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RISELESS 新兵から始める王国戦記  作者: 藤堂拓哉
第一章 入隊

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第1話 入隊前夜

王都ラピタルの夜は、暗くならない。


街路に並ぶ灯りが、石畳を橙色に照らし、

人の声と馬のいななきが、いつまでも途切れずに残っている。


「……寝てない人、多いわね」


宿屋の二階、窓際に立ったナタリアが外を見下ろして言った。


「王都だしな」

ラウルはベッドに腰を下ろし、靴紐をほどきながら答える。

「夜でも、人が止まらない」


「私は、ちょっと息詰まる感じがする」

ナタリアは正直に言った。

「ラウルは?」


「……平気だ」

「落ち着きもしないけど、不安でもない」


ナタリアは振り返り、少しだけ笑った。


「相変わらずね」


部屋の隅では、コルティオが椅子に座ったまま、じっと天井を見ていた。


「……眠れないっす」

しばらくして、ぽつりと漏らす。


「横になってるだけでも違うわよ」

ナタリアが言う。


「そういう問題じゃないっす……」

コルティオは頭をかいた。

「明日、入隊式っすよ?

 国王陛下、王都、軍、人生決定イベント全部乗せっす」


「大げさだな」

ラウルは言いながらも、否定はしなかった。


「でも、まあ」

少し間を置く。

「人生が変わるのは確かだ」


コルティオが体を起こす。


「ラウルは、不安ないんすか?」

「ある」


即答だった。


「え?」

「ないと思った?」


「……正直、はい」

コルティオは苦笑した。

「いつも落ち着いてるんで」


ラウルは窓の外に視線を向ける。


「不安はあるさ」

「ただ、考えても仕方ない不安と、

 考えるべき不安がある」


ナタリアが興味深そうに聞く。


「それ、どう違うの?」


「明日どうなるか、は考えても無駄だ」

ラウルはゆっくり言葉を選ぶ。

「でも、どう動くかは考えられる」


「……なるほど」

ナタリアは頷いた。

「ラウルらしいわ」


コルティオは納得しきれていない顔だ。


「俺、明日失敗したらどうしよう、とか

 変なことばっか考えちゃうっす」


「普通だ」

ラウルは言う。

「俺も考える」


「えっ」

「ただ、失敗する前提で準備するだけだ」


「それ、余計怖くないっすか?」


「だから、準備する」


ナタリアが二人を見比べて、ため息をついた。


「ほんと、性格バラバラね」

「でも……一緒で良かった」


コルティオが少し驚いた顔をする。


「ナタリア?」

「だって」

少し言葉を探してから続ける。

「知らない人ばかりの中で、

 いきなり一人だったら、もっと不安だったと思う」


ラウルはそれを聞いて、少しだけ視線を下げた。


「……それは、俺も同じだ」


沈黙が落ちる。

外の喧騒だけが、部屋に流れ込んでくる。


「王都ってさ」

コルティオが言った。

「思ってたより、でかいっすね」


「でかいから、国が動く」

ラウルは答える。

「人が集まると、決める人間も集まる」


「難しい言い方」

ナタリアが苦笑する。

「でも、分かる気がする」


コルティオはベッドに倒れ込んだ。


「明日から、俺たち軍人っすね……」

「まだだ」

ラウルは言う。

「明日は、名乗る日だ」


「何それ」

ナタリアが首を傾げる。


「軍人になるかどうかは、その後だ」


コルティオは天井を見つめたまま、ゆっくり息を吐いた。


「……ラウル」

「ん?」


「俺、怖いっす」

「知ってる」


「でも」

コルティオは言葉を切り、もう一度続ける。

「逃げたくはないっす」


ラウルは少し間を置いてから言った。


「それでいい」

「怖いまま行けばいい」


ナタリアが小さく笑った。


「じゃあ、今日はそれで終わりね」

「明日に備えて、少しでも休みましょ」


灯りを落とす直前、ラウルはもう一度だけ窓の外を見た。


王都ラピタル。

明日から、自分たちを飲み込む場所。


(楽はできないな)


そう思いながら、目を閉じた。


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