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万有能力 林檎のなる木  作者: 東雲夕夏
【第1章】木から落ちた林檎
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【第1話】 急変

(あらすじ)かつてニュートンは林檎のなる木を遠く眺めていた。無意識に林檎に手を伸ばすとーーーー。

気がつけば彼は林檎を握っていた。彼はその手に林檎を引き寄せたのだ。能力〈万有引力〉によって。

それから時も経たず、人類は気づくことになる。人はみな、超能力を持っていることに。万人が能力を有する時代---「万有能力」の時代が訪れたのだ。

ニュートンは今も「万有能力の祖」として語り継がれているーーーー。

2045年。

科学と能力によって世界が発展し切った時代。


新東京市(しんとうきょうし)に暮らす一人の男子大学生「新中 懐悠(あらなか かいゆう)」(能力〈回想(かいそう)〉)

とその同級生「三津田 結莉(みつだ ゆいり)」(能力〈解読(かいどく)〉)は二人で家路を歩いていた。


三津田が愚痴をこぼす。


「ふぅ…疲れたぁ…」


「それな?マジでねみぃ」


「あんた授業中寝てたよね?」


「でもまだ眠い(ねみぃ)んだよぉ!」


「どうせまた溜め込んだ課題を夜遅くまでやってたんでしょ?」


「…バレてた」


「当たり前でしょ!いつもそうなんだから!」


「ま、いいじゃん。どうせテストは満点なんだし」


「能力に頼ってるからでしょ!……ほんと都合のいい能力だよねっ!」


「怒んなよぉ。てか、お前も十分都合のいい能力だろーが!」



「あぁ、2人ともいい能力だ…」



背後から低い声が会話を遮った。

2人は驚いて後ろを見ると、長身の男が立っていた。黒い中折れ帽とスーツ、紺のジャケットが妙に様になっている。


「ん?どなたで…」


「私は歴史保存協会 副会長の島嵜(しまざき)だ。君たち二人を協会に誘致しに来た。」


新中の質問に食い気味に答えた。


「歴史保存協会?それにオファーって…」


「…質問は1つずつにしてくれないか?…まぁいい。歴史保存協会は元来、歴史的史料を保存・研究し歴史を今世に伝える役割を担っている公的機関だ。今回は君たち…いや、君たちの能力を見込んで、調査の協力依頼をしに来た。」


「俺たちの能力?悪いが俺は少し記憶力が良いだけだ。こっちの三津田だって…」


「〈回想〉と〈解読〉だろ?」


「っ…!」


「君たちの事は調べ尽くしている…もっとも、そっちの方は親父さんから良く聞かされていたがね。」


島嵜は細い指を三津田に向けた。


「わ、わたしの親父?」


「あぁ、君の父親さん「三上 悠司(みかみ ゆうじ)」は…私の元同僚。つまり元協会員だった……。才能を持ちながらにして若年で亡くなったのが残念であったがね。」


「違う…親父は高校の教員だったって…」


三津田の父親は三津田に物心がつく前に亡くなっていた。死因までは聞かされなかったが、優秀な高校教員であったと母親が言っていた。

不器用ながらも人への愛は忘れない。そんな人物だったと。


「表の顔はな。裏では我々に協力していた。」


「どういうこと!教えて!」


「落ち着きたまえ。ここでは話せない。…明日の正午、歴史保存協会本部へ来い。受付で私の客だと言っておけ。」


それだけ言うと、島嵜はコツコツと革靴を鳴らして歩いていった。


あいつは手練だった。俺が触れれさえすれば〈回想〉を使って記憶を読めたのに…。あいつは決して間合いに入れさせてくれなかった。そんじょそこらの詐欺師ではないようだ。


「…行くのか?」


途中から黙って見守るしか出来なかった新中が緊張しく言う。


「行くしかないでしょ」


「……」


「だって気になるじゃん!親父の秘密も!協会の秘密も!」


「…え」


(気まづいとか思ってた僕がバカみたいじゃんか。なんでそんな楽しそうなんだよ…。)と思った新中だったが、そういえば三津田って昔からそんなんだったっけな。とも思うのであった。


一方、三津田は…父親への執着でも危機感でも不安感でもなく、ただ好奇心のみが心を占めていた…。


歴史保存協会本部へは、新東京駅からバスが出ているらしい。


「それじゃ、明日の10時半に駅でね!」


「あいよ、また明日な」


「うん!」


そう言い三津田と別れた。

暗い夜道を駅から溢れる光を背中に歩いた。駅から自宅までは15分程かかる。新中の胸にはまだ疑問が残ったままだ。


「島嵜の言うことは本当なのか」「騙されているんじゃないか」「そもそもなぜ僕らが選ばれたのか」

思うことは尽きないが、三津田があの様子だ。

(行くなと言っても聞かないよな…。だったら俺が着いていく方が安全か…。)

【第1話 Tips】2045年の姓名制度

2045年の日本では「旧姓合成法」が施行されている。「旧姓合成法」とは、結婚した夫婦は両者の旧姓を合わせたものを新姓とすることを許可したものである。(従来通り、どちらかの旧姓をそのまま新姓とすることも可能だが、少数派である。)男女平等や少数派の苗字を保護する観点から制定された。


結婚後も旧姓で呼ばれることが多く、新姓で呼ばれるのは基本的にその子供だけである。

なので、夫婦が新姓で呼びあっていると(あの二人、ラブラブだなぁ。新婚さんかな?)と思われがち。


ちなみに、「新中」の場合は「新田」と「長谷中」、「三津田」の場合は「三上」と「津田」を合わせたものである。

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