硝子玉
目を閉じれば、今でも鮮明に思い出す。
スポットライトの熱、舞台から見える景色。
私の世界を、何倍にも、何百倍にも広げてくれた。
もう一度と願っても、もう経験することは出来ない、あの日あの時の、青春。
そうとわかっていても思いを馳せるのは、たくさんの後悔が、あったからなのか。
「自分ではない誰か」になれるのが、たまらなく、好きだった。
「自分ではない誰か」になれた時、私はどこまでも自由で、それに必ず終わりが来ることも、たまらなく、快感で。
「誰にでもなれる」
そんな魔法みたいで夢みたいなことが可能なそれは、私を虜にして離さなかった。
あの頃より今の方が、もっと、ずっと、上手くやれる。
「それは本当?」
きっと、上手くはやれても、今はもう綺麗で真っさらな自分ではないから、あの時以上の高揚感も、達成感も、何もかもを、得られないんだろう。
「悲しいね」
そうか、私はずっと、悲しくてたまらかったんだ。
取り戻せないものばかりで、今手に入れても無意味なものばかりで、とても、悲しかったんだ。
もうずっと、最後の幕が閉じたあの時から、ずっと。
この、悲しいという気持ちが、ガラス玉のように残っていて、時折、心の端にぶつかるから、思い出すんだろうね、思い馳せるんだろうね。
「それでいい」
それでいいんだ。
あの日あの時の、宝物のような日々。
もう、何にも汚されない、綺麗な思い出。
取り戻せない、戻れないと分かっているからこそ輝く、青春の日々。
目を閉じれば、思い出せる。
それでいい。それでいいんだ。