると、雪原からほど近い村の教会の鐘が鳴る。


「君はまだ若いからまたここに来ることもあるだろう、俺はもうこの年だ。次にこの光景を見ることはもうできないだろうな。」

「・・・ここまで連れてきてくれる人、他に居ない。」

男はそう?、という表情をする。

「もうすぐ?」女が男に聞く。

「そうだね。」


 教会の鐘が遠くで鳴るのが聞こえ、そして声が聞こえる。


「定命の者たちよ。」


二人はあたりを見回すが姿はない。


 声は続く。

「ふむ・・・詩人の魔法使いと、笛を吹く弓使い、お忍びの旅というところかな?

そなたたちの望みは何であるか?」


男は声を出さずに答える。「すべてご存じでしょう。秘蹟を授かる儀式の書は先の戦争ですべて焼けて失われました。」


 声が答えるが、音はしておらず、二人の頭の中に直接声が入ってくる。


「まあ、良い。では、魔法使いよ、覚悟はあるか? そなたたちの言葉でいうところの蘇生の術を得た者の末路がどうであったか、知っているであろう?」


 女も声を出さずに「存じております。」

記録によると、前回、蘇生の術の習得をした者が命を狙われ、儀式に必須と信じられてきた書を死の直前に焼き払った、とある。


 声は告げる。


「では魔法使いよ、そなたは今より蘇生の術を使える。今しがた、右手の中指に嵌めた指輪を日の光に掲げよ。さすればそなたは死にゆく者の運命を変えることとなる。

弓使いよ、よくぞ我を見つけた。もはやこの場所にたどりつく手段と意味を知るものはおらぬであろう。定命の者たちよ、ふたたびまみえることもあるまい。自らの生を楽しめ。」


 声の気配が消えると同時に、女は手袋の右手の中指に違和感を感じ、手袋を取る。中指に指輪がはめられている。指輪を見て、「この指輪、私が小さいときに村の市場で買ってもらったのと同じ。」


 魔法はその術の象徴となる指輪が必要である。治癒の指輪は金色で宝石が17種類埋め込まれ、過剰な豪華さがある。下品であるとすら評されるが、美しく装うための指輪ではないのだ。そして治癒の指輪の上位となる、再生の指輪は銀色で宝石はなく、飾りも全くないためそうでない指輪と区別するのは、指輪の内側に彫り込まれた古の言葉のみである。より上位の魔法を司る指輪のほうがより質素なのだ。さらに指輪は術者と対であり、魔術師でない者が指輪をしても単なる装飾品でしかなく、魔術師が他の術者と指輪を交換しても魔法は使えない。

 蘇生の指輪は、その者が最初に着けた指輪と同じ姿と形となる。従って特定の条件、つまり治癒の指輪がその者にとって最初に着けたものであるなら、その魔法使いが蘇生の術を取得すると、見かけ上治癒の指輪を二つ所持することになる。


「村に戻って温かいものを食べよう。」男が言う。二人は、村に向かって歩き出す。


村は聖域を司る教団の領地である。聖者を祀っており、巡礼者が訪れる。領地には宿屋も商店もあり、武器屋もある。


宿屋に入り、食事をとる二人。食事の最後に店主が持ってきた温かい飲み物。二人はその飲み物が普通よりも甘く作られ、さらに添えられた焼き菓子が二つの月の形、上弦と下弦となるように形を整えられていることに気づく。女が小声で言う。「白の伝承の書、第七章三十二節。」男はそれに応えて、「上弦の月と下弦の月の日」と言いかけて声を小さくした「異国の使者、来たれり。」伝承の書の続きは、その使者が探し求めていたのは王子の初陣に付き添わせる薬師、という話。


 宿の主人に代金を多めに払いって礼を伝え、二人は店を出る。男は首を傾げ、「こちらを探している者はいないようだ。宿屋の店主は何に気づいたと思う?」

「さあ、スプーンの柄に珍しく犬が彫られていたけれど。普通は花とか星なのに。・・逃げる?」

「俺はともかく、君には大きな価値がある。」

女は理解はしたが同意しかねるという表情だ。

「瀕死の美形の王子を治療か蘇生でもしたら富と愛情が得られるぞ」「それは伝承の書の話でしょ? あと王子が必ずしも美形であるとは?」「まあね。でも蘇生術に大きな価値があるのは違いない。」

”異国の使者”は教会の領地内では手を出してこないと見える。


二人は逃げるわけでもなく、領地の商店を眺め、女は詩人、男は楽師として旅をしている装いどおり、書店で古い詩集と楽譜を買い求め、雑貨屋で笛の調整をしてもらった。何も起きず、誰かに道をふさがれるわけでもなく、聖域の領地の東の門のところに来た。


門の入り口に犬がこちらを向いて座っている。「巡礼の犬」のような装いだ。紋章を薄く染め抜いた丈夫な袋を首から下げている。東方の辺境伯の紋章だ。犬はずいぶんと女詩人がお気に入りのようだ。機嫌よく衣装のにおいをかぎ、手を舐めようとする。すきをついて首からかけている袋の中身の確認する。路銀のほかには小さい紙が入っていた。

「犬がお出迎えとは、な」

「巡礼犬じゃないの?」

「袋に手紙が入っていた。古い時代の言葉で 「東の地に住まう者が歌い手の声を聴くのを楽しみにしている。」 ”住まう者”というのは今では"広い土地を所有する大地主"の意味になるのではやり東方の辺境伯が君を探しているようだよ。」そしてもちろん「歌声を聴く」のは目的ではなくて、もちろん魔法による治療の依頼だ。

「通りすがりの犬じゃないんだ?」

「衣装に焚き染められた複雑な香の組み合わせを理解したうえで犬に指示をだしている。」

つまり、おおよそ今日、ここに来ることが分かっていてこの犬をよこした。

伝令の人間を寄越すのでなくて犬に託した理由は書かれていないが、目立たちたくなかったか、人間よりも犬のほうが早く移動できるとか、事情はわからないが辺境伯にとってのメリットがあったのだろう。


「報酬は?」

「東方辺境伯はもう60歳を過ぎているが、その跡取りはたいそうな美男子と吟遊詩人は歌っているよ。」

「その詩を作ったのは私なんだけど。」

「そうだった。で、美男子だった?」

「「美男子だ」という歌詞を作れという依頼だったから。本人には会っていないから知らん。」

「ではまあ、うちの息子が美男子という歌を作って国内を旅歩いて歌ってくれ、広めてくれと、そういう依頼をしたわけだな、辺境伯は。じゃあまた報酬の良い依頼があるんじゃないのか?」

「うん、行ってみよう。」


二人と犬は、隣の村までゆく駅馬車に同乗し、教会の領地を離れた。辺境伯の土地までは駅馬車を乗り継ぎ、到着するのは明後日だ。

魔法使いへの依頼とは何だろうか?

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