【第12話】心霊現象
私立祈室西中学校。
教団が運営する中学校で、区内最大の面積を誇る。
都内でも名を馳せており、その生徒数も多い。
平日には生徒のにぎやかな声であふれていた。
「あの日」までは…。
万引き犯の少女は、その昇降口へと姿を消していった。
「これで決まりだね…」
「何が?」
「犯人が教団関係者だって話だよ」
「あぁ、なるほど」
「さ、行くよ」
「お、おう…」
「…怖がってんの?」
「んなわけねーだろ!」
「ほんとぉ~?」
「ほんとだよ!」
「でもここ、心霊現象が起きるって噂だよ?」
「そうなの?」
「そうそう、扉が勝手に閉じたり、マネキンが動いたり、電波が急に悪くなったり…」
「なんだありきたりじゃねーか。
そんなもの信じねーよ」
「ま、本当なわけないよね。
ここが『いわくつき』だから、こういう噂もたくさん生まれてるだけだろうね」
「だろーな」
2人は緊張感もまるでない、他愛もない話をしながら歩き、昇降口の目の前まで来た。
「きっとここはあいつの住処だ。
罠に気をつけろよ」
「おっけ!
行くよ!」
2人は一歩踏み入れた。
ガラガランッ!
「っ!ドアが!」
「お、おい嘘だろ…!」
新中は昇降口のドアを強く引いたが、固く閉ざして微動だにしない。
「さっそく!?」
「言わんこっちゃない…」
「フラグ回収早いって…」
「…どうやって出ようか…」
「さ、さぁ…?」
校内の静粛な空気に、2人の口が閉ざされた。
2人に恐怖と不安がこみ上げ始める。
「…まぁここで悩んでいても仕方ない。
あいつなら開け方を知ってているだろ。
とっ捕まえれば済む話だよ。」
「…そうだね。
それに最悪、窓を割るか島嵜さんに連絡すれば…」
「「あ」」
「そうだ忘れてた!
インカムで島嵜さんと連絡とれるじゃん!
よし、もしもーし、島嵜さーん。」
「……あれ?もしもーし!島嵜さーん!
…中さんは聞こえるー?中さーん!もしもーし!」
どれだけ問いかけても帰ってくるのはホワイトノイズのみ…
「…電波が遮断されてる…?」
「かもね…」
「…手助けはない…か。
じゃ、捕まえに行くしかないね」
「さて、あいつはどこに逃げたかなー?」
昇降口からは左右に廊下が伸び、目の前には階段があった。
「上の階じゃない?」
「なんでわかるのさ」
「ほらこれ見て」
「あ、ほんとだ」
昇降口から階段に伸びる砂の足跡があった。
「この足跡、私の靴と同じぐらいのサイズじゃない?」
「たしかに。
ってことは、これは女性の足跡ってことか」
「そうそう、それに、この砂は多分校庭の物だよ?」
「なるほどな。
さすがの洞察だな」
「でしょ?」
「……ふっ…
じゃ、追おうぜ」
足跡を追って2階へ。
折り返し状の階段を登ると、ここも廊下が左右に伸びている。
足跡は右へと曲がり…
「ここで切れてる…」
「つまり、この先のどこかの教室にいるって事か…」
「…ひとつずつ見てこ」
「おう」
手前から2年4〜7組。
それと被服室、被服準備室。
合計9部屋が連なっていた。
「よし、入るよ」
先に三津田が教室に入った途端…
ガランッ
「三津田っ!」
「…大丈夫!……中は何もないみたい…」
「中から開けれそうか?」
「…無理!」
「わかった、窓割るから離れてろ!」
「う、うん」
割れた窓から新中も侵入する。
教室の中はまさしくがらんどうとしており、締め切られた外窓とたなびかないカーテン、ホコリを被った机と椅子がたたずんでいた。
「…ほんとに何にもないな」
「本当にここに住んでるのかな?」
「…さあな…でも、罠は仕掛けられてる…
この校舎に隠れている可能性は高そうだな…」
「……」
次々と教室を確認していく。
5組、6組、7組…
どの教室も変わらず静かであり、人がいた痕跡すら無かった。
被服準備室。
廊下の突き当たりにある被服室と繋がっている。
この廊下に面する教室の中では最も小さく、廊下に通じる窓がない。
2人はその事に気づいていなかった…
ガランッ!
「懐悠!」
「くそっ!
また閉じ込められた!」
(…窓がない!
被服室へのドアも開かない…)
つまり、完全に閉じ込められた。
「…懐悠!
出られそ…!」
「…?三津田?」
「……」
「っ!三津田!おい!
大丈夫か!」
(くそっ!
なんとかしてここを開けないと…)
途端、背後から物が崩れる音がして…
……
聞きなれたエンジン音。
機械的な振動。
窓を打つ雨の音で目が覚めた。
「ん…」
「お、目が覚めたかい?」
「中さん…?」
「うん、おはよう」
目覚めたそこは中さんの車の中だった。
「…学校に……!三津田は!?」
「大丈夫、君の隣で寝ているよ」
「あ……。
…良かった…。」
「寒くないかい?」
「寒くは…いややっぱり寒いかも」
気づけば全身びしゃ濡れになっている。
「はは、そこの膝掛けを使ってくれ。
エアコンの温度も上げるよ。
…それにしてもいやぁ、びっくりしたよ。
気づいたら君たち、校庭で寝てるんだもん」
「え?…校庭で?」
「そうそう。
君たちが学校についた辺りかな?
そのときから君たちの位置情報が分からなくなって、さらに連絡も取れなくて…
やっとGPSが繋がったかと思って追ってみたら、雨ざらしで寝てて…
…学校の中で何があったの?」
「学校の中では…」
…
「それで、物音が聞こえたと思って…
気づいたら車の中に…」
「なるほどねぇ…
まさしく怪奇現象…いや、心霊現象って言った感じだね。」
「…あれ?…ここは?」
「あ、三津田!大丈夫か?」
「懐悠!良かったぁ!
それに中さんも!」
「おはよ、お疲れ様だったね」
「ありがとう、中さん!
…ところで、私たち何で車の中に?」
「ふふ、ちょうどその話をしていたところだよ」
中さんは今一度同じ説明をしてくれた。
「三津田は最後、どうしてたの?」
「最後?…あぁ、あの時は何とかドアを壊そうって思って消火器を探そうとしたら、後ろから殴られて。
対抗しようと思ったんだけど、あっけなくやられちゃった…」
「殴られた!?
だ、大丈夫なの?」
「うん、まだ頭が少し痛いけど、そんな重症じゃないと思う」
「なら良いけど…」
「そうだねぇ、帰ったら念の為に診てもらおうか」
「そうします!」
「…不意打ちとはいえ、まさか君たちを気絶させちゃうなんて…
犯人はよっぽど戦闘に慣れているのかも…」
「あの足の速さ、罠の完成度、戦闘の強さ…
あの犯人、絶対にただ者じゃない…」
「あ、そういえば、私と戦ったの男の子だったの!」
「え!?」
「え!ほ、本当?」
「たぶんね、暗くて見づらかったけど、万引き犯の子より髪が短くて、背が高かった。
年齢は同じくらいに見えたけど、体つきも男の子に見えたなぁ」
「え、てことはあの学校にいたのは…」
「うん、万引き犯1人だけじゃなかった…」
「廃校、心霊現象、謎の少年少女。
謎は深まるばかりだね!」
「なんか…中さん楽しそう…?」
「…だね。」
ブブブ…
新中のポケットに入ったスマホが振動した。
「あ、スマホが…」
「あぁ、きっと島嵜さんだ。
君たちと連絡取りたがってたんだよ。
インカムも通じなかったからねー。」
「なるほど…ん?」
ポケットに入れた手が、謎の紙に触れた…
「これは…」
……
『二度と我々に関わるな。
次関われば、その口は二度と開けなくなるだろう。』
「厨二病?」
「ちがうだろ」
「…それで?
これがそのポケットに入っていたと…?」
「そうっす。
たぶん、気絶してる時に入れられたんじゃないかな…」
「なるほど…。
これについては、こちらで預かっておく。
筆跡や指紋から犯人が特定できるかもしれん。
君たちは…今日は休むといい。
まだ痛みも治っていないだろう?」
「えぇ…まだ後頭部が痛い…」
「私も頭痛い…」
「…今後の動きについては、また明日話すとしよう。
今日は解散だ。」
「うぃっす、お疲れっす…」
……
「島嵜さん。
いつも2人にあんな感じなんすか?
ちょっと冷たすぎません?」
「…そうか?」
「そうっすよ、あの2人ビビっちゃいますって。
明らかに口足らずですよ」
「そうは言ってもな、他にどうやって接しろと?」
「別にかしこまる必要ないんすよ。
普通にいつも通り話してあげればいいじゃないっすか」
「……普段から俺は無口な方だが…?」
「たしかにそうっすけど、なんかこう、もうちょっと感情見せるとか…
今回だって、2人をもっと労うような事を言っても良かったんじゃないっすか?」
「だが、我々は彼らの人生に大きく影響を与えている。
彼らの貴重な時間を奪っているし、まさしく命をかけてもらっているんだ。
こちらにも責任というものがあるだろう?
真摯に対応しなければ…」
「なにも感情を見せない事だけが『真摯』じゃないっすよ。
むしろ、彼らを精神的にも寄り添って、助けてあげることこそ『真摯』であり、『責任』だと思いますよ…
ね?そう思いません?革波さん?」
「え、わ、私ですか?」
「もちろん!
革波さんがあの2人と同じ立場だったら、やっぱり島嵜さんにはもうちょっと優しくして欲しいですよね!」
「ま、まぁ…そうですかね…
…やっぱりあの2人は仲良しの大学生ですし…
元気に楽しく活動してもらえた方がいいんじゃないですか?
そのためにも、優しく接する事は大事かもしれませんね…」
「ほら、革波さんも言ってますよ!」
「あ、あぁ分かったから…
…また考えておくよ…」
「ぜひ、そうしてくださいね!
じゃ、私は帰りますけど、島嵜さんは?」
「俺はもう少し残る。
今回の件の報告書をまとめなければ…」
「ふーん、じゃあお先に失礼しますね!
おつかれっす〜」
「…全く、元気の良い奴だ。」
「ふふ、中村さんって相変わらずですよね」
「あぁ、なんというか、周りを明るくする奴だ。
現に、お前も毒されているだろう?」
「あ、気が緩んでました。
あと毒されてるって言い方やめて頂けますか?」
(革波も普段は完璧な秘書なのだが…
気が抜けるとすぐにボロが出る…
今だって、敬語を忘れかけてたぞ?)
「…あぁ、すまんな。
さて、仕事を片付けようか。」
「承知しました。」
「ありがとう兄貴」
「ケガはないか?」
「大丈夫」
「….すまんな、いつも任せて。」
「いいって、私の方が足速えし。
それに、兄貴はまだ体悪いだろ?」
「まぁな..でもおかげでだいぶ良くなってきた」
「あんま無理すんなよ…?
…さ、メシ食おうぜ」
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