黎明の誓い 番外編
黎明の誓い ヴァリオンのお父さんのお話です。
興味があれば読んでみて下さい
しんしんと雪が降り積もるフロストルの街並み。
屋根の上や石畳の道には、真っ白な雪が厚く覆い、空気は凛と冷えていた。
吹きすさぶ風が窓を打ち、街角の人々は肩をすくめながら急ぎ足で家路を目指す。
「ねえ、聞いた?あの暴君のディオンが、このフロストルに来てるらしいよ」
「えっ…!? あの、ディオン!? 本当に…?」
「うん、どうやら偶然立ち寄っただけらしいけど、腕前を拝見したいね」
道行く人々の間で、ざわめきが広がる。
『暴君』――その名を聞いただけで、皆の目には期待と畏怖が混ざった色が宿る。
ガツガツガツガツ――
町の食堂では、皿やお椀が次々と山積みにされていく。
そこには、剣を肩に掛けた一人の騎士が、まるで戦場の如く無我夢中で食を進めていた。
「んんっ…! これも、あれも…!」
肉を頬張るたびに、目を輝かせ、汗をぬぐいながらさらに次の一皿を手に取る。
通りかかった客たちは、思わず目を丸くする。
「え…あの騎士、あの暴君ディオン様じゃないのか…!?」
噂は本当だったのだ――強くて頼れる騎士が、町の食堂で豪快に食べまくる姿を、誰もが見逃すまいとしていた。
「ごちそうさん!!美味かった」
ディオンは満足そうに言うと、ポンと大金を出し、釣りはいらないと店員に告げた。
「ありがとうございます、ディオン様!」
店員が深く頭を下げる。
ディオンは軽く手を振り、にこやかに店を後にした。
口元に微笑を浮かべ、堂々とした立ち振る舞いで、ディオンは町を闊歩した。
「寒いけど、いい町だ……」
ディオンは静かに平和を噛み締めた。
――しかし、平和は長くは続かない。
好戦的な目を光らせ、剣を抜く。
目の前には、盗賊の集団が待ち構えていた。
「嗅ぎつかれたか……」
ディオンはニヤリと笑う。
盗賊たちが剣を振り上げ襲いかかる。
ディオンは笑みを浮かべ、剣を振るう。
ザシュッッ!ザシュッッ!
斬撃が空気を切る音が響き渡る。
一閃。
肩越しに飛びかかってきた敵を、軽く受け流しつつ地面に叩きつける。
次々と現れる敵も、ディオンの剣の前に次第に数を減らしていく。
ガキィッ!ガキィッ!ガキィッ!
無造作に斬り伏せ、武器諸共跳ね返される敵の影。
「これで終わりか?」
ディオンの目は鋭く、戦場の中心に立つその姿は圧倒的だった。
ディオンは凄みの利いた笑みを浮かべ、鋭く切っ先を残党たちに向けた。
「クソ…!」
残党たちは慌てふためき、バラバラと雪の上を逃げ惑う。
ディオンは軽く剣を振るだけで、追いすがる者をいなすように見下ろし、剣を鞘に納めた。
「すごい――」と町の人々から拍手が湧き上がる。
ディオンはその拍手に応えるように、にこやかに「ははは!」と笑った。
ディオンは高くそびえる雪山を見上げ、険しい表情を浮かべた。
「黎明の山に向かうつもりか…?」
「あんたは...?」
「俺はセラフィムと言う...ここでヒーラーをしている」
セラフィムが、真剣な眼差しで問いかける。
「ああ……ちょっとな」
ディオンは雪山を睨み、肩をすくめる。
「止めはしないが...やめた方がいい……俺はここで黎明の誓いで失敗した者の治癒をしている」
セラフィムは本気で心配している。
「なあに……俺が誓いを立てようってんじゃないさ」
ディオンは肩をすくめ、淡い笑みを浮かべる。
「これから何かが起きる……だから、見てな」
その言葉には、遊び心と同時に、何か重大な事態を予感させる重みがあった。
セラフィムは眉をひそめ、しかしそれ以上は言えずに雪山を見つめる。
ディオンの言った通り、黎明の山から轟音が唸りを上げ、何かが姿を現そうとしていた。
「ほら、見ろ……お出ましだ!!」ディオンは胸を張り、目を輝かせて叫ぶ。
その声に、セラフィムは目を見開いた。
「何事だ!? どうして君にそんなことが分かる!?」
雪山の風が荒れ狂い、空気が張り詰める。
その背後で、ディオンはわずかに笑みを浮かべ、何かを楽しむかのように剣を握りしめた。
ディオンはニヤッと笑い、無言のまま黎明の山へと一目散に駆け出した。
常人離れした足取りで、雪を蹴散らし、風を切って進む。
「何者なんだ……あいつは……」
セラフィムは目を見張り、ただ立ち尽くすしかなかった。
遠くで山が震え、轟音が響く。
闇の中から、不気味にうねる影が現れようとしていた。
ディオンは振り返り、影の方を一瞥する。
「……来いよ、相手が誰だろうと、俺は倒すだけさ」
その声に、雪風が巻き上がる。
黎明の山の麓、誓いを立てていた者たちは、轟音と共に現れた異形の気配に腰を抜かしていた。
「な…なんだ、これは…!」震え声があちこちで漏れる。
その中の一人が、不気味な笑い声をあげる。
「よみがえれ……悪魔よ!!」
影がうねり、黒い霧が立ち上がる。
その瞬間、山の裂け目から異形の魔物が姿を現した。
巨体を揺らし、牙を剥き出しにして、空気を切り裂くように吠える。
ディオンはニヤリと笑った。
「なるほど……そう来たか」
剣を握り直し、風を切って駆け出す。
「行くぜ……一網打尽にしてやる!」
その足取りはまるで雪原を滑るように速く、異形の魔物との距離を瞬く間に詰めた。
ディオンの目の前、悪魔のような魔物が不気味に笑うと、地面に爪を立てた。
「なんだ……?」ディオンが瞬間的に踏みとどまる間もなく、魔物の手元で光が走る。
一瞬で、完璧な魔法陣が地面に描かれた――!
円形の符号が輝き、闇の中に炎の色を帯びた線がうねる。
「魔法陣を、一瞬で!?」ディオンは唸った。
その直後、魔法陣の中心から火柱が噴き上がり、周囲の雪と岩が吹き飛ぶ。
炎の熱がディオンの頬を撫で、鋭い風が吹き荒れた。
しかし、ディオンは笑った。
「面白くなってきやがったな……!」
炎を避けながら、無駄のない一閃で魔物の腕を斬りつける。
「ぐぁっ!?」魔物の咆哮が山々にこだまする。
だが、魔法陣は再び瞬間的に輝き、炎の嵐が押し寄せる。
周囲は火の粉と煙に包まれ、ディオンと魔物だけが光と影の中でぶつかり合う――。
ディオンは目を細め、鋭く息を吸い込む。
「よし……回転斬り、行くぜ!」
剣を握り直すと、身体を一回転させながら、刃先が光を帯びる。
「シュッ――バッサァァッ!」
炎を巻き上げる魔物の群れの中、剣が火花を散らし、回転する軌跡がまるで光の渦となって魔物を斬り裂いていく。
一閃ごとに「ガキィッ!」「ギャアッ!」と悲鳴が響く。
魔物が魔法陣を再構築しようと手を動かす瞬間も、ディオンの動きは止まらない。
「回転斬り二連――!」
風を巻き上げながら再び旋回し、魔法陣の中心で炎を操る魔物の腕に一撃を入れる。
火柱が炸裂し、魔物は吹き飛ばされ、雪と岩が崩れる。
「ふっ……これでどうだ!」ディオンの鋭い笑みが、山の荒野に凛とした光を放つ。
だが悪魔の魔物は、ガラガラと砂塵を巻き上げるように姿を現した。
巨大な角、ねじれた翼、裂けた口から黒い炎を吐くその姿に、思わず息を呑むディオン。
「へ……っ。とんでもねえ化け物生み出してくれやがってよ……」
だがディオンの瞳は鋭く光り、笑みを浮かべたまま剣を構える。
ディオンの斬撃で腕が吹き飛んだかと思った悪魔魔物。
だが、黒煙が渦を巻き、血のような光の筋が絡み合うと、切断された腕がゆっくりと元通りに再生していく。
「な、なんだと……再生もあるのか!!!」
思わず声を上げるディオンの瞳に、驚きと興奮が入り混じる。
悪魔魔物は重く唸り、巨大な爪を振り上げる。
「面白ぇ…!」とディオンは笑い、身をひるがえして連続斬りに挑む。
「この程度じゃ……止められねぇぜ!!」
ディオンは肩で風を切るように構え、刀を高く掲げる。
「行くぞ……一閃!!!」
振り下ろされた斬撃は光の刃となり、悪魔魔物の触手を一刀両断。
真っ二つになった触手からは煙と火花が立ち上る。
「くっ……!!」魔物は驚愕と痛みでうめくが、黒い煙が絡み合い、再生を始める。
悪魔魔物が再生した瞬間、ディオンの目が鋭く光る。
「来い……一閃!!!」
再生された触手や腕が立ち上がる前に、ディオンは光の軌跡を描く回転斬りで真っ二つに斬り裂く。
「うおおおおぉっ!!」
連続で現れる再生をも、ディオンの斬撃が次々に打ち破る。
その剣さばきはまるで風のように滑らかで、魔物の形態を問わず、無慈悲に切り刻んでいく。
「ギエエエエ……」
悪魔魔物は断末魔の叫びとともに崩れ落ち、黒煙だけが空に舞った。
誓いの発端者が膝をつき、涙を流しながら言った。
「くっ…私の…私の作品がああ……おのれディオンめ!!」
ディオンはにやりと笑い、軽く剣を振りかざす。
「フッ…泣くなよ。次はもっと可愛いものを作りやがれ」
「くそ……!!次は必ずや!」
とどこかへ消えてしまう。
戦いが一段落すると、ディオンは深く息をつき、傷ついた3人を軽々と抱え上げた。
「よし、頼んだぞ…セラフィム。面倒は任せた」
セラフィムは少し驚きながらも、しっかりと受け止める。
「わ、わかりました…!」
セラフィムは雪を踏みしめるディオンを見つめ、声を震わせて問いかけた。
「…なんのために、あなたは戦っているのですか…?」
ディオンは一瞬振り返り、目を細めて微笑む。
「戦う理由か?…それは…楽しむためだ。
目の前の混沌を切り裂く快感、そして、守るべきものを守るための力を示すためさ」
その言葉に、セラフィムは少し息を飲む。
強さだけではなく、信念が混ざった笑み。
彼の背中に宿る覚悟を、その瞬間、理解したかのようだった。
ディオンは無言でうなずき、吹きすさぶ雪の中を軽やかに歩き去る。
振り返ることもなく、彼の背中には揺るがぬ決意が感じられた。
いかがでしたでしょうか?
ヴァリオンのお父様のお話です。
ヴァリオンとは性格が全く違うみたいですね。
良かったら本編の黎明の誓いも読んでみてください、
よろしくお願いします。




