婚約破棄された筋肉覇王系お嬢様は、王太子をジャーマンスープレックスしてクーデターRTAする。
「ベアトリックス・フェイトリス!
君との婚約を破棄破棄し、僕の妻としてユーリア・カトリーナ男爵令嬢を迎える!」
きらびやかな舞踏会の最中、突然の宣言にざわめき立つ。
多くの視線の先には、王太子であるルードヴィッヒ・ハインスブルク。オレンジがかった金髪、細身で、神経質そうな面立ちである。
べったりと王太子に抱かれているのはユーリア・カトリーナ男爵令嬢だ。垂れ目、ストロベリーブロンドが美しい。
大きく豊かな胸を誇張するかのようなドレスを着て、わざと王太子の腕に当てている。
「何かしら?あの下品なドレス?今流行りのモードから外れてるわよね」
「やだ、男好きのユーリアじゃない。
私の友人はあのご令嬢に婚約者を盗られて泣き寝入りしたのよ?
他のご令嬢も同じ被害に遭っているって」
「それにしても、王太子もお人が悪い。こんな所で婚約破棄だなんて。
これでは婚約者の面目丸つぶれだわ。
今後、社交界から笑い物になるだけじゃないのかしら」
ユーリアはキッ!と睨みつける。
そして、もう一人の大きな影。
それは、女性の身体にしては筋肉が大きすぎた。
「ふむ、王太子よ、汝は吾が気に入らぬと申すか」
女性にしては低い、腹の底から響くようなバリトンボイス。三白眼の鋭い眼光。
ドレスからはち切れんばかりの僧帽筋。鍛え磨かれた筋肉。
どう見ても筋肉モリモリのムキムキマッチョメンである。
「吾が婚約者よ、何が不満か言うてみよ」
「……君には女性の魅力がない。
ふくよかで柔らかな肢体も、包容力も、カナリアのような甲高く甘やかな声も!」
観衆のお貴族たちは「あー、言っちゃった……」とばかりにため息をつく。
「ベアトリックス!お前さえいなければ……!」
そう言ってルードヴィッヒ王太子は懐からナイフを取り出す。
捨て身の攻撃を繰り出そうとするが。
その刹那、何処からともなくゴングが響き渡り。
ベアトリックスはルードヴィッヒの背後に周る。
ルードヴィッヒの両脇をガッチリとホールドするベアトリクス。
そのままブリッジで身体をそり返して後方に投げる!
「キャアアアァ!!!」
絹を引き裂くような王太子の悲鳴が舞踏会にこだました。
ジャーマンスープレックスである。
「ふむ、他愛なし。
覇道を邁進する吾の婚約者には相応しくはあらぬか」
「貴様!王太子殿下にこの様な真似をして、ただで済むと思っているのか!」
「そうさな。
こんなこともあるやも知れぬと、会場のスタッフを懐柔し、周辺を我が軍で包囲しておいておる」
「なっ?!」
途端、懐からマシンガンを取り出す給仕達。
にわかに殺気立つ会場に、女性達は悲鳴を上げる。
外を見れば、百戦錬磨筋肉ムキムキのスパルタ軍の様な精鋭ファイトリス兵団が王宮を囲っていた。
「ベアトリックス、貴様!
何をやっているのか分かっているのか!
これはもはやクーデターだぞ」
「左様、これはクーデターであるぞ」
「王太子よ、共に語らったではないか。
我が覇道、世界制覇への宿願を忘れてしまったというのか」
「そんなの、幼い頃の夢物語だろう?!」
「……夢物語か、そう言い捨ておる汝にとってはそうであろうな」
ベアトリックスは、切ない表情をしてため息をつく。
「ならばかつてのそなたの大願、その夢物語は吾が継ごう。そなたは好いたおなごと幸せに暮らすがよかろう……」
「ベアトリックス……!」
恋する乙女の様な瞳でベアトリックスを見つめるルードヴィッヒ王太子。
「ベア様しゅき……!」
ついでにユーリア嬢の心も撃ち抜いていた。
「吾は!腐抜けた王政、貴族社会を一掃し!
我が宿願、神聖フェイトリス帝国を建国し、世界制覇の第一歩とする!」
その高らかな宣言に、周囲から雄叫びが上がる。
そういえばベアトリックスの侯爵家は代々大軍閥の長だったな……?
誰だよ、あんなヤバイとこの家系に軍の指揮権与えちゃったの……と後悔していた。
「命取られるぐらいなら軍門に降るか……」
と、渋々貴族達はベアトリックスに付き従うのであった。
「王太子よ。我が覇道、とくと御覧じろ!」
「お待ちになって!ベア様!
ユーリアもお供させてくださいませ!!」
かくして、覇王系お嬢様ベアトリックスの世界制覇への快進撃が開幕した。
ちなみに、世界制覇を成し遂げたベアトリックスの治世は割とマトモで、後世パクス・ムスクルの賢君と称えられる事になるのは、近い将来の話である。




