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万有能力 林檎のなる木  作者: 東雲夕夏
【第1章】木から落ちた林檎
9/9

【第7話】日常(?)生活 前編

(前回までのあらすじ)

初めての訓練を終えて家へ帰ってきた新中。

翌日からはいつも通り(?)の大学生活が始まる…

聞き飽きた目覚まし時計が鳴る。

夢の中から引きづり出された新中は、目を擦りながらアラームを止めた。


一日しか家を空けていなかったのに、もう懐かし気がする。


何とかいつものルーティンを思い出しながら、

顔を洗い、髪を整え、朝食を作る。

昨日と同じ、べーコンと目玉焼き、それと食パンである。

食欲の湧かない朝でも活力を得るのにはうってつけだ。


朝食の後は歯を磨く。

鏡に映る自分がやつれて見えた。

まだ昨日の疲れが抜けきってないらしい。


着替えはテキトーに済ます。

今日は特別な予定もないので、着飾る必要はない。

デニムのパンツと白い半袖Tシャツ。

黒のアウターを羽織れば、お決まりの格好になる。


室内の涼しさに後ろ髪を引かれながらも、家を後にした。

最寄り駅までは歩いて行く。

お気に入りの曲を聴いていればすぐだ。

今日は明るくいたいから、Jpopでも聞こう。

軽くスキップしながら駅まで15分。


最寄り駅まで着いたが、三津田の姿はない。

それもそのはず。

月曜日は三津田と会えない日なのだ。

三津田は今日、2限から授業があるが、対して自分は1限からである。それに加えて、自分らは取ってる授業がまるで違うので、会えるはずがない。


訓練へ向かう時になって初めて会えるだろう。

そう思うと、訓練が楽しみになってくる。


8時ちょうど。地動3番線の電車、新東京駅行きに乗る。地動列車の揺れが眠気を誘う…


「まもなく、新東京駅、新東京駅です。中央環状線、東西線、新東京線はお乗り換えです。We will soon arrive…」


機械アナウンスでようやく目を覚ます。


新東京駅からは中央環状線に乗り換える。

中央環状線は時計回りが地動線、反時計回りが空動線となっている。

自分は反時計回りに乗り、大学の最寄り駅まで行くのでここからは空動線である。


空動線は地動線よりも遥かに静かである。

少し聞こえる機械音が眠気を誘う…


(結局、地動でも空動でも眠いだけやないかい!)


というツッコミは置いておき、約20分の穏やかな時間を過ごす。


「まもなく、上川(かみかわ)駅、上川駅です。お降りの際はお忘れ物ございませんようご注意下さい。上川駅の次は紀ノ藤(きのふじ)駅です。Next stop at…」


今度もまた機械アナウンスで目を覚また。

しかし、まだ一駅前のようだ。

本当はもう一眠りしたいところだが、降り過ごしては間に合わなくなってしまう。


大きく口を開け、欠伸とも、ため息とも、深呼吸とも分からない息を吐く。


8時32分。紀ノ藤駅のホームから降り、改札を抜ける。あとはここから15分歩くだけだ。

陽が次第に強くなってゆく中、イヤホンを両耳に付け、頭の中はノリノリで歩いていた。


しかし急に背筋に寒気が走り、反射的に振り返った。

…不自然なものは何も無い。あるのはただ、自分と同じ学生のみである。


気のせいか…


(そういえばここは、島嵜に声をかけられた場所だっけ。)


あの時のことは一種のトラウマと化している。

これから大変な事になるんだろうなぁ。

漠然とそう思うが、未だに実感が湧かない。

不安はあるが、まだ命の危機にも晒されていないのだ。取り留めもない心配だけが心に残っている。


悶々としながら校門を過ぎると、突如声を掛けられる。


「懐悠!おはよ!」


同じ学科の下長(しもなが)颯介(そうすけ)、遅刻魔だ。

俺は「そう」と呼んでる。


「そう!おはよ!お前汗だくじゃねーか!」


「はは、寝坊しかけてさ、駅まで走ったんだよ…そしたらもう…ね」


「お前またかよ」


「そう褒めんなよ〜照れるぜ」


「褒めてねーよ」


「1限どこだっけ」


「C棟の103号室」


「あ、(げっ)ちゃんの授業か」


「そそ、1限から月ちゃんは寝るよぉ」


「お前いつも寝てね?」


「俺は早起きしてるんだよ、よく寝坊するどこぞの誰かとは違ってな!」


「え!そんな奴がいるのか!」


「…お前だよ…」


「いやいや、僕は布団が離してくれないだけだから!ちゃんと起きてはいるんだよ!」


「遅刻してたら結局同じだろ?」


「ちがうよ〜」


「…何言ってんだか」


「てか、そろそろ1限始まるぜ?ちょっと急がないと」


「やべ、ほんとじゃん!」


結局、2人とも汗だくで教室に入ることになった。


月ちゃんこと月島(つきしま)辰哉(たつや)は他国語の教授である。

日本語と英語はもちろん、中国語、アラビア語、ドイツ語、フランス語なども話せるのだからすごい。

噂によれば、20種類の言語が話せるとか…(真偽は怪しいが…)。

英語については、イギリスやインド、オーストラリアなどの訛りまで完璧らしい。


エリートな教授なのだが…エリート故に授業が非常に難しい。

専門用語が飛び交い、生徒の理解を置いていく。

週に二回も月ちゃんの授業があるのだが、それぞれ1限と5限という何とも眠くなりやすい時間なのだから分が悪い。


授業が始まって20分が経過した。

瞼の重みは増すばかり。

教室は静かだった。

教授の声の他に聞こえるものはほとんどない。

ペンが滑る音も、教科書が捲られる音も聞こえない。

強いて聞こえるのは寝息だけだ。


ガタン


机が揺れる。慌てて目を開けたが、まだ教授が話している。

ほっとして目を閉じると


「おい、いつまで寝てんねん」


「んぁ…?」


「もう終わったぞ」


「あれ…うそ」


「お前、爆睡だったな」


昨日の疲れがどっと来たのだろう。


「ほら、図書館行こーぜ」


「お、おぅ、行こう…」


2限は授業がなく、空きコマであるから、いつも図書館で過ごしている。


図書館はいい所だ…冷房が効き、静かである。

紙の擦れる音が子守唄のように漂う。


なんとも寝るのには相応しい場所だが、


(来週提出のレポートをやらなきゃ!)


思い出したように焦る。

まだ少ししか手を付けていないレポートがある。

しかも月ちゃんのやつだ。

テーマは確か「アラビア語における言語と宗教の関係」だったな…

文献資料が見つけられずに挫折している。

先行研究も少なく、手が付け難い状態だ。


まずは、関係しそうな文献を全て漁ってみるか…

二人は図書館の自習スペースに席をとり、自分は文献を探し回った。

下長は小テストの勉強をしている。

(とりあえず経典を読んでみるか…そこから言語との関係を見いだせるかも…)

そう思い、経典の日本語訳を2冊借りた。

ついでに、アラビア語の文法について書かれた文献も2つほど借りる。

自習スペースに戻り、経典を読んでみる…


自分らの文化との差が面白い。

これらの言葉が全て人々の考え方に影響を与えているかもしれないと思うと興味深い。


「ふぁ…、そろそろ食堂行くか?」


時計を見ると11時30分である。

12時になると2限を受けていた人が食堂に集まり、混雑する。

2限がない人は早めに行くのが定石である。


「お、そうだな、行こーぜ」


「今日のメニューなんだっけ?」


「あんま覚えてねーけど、たしか唐揚げ丼あったよな?」


「お、マジ?それ美味いよな!それにしよ」


「俺もそうしようかな」


「あ、シラス丼あるってよ」


「え、じゃあそっちにする」


「お前それ好きだよなぁ」


「これ、シラスとオクラが最高の組み合わせなんだって!」


「俺オクラ苦手だわ。ネバネバがダメ」


「おい、マジかよ美味いぜ?」


「いや、無理だね」


「え〜」


「お、今日食堂混んでるな」


「ほんとだ、なんで?」


「さぁ?ま、時間にゃ余裕あるからいいだろ」


「そうだな」


並んで15分。新中らはそれぞれ唐揚げ丼とシラス丼を手に机に着いていた。


やっぱりシラス丼は美味しい。

醤油やオクラの苦味がちょうど良いアクセントとなり、全く飽きない味である。


気づいたら食べ干していた。

下長も唐揚げ丼を食べ切ったようだ。


次の3限は自分は授業があるので、早めに行きたい。


「じゃあ俺、次授業だから先行くな」


「あ、おけ、いってら」

【第7話 Tips】

2045年の駅は何かと先進的である。

改札は全てゲート状で自動化されており、カードのタッチなど不要で、通過するだけで交通費が払われる。

駅係員は基本的に駐在していない。


コンビニなども内蔵しているが、店員はおらず、商品を持ち出せば勝手に会計される。


一方で防犯対策も十分にされており、罰則も厳しいことから、都会の駅は平和である。

地方では様々な手法で無賃乗車や窃盗が行われてしまっているようだが、それでも件数は少ない。






ご精読ありがとうございました!


感想・ご指摘お待ちしております!


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