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万有能力 林檎のなる木  作者: 東雲夕夏
【第1章】木から落ちた林檎
3/10

【第2話】歴史保存協会本部へ

(前回までのあらすじ)

アイザック・ニュートンを皮切りに、誰しもが超能力をもつ「万有能力」の時代が幕を開けていた。


2045年、とある男子大学生「新中懐悠」と、その同級生「三津田結莉」は普段通り家路を歩いていたのだが、背後から島嵜という男に呼び止められた。


彼曰く、今は亡き三津田の父は「歴史保存協会」に属しており、極秘任務にあたっていたらしい。


島嵜は「詳しく話を聞きたければ、明日、歴史保存協会本部へ来い」と言い、消えていった。


新中は島嵜に対する不信感や疑問が尽きなかったが、三津田は興味津々の様子。仕方なく三津田について行くことにした。

来たる翌日。

新中は10時20分に駅に着いたのだが…三津田は既に待ちくたびれた様子である。


「おまたせぇ」


「思ったよりも早かったな」


「お前は早すぎるけどな」


「いやぁ、楽しみで!」


この後食べるランチが楽しみなのか、それとも歴史保存協会に行くのが楽しみなのか…

気になった新中だが、三津田の顔を見て口を閉じた。


ランチは美味しかった。

不安のあまり味がしないのではないかと思ったが、新中とて人間。頬の怖張(こわば)りも旨みには勝てないのだ。


胃も心も温まったところで、三津田が話題を切り出した。


「何番線のバスに乗ればいいんだろ?」


空動線(くうどうせん)の15番」


「え、知ってたの?」


「俺くらいになると、先見の明が冴えるのよ」


人間誰しも、不安になると先の事を知りたくなるものである。昨晩、ベットの上にうつ伏せた新中も然り。


「はぁ?」


「褒めてくれてもいいんだぜ?」


「えぇ〜、なんかイヤだな」


「なんでだよ!」


他愛もない会話を繰り広げる。

やっと時計に目をやったのは11時35分になった時である。バス発車まであと5分。


11時40分。

バスに駆け込んだのは汗まみれの新中と三津田である。

車内のクーラーに当たりながら約15分。

ついに歴史保存協会本部が見えてきた。その高くそびえるツインタワーに新中は「要塞」と三津田は「凱旋門」と比喩した。


自分の4倍はあろうかという自動ドアを抜け、目の前の受付ロボに話しかける。


「島嵜さんに呼ばれてきたのですが。」


「シマザキのお客様ですネ。存じ上げておりまス。

本人確認を行いまス。ではまずミツダ様、ワタクシの前にお立ちくださイ。……顔認証完了。

次に指紋認証を行いまス。こちらにお触り下さイ。……指紋認証完了。

次にDNA認証を行いまス。」


「え?」


次の瞬間、機械に置いていた指先にざらりとした触感が襲う。驚いて手を離したが、もう既にDNAは検査されたようだ。指先の皮膚が擦れていた。


「DNA認証なんて初めてだよ…」


「厳重なセキュリティなんだな。それほど大事なものを隠してるのか…。」


やはり島嵜の言ってた事は本当だったのか…?

新中は思った。


「次にアラナカ様、ワタクシの前にお立ちくださイ。」


同様に認証を受ける。


「両者とも確認が取れましタ。担当の者をお呼びしまス。少々お待ちくださイ。」


「やっぱり島嵜は本当の事を言っていたのか?」


ついに声に出てしまった。


「ここまで来て疑うことなくない?」


「そりゃそうだけどさ、でもあんなの…」



「お待たせしました。」


「「はやっ」」


期せずして声が揃ってしまった。

目の前に立っていたのは、いかにも仕事熱心な女性だった。グレーのスーツが良く似合う。


「島嵜の秘書の革波(かわなみ)です。どうぞお見知り置きください。島嵜のところまでご案内致します。」


「は、はい…」


端的な自己紹介に気圧されてしまった。


言われるがままについて行き、エレベーターに乗る。象でも乗せるのかと言うほど広いエレベーターだ。しかも全面ガラス張り。

上昇速度も早い。なんせ1階から53階までを30秒で昇り切ったのだ。


エレベーターの扉が開くと、すぐ目の前には「副会長室」と書かれた堅苦しい扉。機械がいくつも着いており、幾重(いくえ)もの認証を経なければ開かないようになっている。


革波は慣れた手つきで解錠し、ノックとともに扉を開けた。


開けばそこは、見たこともない程広大な書斎だった。フロア1つを丸ごと書斎にしている。こんなに広いスペースを何に使うのだと思っていた最中、あの低い声が聞こえてきた。


「約束通り、来たな。」


「んで、親父の話、聞かせてくれるんでしょ」


「そう急くな。まだ挨拶も早々だろう。それに、話を聴けば後戻りは出来なくなるぞ。」


「私たち、覚悟は出来てるから!」


「…そうか。」


(いやいや待てよ!勝手に話進めんなよ!覚悟出来てねーよ!)

と、はち切れんばかりに心の声を荒げる。


「…なら、順を追って話そう。15年前、つまり2030年、我々は『ニュートンのゆりかご』教団が何やら怪しげな動きをしているという情報を得た。

確かな情報ではなかったが、確かめない訳にも行かない。そこでニュートンのゆりかご教団に潜入し、情報を得るために調査員を1人送り出す事にした。」


「それが親父だった…?」


「そうだ。彼は能力こそ優れてはいなかったが、身体能力、潜伏能力には優れていた。

最も適した人材であると考えられた彼は、ニュートンのゆりかご大本堂に派遣された。彼は本堂内でいくつものテロ計画書を見つけ、そのデータをこちらに寄越した。

それだけでも任務派達成していたのだが…

彼は気づいてしまった。その計画書によると、テロは数日中に実行されてしまうと。

そこで彼は急遽予定を変更、計画を阻止することにした。しかしその道中で彼は消息を絶った……。」


「そのテロ計画って…」


「あぁ、俗に『ゆりかごテロ未遂事件』と呼ばれるものだ。あれは三上が遺した情報を証拠に治安局が突入、教皇ら含む教団員を逮捕したことで、収束の一途を辿った。」


「待って待って!どういうこと?「ニュートンのゆりかご」って何?!テロってどんなことをしてたのさ!!」


「なんだ、知らないの?『ニュートンのゆりかご』はニュートンを神として(まつ)ってる教団だよ!ほら、西神田(にしかんだ)市に大きな教会があるでしょ?あれは今の本堂だよ。『ゆりかごテロ未遂事件』はその教団が電子核兵器を製造してたとして罪に問われた事件。」


「教団はその事件以降、強大だった勢力を失った。しかし最近、また妙な動きが察知された。そこで、君たちの出番だ。」


「親父と同じく、潜入し、計画を突き止める?」


「いや、今回はその1歩先を行ってもらう。つまり、計画の阻止も行い、教団が二度とテロ計画を実行できないようにしてもらいたい。」


「そんな事ができるのか?」


「きっとな。そのためには、『ニュートンの枝』を見つけて貰う必要がある。『ニュートンの枝を見つけねばテロリズムの完全阻止は叶わない。』とは、三上が最期(さいご)に遺した言葉だ。

…彼が最期に何を見たのか…。それは未だ分かっていない。

だが、その言葉だけが唯一の手がかりでもある。」


「『ニュートンの枝』?」


「それについては予測だが、ニュートンが能力を見つけるきっかけとなった林檎(リンゴ)の木の枝のことだろう。

教団の中では、大本堂には本物のニュートンの木が今も植えられている という噂さえある。

実際、ニュートンの木がイギリスから日本へ移植されているのは確認が取れている。」


「ただの木の枝だろ?それがテロ計画とどう関係が…?」


「それは分からん。だが今は三上の言葉を信じる他あるまい。

なんにせよ、テロ計画を阻止するためには、本堂に潜入する必要はある。そのついでに『ニュートンの枝』を見つけ出し、完全阻止を図ろうと言うわけだ。」


「……でも、私たちにそんなことできないよ?透明にもなれないし、静かに歩くこともできないし。」


「わかっている。だから君たちは今後、歴史保存協会が鍛える。詳しいことは後日話そう。

とりあえず今日は、君たちの任務を把握してもらえればいい。」


「……………」


「……………」


「……やはり混乱しているのか…?」


「「まぁ、ね」」


「…そうか。……革波、こいつらを部屋に連れていってやれ。そこでしばらく心落ち着かせるといい。」


「承知いたしました。では、おふた方、ついて来て頂けますか。」


「部屋?」


「はい、おふた方に専用のお部屋を用意致しました。ご存知の通り、おふた方には危険な任務に挑んで頂きます。

そのため、こちらから可能なだけの支援はさせていただきます。お部屋の用意はその一環でございます。

また、協会員と同等の福利厚生もお受け頂けることもご承知おきください。

その他ご要望がございましたら、なんなりとお申し付けください。

では、早速ですが、お部屋へご案内致します。どうぞこちらへ。」

【第2話 Tips】地動自動車と空動自動車

2045年では既に車は飛んでいる。

しかし地上を走行することも可能であり、行き先によって地上を走るか空中を走るかを決める。

地上を走っている車は「地動自動車」(略して地動車)、空中では「空動自動車」(略して空動車)と呼ばれている。

バスや電車なども「地動線」と「空動線」がある。

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