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09.帳簿付けにはハンバーガー(後編)

読んでくださり、ありがとうございます。

後半はマリッサ視点です。


 手早くテリヤキバーガーを作り終え、キック達の恨めしそうな視線を無視して離れまで戻ってきた。ロアとコールには午後2時に離れまで来てもらえるようお願いした。


「お嬢様、こちら日付順に並べ終えています。これは参考にとステファンからパブロギルス商会の帳簿を借りて参りました」


「ありがとう」


 早速帳簿を開いて見てみる。

 …………うん、そうね。

 とっても分かりにくいわね。


「帳簿はこの形式と国で決まっているのかしら?」

「いえ、決まってはおりませんが、どこも同じようなものです」


 どうしようか迷ったが、今後を考え形式を変える事にした。前世で簿記の資格を取った記憶があったので、この世界で参考に出来るかもと、料理を作りながら考えていたのだ。


 新しい紙に線を引き、項目を書き込んでいく。

 支払い方法など、前世よりも単純なため、そう難しく考える必要もないだろう。

 途中で不具合がでれば、修正すればいいだけだもの。

 取り合えずこれで帳簿を付けて様子をみればいいわ。

 その他、今後使うであろう書類の雛形も合わせて作った。


 書類に不備がないか確認した後、複写コピーしていく。

 複写機を作っておいて本当に良かったわ。


 新製品をお店で売る場合、商会ギルドに仕様書の提出が必要となる。その際、ギルドに2枚、商会の控えに1枚と、計3枚も同じことを書かなければならないのだ。

 正直、とても面倒だった。

 一文字でも間違えれば、書き直しなのよね。

 開発品が複雑な作りであればあるほど、仕様書の文字数も増えるため、早めに複写機を作っておいた方が良いと思ったのだ。


 マリッサがお父様に見せたところ、是非売って欲しいと言われたので、近いうち複写機の仕様書も書かなければならない。

 仕様書書くのが面倒だから、プレゼントすると言ったのだけれど、世の中に需要がありすぎるから駄目だと言われたのよね。これも絶対に商品化するべきだと。


 複写コピーする種類と枚数が多いため時間がかかる。

 先に昼食を取ることにした。

 もう少し複写時間などを改良してから、商品として売り出すのが良いわね。


「マリッサ、一緒にお昼にしましょ。今日はチーズバーガーセットよ!」


「いえ、後で」


「さっきは悪かったわ。私の我が儘で始めた商会なのに、マリッサに甘え過ぎていたわ。帳簿の事も、私から確認するべきだったもの」


「そのような事はありません。もっとマリッサに甘えて欲しいくらいです。帳簿の件は、ステファンに言われて気づきました。本当に申し訳ありません」


「マリッサは悪くないわ。やっぱり私が気付くべき事だもの。それなのにあんな態度取ってしまって、ごめんなさい。仲直りとして一緒に食べましょう。美味しいわよ!」


 マリッサに座ってもらい、マジックバックからチーズバーガーセットを取り出した。

 ロアに揚げてもらったフライドポテトとクラフトコーラ付きだ。

 今まで観察していたのだけど、マリッサはポテトと炭酸ジュースが好きよね。ほんの少し表情が緩むもの。

 因みに炭酸水なのだが、天然の湧き出している炭酸水が無いか調べて欲しいとお願いしたところ、すぐに探しだしてきた。領地で発見できたらしい。

 鑑定の結果、飲んでも問題なかったため、今では食材庫に常備されている。


「━━これは世に出して良いものではありません!」


 ふふっ。マリッサ用に取っておいた、火竜の燻製肉で作ったBLTバーガーを食べてもらったのだけど、やっぱりそうなるわよね。


「大丈夫よ。これは封印されたわ。だから内緒ね!」

「わかりました」


 チーズバーガーも美味しくできていた。

 チーズを贅沢に使ったのだけど、正解だったわ。


「そうだわ! マリッサに聞こうと思っていたのよ!」

「なんでしょう?」

「私まだ計算の授業を家庭教師から受けていないわ!」

「必要ありませんよね?」

「どうして?」

「過去に質問させていただき、きちんと計算できていたので授業は必要ないと判断しました」


 普段の何気ない会話で、試されていたらしい。

 庭師から果物をもらった。6人の庭師に3個ずつ果物飴を作ろうと思うが全部で何個作ればいいのか。

 そんな質問を過去に何度もされていたらしい。普通の会話だと思って覚えていないけれど。

 足したり引いたりする質問を何度しても、正確に素早く答えるため、算数の授業は必要ないと判断したようだ。指折り数えて足を鍛える授業も、少し受けてみたかったわ。


「だからと言って、帳簿の付け方すら教えて貰ってないわ」

「必要であればステファンを呼んできますが?」


 これもどうやら試されているみたいね。

 雛形も作り終えてしまったし、取り合えず私のやり方で帳簿を作り、後で見てもらうことにした。



 ◇



「シア、進んでいるかい?」

「助っ人参上!!」


 2時になりコール達が来てくれた。

 自分なりに分かりやすい付け方に変えたため、3分の2は処理が終わっている。頑張ったわ。前世の記憶もありがとう。


「コール達には、確かめ算をお願いするわ。ここに書いてある数字が一日の合計よ。束ねてある領収書を全て足した金額と合っているか確認してもらいたいの」


 場所を会議室に移し、広い円卓の上には日ごとに分けられた帳簿と領収書を置いてある。間違いや質問があれば教えてくれるように告げ、残りの帳簿付けに戻った。


 正直、好奇心だけだった。

 本気で指折り数えて計算するのかと。


「…………凄いわ!」


 こっそりと二人の計算する姿を見るつもりが、完全に見入ってしまった。

 指折り数える姿を見て、笑ってしまったらどうしようかと考えていたが、杞憂に終わる。

 物凄い早さで折り曲げられていく手の指。本当に数えられているのか不思議になる程に早い。足が見えないのが残念過ぎる。靴を脱いで欲しいとは言えないものね。

 しばらくボーっと二人の様子を見つめてしまった。


「お嬢様、大丈夫ですか?」


 マリッサに声をかけられ、我に返る。

 いけないわ。今は帳簿を仕上げなくては。

 何度も二人の計算姿に気を取られそうになりながら、なんとか帳簿付けが終了した。今はまだ仕入れしかしてないものね。


 3時のおやつ時間を少し過ぎてしまったが、これからおやつにしようと声をかけると、もう少し待って欲しいと言われた。

 どうやら、キック達が使用人達のおやつの後、こちらに来るそうだ。テリヤキバーガーが食べられなくても、近くで見ていたいって、余計に食べたくならないのかしら?


「そんな事より、シア。この帳簿はきみが考えたの?」


「ええ。うちの帳簿を見せてもらったけれど、わかりにくくて。今後見返した時に、すぐ目当ての項目が見つけられるようにしたの」


「……うん。━━シアのギフトは特別なんだね」


「なに? 聞こえなかったわ」


「いや、すごく分かりやすい帳簿だなって」


「ありがとう。ステファンに見せて、合格をもらえればいいのだけれど」


 その後暫くしてキック達がやってきた。

 大量のハンバーガーを携えて。

 私が帳簿を付けている間も、ハンバーガー作りを続けていたらしい。試食しようと切り分けていく。

 厨房から出る直前、ボソッと『チキンカツバーガー』と呟いたのも聞かれていたらしく、レタスとチキンカツを挟んだものも作られていた。他にもアボカドや魚のフライなど、あの短時間でよくもここまで考えられたものだ。

 時間があれば、中の具材に合わせてパンの味を変えたいとも話していた。皆商品化する気満々なのね。


「約束通り、帳簿を手伝ってくれたコールとロアに、テリヤキバーガーを進呈するわね。━━で、キック達も沢山の試食品を作ってくれたし、私のテリヤキバーガーを皆で分けましょう!」


 コールとロア、マリッサにも一つずつテリヤキバーガーを渡しながら提案する。

 お嬢の大好物なのにいいのかとか言いながら、とっても顔がニヤけているわよ、キック。

 マリッサの分のテリヤキバーガーも、他のものが食べきれないからと皆で分けることにした。コールとロアは綺麗に一つ完食していた。


「お嬢、テリヤキソースの作り方今すぐ知りたい」


 普段無口なアンカーが詰め寄ってくる。

 アンカーって甘味がある物好きよね。チョコを使ったカロリーバーを作ったときは、一人無言で食べ尽くしていたものね。


「帳簿付け終わったのか? じゃあこの後作ろうぜ!」


 キック達が作ってきた10種類以上のハンバーガーを試食した後、結局厨房に戻り、テリヤキソースを作った。

 鶏肉にソースをぬり炭火で焼いたものをパンに挟んだり、チキンカツバーガーを手直ししたり、結局また大量の試作品が出来てしまった。

 既にお腹がパンパンだったので、使用人達に食べてもらって感想を聞いてもらうようお願いした。小さく切ってもらったけれど、流石に10種類以上の試食は苦しかったもの。


 シシリアーナが疲れて早々にベットの住人になった後、ハンバーガーの試食品を巡り使用人達でバトルが勃発していた。

 10種類以上の中から、食べられるのは3種類のみ。

 料理人達への事細かな味の質問や、選び取れる順番など揉めにもめ、決着したのは日付が変わろうとする頃だった。




 ◆◇◆




「━━マリッサです」


 執務室を訪れると、すぐに扉が開いた。

 どうやら待ちわびていたらしい。


「シシリアーナ様の帳簿拝見しました。とても素晴らしい出来です。帳簿もそうですが、このバインダーとインデックスシールという物も今すぐ欲しいです。幾らで販売する予定ですか? 前にも言いましたが、複写機はまだなのでしょうか? 勿論カラー複写機ですよ。2台早急にお願いしたいのですが」


 旦那様が話し出す前に、ステファンが興奮気味に喋りだした。いつもの冷静な彼らしくない姿に、笑いが込み上げそうになる。


「お嬢様は文具を販売するつもりは無いそうですが」

「それはいけません! では私が直接説得して━━」

「まあ待てステファン。先に私が話しを聞きたいのだが」


 いつにないステファンの様子に苦笑いしながら、旦那様が止めに入る。明日にでもステファンはお嬢様に突撃して来そうな気がする。


「今日シシリーを怒らせたそうだね」


「はい。休日だとお伝えしていながら、帳簿付けをお願いしましたところ、気分を害されたようです。私を責めるような口調は蕩けるように甘美な響きをもち、冷たくこちらを見据える瞳は、永遠に輝き続けるダイヤモンドのような煌めきで! 感激しうち震えていたところ、無意識で私を気遣ってしまう、聖母のような優しさをお持ちです。その後は至らない私を許してくださり、剰え謝らせてしまいました。その姿はさながら地上に舞い降りた天使の如く、可憐で儚げで有りながら凛とした強さをもち━━」


「━━あぁ、……うん。分かったよ。いや、よく分からないけれど、うちのシシリーは尊いって話しだよね」


「はい」


「まあ、いくら尊くてもまだ幼い子供だ。無理をさせないで欲しいのだけれど」


「明日お休みを取れるようにしています。尤も午前中の魔法の授業は、受けたいと仰るでしょうけれど」


 コール様に話しを通した時も、シアが望むのであれば授業はするからねと言われてある。


「シシリーが笑っていられるのであれば、それでいいよ。━━それで? 他に何か報告は?」


「コール様がお嬢様のギフトは特別だと仰っておりました」


「そうだろうね。この短時間でここまで新しい物を作り上げるとは……。過去にいた『刻語り』とは随分と違う」


 そう、今までにいた『刻語り』も前世の記憶の恩恵ギフトで新しい技術を生み出した。けれど、それは一つの事柄に限るのだ。

 上下水道を作り上げた者、チョコレートを生み出した者、パンの技術を飛躍的に伸ばした者。その他にもいたが共通するのは、一つのギフトに関すること以外の記憶は、おぼろ気だということ。

 シシリアーナ様も料理のみ・・・・のギフトをお持ちだと思っていたのだが、どうやら違うらしい。


「必要な時に、前世の記憶をパッと思い出すそうです。今日も帳簿を見て初めて、資格があることを思い出されたようです」


「帳簿付けの資格っていうのも面白いよね。最低限の知識があると職探しでアピールできて、雇用側も目安にできる。進言してもいいかもしれないな」


 シシリアーナ様の報告とその他の確認事項も話し終え、場を辞そうとしたのだが呼び止められてしまった。

 他に報告すべき事は無かったと思ったのだけれど。


「それで?」

「お伝えすることは以上です」

「いや、あるよね? 私に渡すものが」

「ございません」


 渡す物? 複写機はまだだとお伝えしたはずで……。


「火竜の燻製肉のバーガーは? テリヤキバーガーは? 当主たる私の分は勿論作っているよね?」

「…………」


 影から伝えられていたのだわ。

 これは不味い。


「嘘だろ? 本当に無いんだ? ……嘘だろ? 当主だよね、私は? 違うのか、そうか……。当主の威厳が無い私は、シシリーの商会に入れてもらうしかないな。毎日楽しく商品開発するのも悪くない。顰めっ面の爺さん達相手より、よっぽど試食しているほうが有意義だし。明日早速陛下へ辞職届を出して━━」


 面倒な旦那様の一面が出てしまった。

 美食のパブロギルス公爵家当主である旦那様もまた、人一倍美味しいものに目が無いのだ。だから使用人達の食事やおやつに他家ではあり得ない予算を組み、新しいレシピ開発が出来るようにしているのだから。


 ステファンが早くどうにかなさいと目で訴えてくる。

 いやいやステファンが宥めてくださいよと訴えるも、無理だと返ってくる。暫くステファンと擦り付け合いをしていたのだが、旦那様がいよいよ辞職願を書き出したため、諦めた。

 旦那様はやると言ったら本気でやる。


「旦那様。━━お嬢様は旦那様に完成したテリヤキバーガーを食べてもらいたいと仰っていました。『毎日お城でお仕事頑張っているお父様に、美味しいものを食べてもらいたいもの』とお疲れのところ試作されていました」


「それは本当かい?」


 真っ赤な嘘であるが仕方ない。

 明日シシリアーナ様にテリヤキバーガーをお願いしなければ。


「はい。ですが余程疲れていたのか眠気には勝てず……。明日にはきっと、完成させたテリヤキバーガーを旦那様にお渡しすることでしょう」


「そうか」


「お嬢様は常々、『お城でお仕事しながら当主としても頑張っているお父様格好いい』と仰っておりました」


 シシリアーナ様がこのセリフを言っていたのは2年前だが、嘘ではない。少しお伝えするタイミングがずれただけだ。


「そうか! ではシシリーにこれからも格好いいと言われるように頑張らなければいけないね」


 ニコニコ笑顔になった旦那様は機嫌が直ったようである。

 しかし旦那様を宥めるのはステファンの仕事なのだ。

 この貸しは高くつくわよと目で訴えておいた。





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