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タイトルとかとか、いただいて書きました。

パン屋の娘ですが、お忍びでやってくる騎士様に試食を勧めたらなぜか私が食べられちゃいました




 毎日毎日毎日、閉店間際に来店する男性がいる。

 変装してるけど、物凄くバレバレなのよね。

 プラチナブロンドの長い髪を高い位置で結び、キャスケットの中に隠し込み、鍛え抜かれた身体とサイズが少し合っていない平民服に身を包んだ、英雄と称される騎士アロイス様。

 彼は、甘党なのが恥ずかしいらしい。


「いらっしゃいませ」

「……やあ」


 彼はなるべく話さないようにしているようだけれど、素がいい人なのだろう。話しかけると、ちゃんと返事をしてくれる。

 それが面白くて、ついつい余計に話しかけてしまっている。


「今日は菓子パンが全部売り切れてるんですよ。ごめんなさい」

「そうか…………ん」


 普段は孤高の存在のようなアロイス様。美丈夫とも偉丈夫とも言われていて、彼の持つ伝説級の戦歴は、本当なのか気になって仕方ない。

 彼には色んな噂がある。

 いつ何時あってもいいように、絶対にお酒を飲まないとか、大切な人は作らないとか。


 孤高の騎士様って、大変だなぁと思う。

 だから、町の皆もウチのお客さんたちも、アロイス様だなってバレバレでも見て見ぬ振りをしている。きっと彼にとってのストレス発散が『甘いもの』なのだろう。


 菓子パンが売り切れているという報告に、明らかに肩を落としてシュンとしているアロイス様。

 なんだか可哀想になってきた。

 アロイス様が何を買うか分からないのに、売れ残ったら破棄するしかない足の速い菓子パンを大量には残しておけないのだ。特に、明日は店休日だし。


 いつもなら『ごめんなさい』と伝えて終わるんだけど、今日はちょっと違う。


「父が試作品作りすぎちゃって、食べてもらえませんか?」


 明日、隣の領地でパン品評会がある。それに出すための試作品を今朝から何種類も大量に仕込んでいた。

 品評会は、その場で作って披露するという趣旨なので、時間内にやれるかどうかの練習も兼ねて。

 おかげで今日の夕食は、全部試作品の菓子パンになりそうなのだ。


「…………っ、いい……のか?」

「はい、ぜひ!」


 緊張しっぱなしのまま既に品評会に向けて出発してしまってる父のためにも、甘いもの大好きアロイス様からの感想は聞いておいてあげようかなと、閉店後にイートインスペースで一緒に食べないかと聞いてみた。あと五分で閉店だし。


 アロイス様が父はと聞いてきたので、もう出発していないんですよ、と話していると「母はいないと言っていたよな?」と真剣な顔で聞いてきた。

 アロイス様、素が出てきてるけど大丈夫? どうしたの?


「はい、いませんよ?」

「今晩は君一人がこの家に? 品評会で父上が不在なのは皆が知ってしまっているのか? 防犯は大丈夫なのか?」

「っ、あはは! 心配してくれて、ありがとうございます」


 変装は下手だし、甘党だし、心配性で真面目ときた。アロイス様って、結構かわいい。

 笑ってお礼を伝えると、ちょっとムッとされてしまった。ただ、本気で怒っているわけではなく、心配しているのに……といったイジケのようなものみたいだった。


「女性一人の家に、というのは気が引ける」

「父渾身の新作でも?」

「それは非常に唆られている。食べたい」

「あははは! 一緒に食べましょうよ」

「ん」


 アロイス様、ほんとかわいい!




 閉店作業を終わらせて、イートインスペースに夕食の準備をすることにした。

 準備している間につまむ用のアペリティフとして、ナッツやチーズを渡した。食前酒は何がいいかと一応聞いたけど、要らないとのことだったので、紅茶を出した。


 流石に菓子パンだけというのはどうかと思ったので、簡単なホットサンドと野菜スープも用意して出した。

 

「お口に合うといいのですが」

「ん? 美味い。あと、温かい味がする」


 そりゃあホットサンドだしと思ったら、アロイス様はいつも一人で食べているから少し味気なく感じていたらしい。


「ア……えっと、そういえばお名前を聞いてませんでした」


 アロイス様と言いかけて、がんばって軌道修正した。今までは名前を呼びかけるほどの会話はなかったけど、流石にこの状況では聞かないとどうにもならない。


「……ロイと呼んでくれ」


 ――――そのままやないかい!


 アロイス様、何も想定していなかったな? 変装するくらいなんだから、偽名も考えときなよ!

 思っていたより詰めの甘い英雄は、やっぱり可愛かった。


 軽い夕食を終わらせ、本題に。

 流石に丸々一個は多すぎるだろうからと、二人で半分こにしながら試食することにした。


「これはフランボワーズのペーストを練り込んだクロワッサンです」

「んむ……甘いだけかと思ったが、酸味がしっかりと効いているな。何個も甘いものを食べたあとに、口直しとしてちょうどいい」


 ほほう、と父のためにメモを取る。


「これは、マロンクリームパンです」

「っ、美味いな。これは……凄い」


 何が凄いのかと聞いたら、クリームの濃厚さと舌触りの良さ。そして、しっかりと甘いのに、しつこくなく栗の風味が生きているとのことだった。

 アロイス様、いつになく饒舌だ。


 他にも何種類か食べてもらって、最後の試作品。


「新しいチョココロネなんですけど、味は……食べてみてからのお楽しみです!」


 これはせっかくなので、丸々一個食べて欲しい。新作の中で私の一番のお気に入りなことと、アロイス様はチョココロネが一番好きなようだったから。


 アロイス様が、新作チョココロネを様々な角度から観察していた。物凄く真剣な顔で。


「ん、いただこう」


 よくわからない気合を入れて、アロイス様がチョココロネにがぶりと噛り付いた。


「これは…………パン生地にオレンジピールを練り込んでいるのか!」

「ええ」

「ん……チョコクリームもオレンジの風味がするな。なるほど、そうすることによって少し苦味のあるパン生地と甘いクリームの親和性を高めているのか……物凄く考えぬかれた、美しい配合だな…………んっ」


 徐々にとろんとした表情になっていくアロイス様。そんなに美味しかったんなら良かった。

 アロイス様は紅茶、私はロゼワインの入ったグラスを傾けながら色々とおしゃべりした。

 主に、菓子パンについてだったけど――――。




 ――――んあっ!?


 ガンガンと鳴り響く、頭痛。

 昨日、ちょっと緊張していたこともあって、ワインを飲みすぎたっぽいのはいい。

 ただ、目の前にあるムキムキの雄っぱいはなんか違うぞ。

 プラチナブロンドのサラサラヘアーの偉丈夫が、私のベッドにいるのも、なんか違うぞ。


「ん……あ? っ、え…………リュシー?」

「おはよう、ございます」

「…………っ、あ……すまないっ!」


 ベッドから飛び出て立ち尽くすアロイス様の諸々に目を奪われかけた。


 ――――お願い、服着て!




 二人で何がどうなってこうなったのか、情報のすり合わせをした。

 私は飲みすぎたせい。アロイス様はお酒が激弱で、パンやクリームに入っていたリキュール類で激酔い。

 その結果、朝チュン。


「英雄にそんな弱点が……」

「っ! 知っていたのか」


 なぜしょんぼりするアロイス様よ。そもそもバレていないと思っていたのか。凄いぞアロイス様。かわいいからいいけど。


「言い訳になるかもしれないが……別に、その、前後不覚で意思も途切れ途切れとかではなくてだな…………アルコールで高揚し過ぎて、リュシーに対する愛が止められなかったんだ。だからその……」


 赤面しながらモゴモゴ言い訳するアロイス様は、やっぱりかわいかった。


「私も、ですよ。騎士様や英雄だからではなく、菓子パン大好きなアロイス様のことが、好きだったので」

「その………………キス、したい」

「あははは!」


 アロイス様が顔を真っ赤にして、笑うなよとイジケた。

 この人、やっぱり物凄くかわいい!




 お忍びでやってくる騎士様に試食を勧めたら、なぜか私が食べられちゃいました。

 どうやら、このあとの人生も美味しく食べてもらえそうな気がします。




 ―― fin ――




こちらの作品のタイトル、『ゆーしゃエホーマキ』さん(https://mypage.syosetu.com/1541358/)から奪……ゲフンゲフン。いただきました!


エホーマキさん色々と書かれてますが、いま一番アツいのは……

『攻撃したら『1G』ドロップするスキルで金策してたら最強になってた ~金極振り配信、始めます~』

ネタがね、玄人に刺さりやすいタイプのお方で、ウィットにぶっ飛んでいきつつ(褒めてる)ノリツッコミなレスポンスも天才的に速い(褒めてるよ!)

そんな方の考えるタイトルなんだから、刺さるのよ、私の妄想全力投球脳に。

上手くコネコネ出来てるといいな☆



ってことで、読んでいただきありがとうございます!

朝チュンついでに、評価ボタンとか激押ししてもらえると、作者が小躍りしますヽ(=´▽`=)ノ




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― 新着の感想 ―
酒に弱い騎士様…とても良いですね。 酔った勢いで朝チュン!ごちそうさまでした(*´ω`)
こちらでもこんにちは! んまーーーー! 真面目なパンの試食会からの!いきなりの朝チュン! いきなり激甘カップルできちゃいましたね パンに入ってる酒で泥酔だなんてどんだけ弱いんですかw
いい……
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