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万有能力 林檎のなる木  作者: 東雲夕夏
【第1章】木から落ちた林檎
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【第11話】万引き犯

学校に行き、バイトに行き、筋トレをし、実践訓練をする…。

これをひたすら繰り返す日々が続いた。

「ニュートンのゆりかご」に目立った動きはない。

歴史保存協会の調査にも進展がないようだった。


最初の緊張感なんて特になく、決まったルーティーンで訓練をこなしていた。


訓策の目的すら忘れかけていた頃…


「今日は万引き犯を捕らえに行ってもらう...。」


「「…はい?」」


「最近、祈室(きむろ)区内のコンビニで万引きによる被害が相次いでいる。

警察の捜査によって全て同一犯によるものだということ分かっているのだが…」


「その万引き犯を捕えに行くの?

なんで私達が?」


「どうやら、その犯人が『ニュートンのゆりかご』関係者の可能性があるからだ。」


「…っ!」


「目撃者の証言から、犯人が十字架のネックレスをかけている事がわかった。

実際に防犯カメラで確認したが、そのネックレスはやはり『ゆりかご』のもので間違いなかった。

ただ、なぜ教団員が万引きなんかしているのか…

それが一向に謎だ…。

教団員なら、最低限の生活は教会から保証されているはずだ。

お金に困っているとも考えづらい…」


「…でも、なぜ僕らがその調査を?

教団員とはいえ、犯罪者なら警察に任せておけば…」


「警察としては、教団との関係悪化を防ぎたいそうだ。

『ニュートンのゆりかご』は仮にも強大な宗教団体。

都内の治安維持に一役買っていることも否めない…。

つまり、教団もとい教徒との関係悪化は都内の治安悪化を意味する。

それで、我々に秘密裏の調査を依頼してきたという訳だ。

我々としても、教団の情報を得る機会は見逃し難い」


「なるほど…

で、その犯人の特徴って?」


「年齢は恐らく10代。

犯行時にはいつも緑のパーカーと青のハーフパンツを着用していて、女性と見られるそうだ。

足がすこぶる速く、店員も警察も追いつけたことがないらしい。

なにがしかの能力を使っているのかもな。

…これは防犯カメラに映っていた顔だ。

この写真をもとに犯人を探してくれ。」


「え、顔が映っているなら、警察の方で照合できるんじゃ」


「それがどうにも、データベースには一到する顔がなかったらしい。」


「データペースに載ってない…?」


「あぁ、だからなおのこと、我々の方で調査するしかない。

詳細な情報は後で君たちのスマホに送る。

下で中村を待期させてある。

今はともかく移動を開始してくれ。」


「了解!」


……


車の中で島嵜から送られてきた画像を見る。


パーカーのフードの中から金髪の少女の顔が覗いていた。

目は鋭いけれども、どこにでもいそうな少女である。

パーカーは薄汚れていて、足にはいくつも傷が見えた。


(やっぱりお金に困っているのか…?)


「あ、そうだ!

島嵜さんからこんなのを預ってたんだ。

…はい、スタンガンとストガン!」


「スタンガン?」

「ストガン?」


「ええっと、これは棒状のスタンガン。電源を入れれば、持ち手以外に電流が流れる。

その棒の側面を当てても相手を気絶させられるよ。

折りたためるから、持ち運びも簡単!

『ストガン』ってのは、ストラップガンを僕が勝手にそう呼んでるんだよ。

ストラップガンは、君たちも使ったことあるでしょ?」


「これストラップガンって言うんだ。」


「あれ、知らなかった?」


「うん、知らなかった」


「…島嵜さんはこれの名前すら教えてなかったんだな…あはは…」


空は既に赤く染まり、日が傾き始めていた。


「さてと…祈室区に着いたけど…どこに停めようか」


「1番近くのコンビニにお願いします」


「了解!

帰りはスマホから呼んでくれたら迎えに行くから!」


「ありがとうこざいます!」


「うん!

じゃ、万引き犯、頑張って捕まえてきてね!」


「はい!」


コンビニの駐車場に降り、周りを見渡してみた。

…だがもちろん、緑のパーカーは見当たらず…


「さて、どうしようか?

張り込むか、他のコンビニに行ってみるか…」


「うーん…」


三津田はスマホを見ながら考え込んでいた。


「…このパーカー…」


「どうした?」


「え?あ、いや…大丈夫、なんでもない。

それより、犯人がどこに出てきそうかだよね」


「うん、資料見た感じ、祈室区の南の方での犯行が多いらしいけど…」


「でも、1度行ったコンビニには二度と行かないらしいし…」


「南の方でまだ万引きされてないコンビニはある?」


「うん、こことここがまだだね。」


「じゃあ、とりあえずそこのコンビニ行く?」


「そうするかぁ…」


2人は夕日を横目に、ぽつりぽつりと電灯がつく道を歩き始めた。


「ねぇ、なんでこの子はいつも同じパーカーで万引きしてんだろ?」


「え?いやそりゃ、その服しか持ってないんじゃないの?

たぶんお金に困ってるんだろうしさ、服もそんな持ってないんじゃない?」


「…にしては、このパーカー綺麗すぎない?確認されてるだけでも、最近2か月はこのパーカー着てるんだよね?」


「…たしかに?

つまり、パーカー以外の服はちゃんと持ってるってこと?

…ならなんで、目立つようなパーカーをずっときてるんだ…?」


「…わかんない」


「え?」


「…えへ」


「『えへ』じゃねぇーよ!」


歩くこと約10分、目的のコンビニに着いた。


「ここはまだ万引きされてないんだよな?」


「そうだね」


「じゃあ…ここで張り込み?」


「それしかなくない?

付近の防犯カメラは警察と歴協で見張ってくれてるらしいし…」


夕日がゆっくり沈み続けている。

空は既に紫がかり、夜の訪れを告げていた。

周辺は閑静な住宅街となり、虚しいような静けさに包まれていた。


この季節には似つかわしくない涼しい風が吹く。

月は凛とした輝きを放っていた。


犯人はまだ現れない。

三津田の横顔がコンビニの明かりに照らされている。

2人とも眠気からか口数が減ってきた。


思えば、こんなにも落ち着いた夜はいつぶりだろうか。

最近は学校にバイトに訓練に…

それが終われば疲れのままに眠りに落ちて…

そんな多忙な日々が続いていた。


退屈のあまり、眠気に襲われる。

こんな感覚は久しぶりだ…。



『新中!三津田!

目標が現れたぞ!』


静寂を切り裂いて、インカムから島嵜の声が聞こえた。


『現在警官が追跡中だ!

君たちの端末に位置情報を送る!

君たちも追跡してくれ!』


「2人とも!乗って!

先回りするよ!」


中さんの車はかつてないほどのスピードで走った。

中さんは高速ながら道を問違えることなく、最短で目標地点へ至った。

そのドライビングテクニックは目を見張るものであった。


「よし、犯人はこの道沿いに走ってくる!

ここで抑えるぞ!」


「おっす!」


犯人までの距離、約200m

この道は車で塞いでいる。

ここをそう簡単に抜けることはできないだろう。


少女の後ろからは警官が追っている。

袋のネズミとは言えないが、それでも彼女にとっては危機的状況には間違いない。


「来た!」


道の先から緑のパーカーを着た人影が見えてきた。


「よし、行くぞ!」


「うん!」


新中が少女に向けて一直線に走る。


接触と同時にスタンガンを突いた。

しかし、少女はそれを弾き飛ばした。


(嘘だろ!?

避けられるまでは想定してたけどまさか…)


まさかスタンガンを飛ばされるとまでは考えていなかった。


ここ数週間、訓練で鍛えていただけあって、正面からの格闘には自信があったのだが…


(まぁいい!俺の目的はあくまで足止め、決定打は)


三津田が少女の背後からスタンガンを振りかざした。

スタンガンは少女のうなじに一直線に向かったが、パーカーのフードに防がれた。


(何このパーカーっ!)


あっけにとられた三津田は次の少女の一撃に反応できなかった。


腹を打った拳は向きを変え、新中の顔をかすめた。

新中もカウンターを仕掛ける。

腕で防がれたが、二撃目!!


「はあ!?」


拳が受け止められた。

少女の足があごに入る。


「うぐっ…!」


地面に手をついた。


「うあぁ…目眩が…気持ち悪ぃ…」


女は既に走り始めていた。


なんだあの少女…

やっぱ口者じゃねぇな…


「懐悠!大丈夫?」


「あぁ…いける!」


「じゃあ追いかけるよ!」


「おっけ!」


「2人とも!先に追いかけてて!

僕もあとから車で追う!」


「はい!」


……


(速い!やっぱり速い!)


毎日筋トレしてる僕らよりも速い。

やはり何か能力を使っているんだろうな。


(身体能力向上か…いや…?)


他にも何か秘密があるように感じる…


(あ、俺も能力使っとけばよかった!)

既に後の祭りであるが。


少女は独特な姿勢で走り続けいた。

前傾姿勢でなく、背を伸ばして。

あたかも何かに引っ張られているようだった。


「おまたせ!君たち!乗って!」


中さんが車で追いついてきた。


「いや!中さん!上に乗る!」


「う、上に!?」


新中と三津田は大きく跳び、車の上にとび乗った。


「うそぉ…落ちないでよ…!」


車は全力で少女を追った。

住宅街の入り組んだ道だったが、中さんには朝メシ前。

少女との距離をどんどん詰めた。


少女は車を一瞥したかと思えば、


「跳んだっ!」


一軒家の屋根に跳び移った。


(はぁ!?脚力どうなってんだよ!?)


まさしく重力を感じさせない、軽やかな跳びだった。


「三津田!俺らで行くぞ!」


「うん!」


2人とも車を跳び降り、少女を追う。

展根をいくつ移りながら追いかけ走る。


やはり追いつけはしないが、それでもさっきよりは距離が近づいた。


「おい待て!お前何者だよ!」


「お削らこそ何者だ!」


予想外にも荒々しい声が返ってきた。


「サツでもねるのに追ってきやがって!

それにその身体能力.…

絶対一般人じゃねぇよな!?」


「答えるかよ!」


「じゃあ私も答えねぇ!」


「ちぇっ」


「なんで万引きなんかしてるの?」


「言うかよ!教えて欲しけりゃ捕えてみな!」


そう言うなり、ひょいと軽やかに道へ降りる。


そこには既に中さんの車があった。


「みつけた!」


「げっ…!お前も何なんだよ!」


「あ、中村でーす!」


「…はぁ!?」


少女は向きを変え、細い路地に入った。


「まだ逃げるかよ…!」


右に左に。路地を何度も曲がり、

見失いそうになりながらも、何とか食らいついた。

路地を抜けた先の土手をのぼり、見えたのは…


「ここって…」

「あ、ここは…」

……

ご精読ありがとうございました!

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