【第3話】調査員専用室
(前回までのあらすじ)
島嵜に言われた通り、歴史保存協会本部へ来た新中と三津田。
島嵜の秘書の革波の案内で島嵜の書斎まで通される。
島嵜は、三津田の父親である三上が宗教団体「ニュートンのゆりかご」によるテロ犯罪を阻止するために、命を落としたことを語る。
続いて島嵜は、新中と三津田に「ニュートンのゆりかご」が新たに企んでいる大規模犯罪の完全阻止を二人に依頼した。
覚悟は出来ていると言った以上、引き返せない二人だが、情報量のあまりの多さに混乱していた。
それを見かねた島嵜は、革波に二人を「部屋」へと案内させた。
また広いエレベーターに乗り、今度は32階に着く。
扉を開けるとやはり目の前に認証機械のついた扉。
どうやら既に僕らでないと開かないように設定されているらしい。相変わらずDNA認証は健在だ。
これならば安心安全、完璧なものである…指の痛みさえ気にしなければ…。
扉の先はまっすぐ伸びた廊下だ。右には「調査員専用室A」左には「調査員専用室B」と表札が書かれた扉がある。
「左右の部屋は、個人でお使い頂けるようになっております。
内装は同じでございますので、お好きな方をお使いください。
廊下の突き当たりにも扉がございます。こちらは共用スペースとしてお使い頂けるよう、ソファやテレビ、台所などをご用意しております。
リビングルームやダイニングルーム、リラクゼーションルームとしてご利用ください。
共用スペースと各部屋は直接扉で繋がっていますが、もちろん内側から鍵をかけることが可能でございます。
また、左右の部屋どちらにも、ソファ、テレビ、台所、トイレ、シャワールーム、洗濯機等が設置されており、プライバシーの確保ができるようにさせていただきました。
もちろん、監視カメラ等は設置しておりませんので、お気軽にお過ごしください。
そのほかご質問はございますか?」
超高級ホテルさながらの説明に息を飲む。
「…ほ、本当に僕たちが自由に使っていいの……?」
「ええ、もちろんでございます。我々、歴史保存協会としましては、危険な任務に挑まれる調査員様が十分お休み頂けるように、こういった手配を致しますのは当然のことであり、我々の責務であると考えております。
ですので、気兼ねなくご利用頂けると幸いです。」
そんな都合の良い事があるだろうか。
いや、命を懸けた任務にあたるのだから、当然と言われたらそんな気もするが…。
先程の島嵜の話での衝撃と、今目の前に広がる光景の異常さに耐えかねて、頭が混乱して止まない。
「あ、ありがとうございます。」
さすがの三津田も混乱しているようだ。
「他にご質問がなければ…」
「あ、もう1つ聞きたいことが…島嵜さんと革波さんについてもう少し知りたくて…」
「あ、失礼いたしました。まだ落ち着いて自己紹介した事はありませんでしたよね。」
「いろいろ展開が早すぎて、理解が追いつかなくて…」
「失礼いたしました。配慮が欠けておりましたね。では改めて。
まず、先程お話頂いたのは、島嵜光瑠でございます。歴史保存協会の副会長にして、今回の作戦の総司令官でもあります。
三上様とは同期でございまして、昔はペアを組んで様々な調査を一緒に行っていたそうです。
『ゆりかごテロ未遂事件』では三上様が実際に本堂へ赴き、島嵜は協会本部でサポートを行っていました。
その後、島嵜は功績が認められ副会長にまで昇進した次第でございます。
そして私はその秘書をしています、革波海音と申します。
今作戦ではおふた方のサポートも担当しておりますので、なんなりとお申し付けください。
私はまだ協会に所属してから5年と経っておらず、2年前までは調査員として各所へ赴いておりましました。
まだまだ未熟者ですが、何卒よろしくお願いいたします。」
「はい、よろしくお願いします!」
話を聞いているうちに落ち着いたのか、三津田はまた元気を取り戻した。
「では最後に、今後の連絡手段について。まずはこちらをお受け取りください。」
そう言うと革波は長方形状の端末を2つ取り出した。一体どんな最先端な端末をくれるのかと期待をしてると…。
「これは…?」
「15年前まで使われてた『スマホ』に似てるけど…。」
「『スマホ』でございます。」
「え、?」
「現在の機種では、情報をどれだけ暗号化しようが探知され、解読されてしまう可能性がございます。
しかしスマホであれば、電波の送信形式が現在のものとは大きく異なり、探知が困難であります。
もちろん、情報は最大限暗号化してから送信されるようになってますので、ご安心ください。
それら機能に加え、小型ながら顔認証や指紋認証を備えております。
一昔前の端末ながら、現在ではかえって安全な端末としてお使い頂けます。」
確かに、今でも重要な情報は紙に印刷して保管される事もあるし、それと似たようなものか。と軽く納得出来てしまった。
「今後の具体的な動きについては、後日スマホを通してお伝えしますので、本日はお休みください。お疲れ様でした。失礼します。」
「ありがとうございました!」
革波はそそくさと去っていった。
「さて、と…。どっちの部屋使う?」
「私はどっちでもいいけど?」
「じゃあ、僕はこっちにしようかな」
そう言うと新中は左方の部屋「調査員専用室B」を選んだ。
「じゃあ、私はこっち」
そう言い、「調査員専用室A」に入っていく。
新中も自分の部屋の中を見ることにした。
内装も超高級ホテルさながらだ。
リビング、ダイニング、キッチン、寝室、トイレ、シャワールーム、洗濯所。
ふかふソファにベッド、大理石のシンクに浴槽、大きなテレビと冷蔵庫。
おそらくここで何不自由無く暮らせるだろう。非現実さに見惚れて一面を見回すと、1番奥にまだ開けていない扉があった。
ここだけは入口のドアと同じ色をしている。開けてみると、そこにはソファにくつろぐ三津田がいた。
どうやらここは共用スペースらしい。相変わらずの高級感に目を疑う。
「すごいよねここ。ここでずっと一緒に過ごせちゃいそう。」
不意にドキッとした。勘違いするような表現は辞めて欲しい。今日で1番動揺したかもしれない。
(今日は俺も疲れてるのかもな。)そう思う事にした。
「今日はどうする?」
「え、何が?」
「今日はもう帰るの?ここに泊まってくの?」
「あ、あぁ…どうしようかな…」
「早く決めてよ」
「じゃあ、泊まっていくか…」
自分でもなぜそっちを選んだのかは分からない。おそらく気分が浮かれていたのだろう。
【第3話 Tips】え、家に帰らなくていいの?
新中と三津田はそれぞれひとり暮らしなので、帰らなくても大丈夫です。
「でも、洗濯物とか…」いえ、大丈夫です。
新中は(島嵜による謀略などで)帰れなくなることを、三津田は(好奇心の余り)帰りたくなくなることを想定して、洗濯物をしまってから来ています。
しかし実は、新中は来週が期限のレポートを完成させたいため、本当は帰りたいという気持ちが少しありました。
ご精読ありがとうこざいました。
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