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06.第一回クルクリ商会会議(中編)


 自己紹介も終わり、懸念事項だった魔法学の師匠も決まったため、充実した気持ちで一杯だけれど、まだ本題に入っていなかったわね。

 さて、私が今から提案する商品は、この世界に受け入れられるのかしら。


「マリッサ、例の物を用意して貰える?」


 畏まりましたとマリッサがワゴンに乗せ持ってきたのは、試食用に小さく握った『おにぎり』だ。具材を変えれば飽きることなく食べられ、尚且つ屋台で売りやすい。何と言っても、遠足におにぎりは欠かせない! 将来的に、お弁当を売り出せたら良いなと思っているのよね。


 合わせて冒険者達が日頃食べている携帯食も用意してもらった。数種類の携帯食がテーブルの上に並べられていく。

『冒険者の心得』という本で知識は得ていたけれど、実際に見て食べてみないと分からないため、用意してもらったのだ。

 市場調査は大切よね。


「こっちが売り出したいと思っている『おにぎり』よ。お米を握った物なの、食べてみて。━━それで、これが今出回っている、冒険者の携帯食なのね」


 キック達は冒険者の携帯食を食べ慣れているだろうから、私だけが、市場に出回っている携帯食を食べてみた。まさか皆が冒険者だとは思ってもいなかったもの。

 これは豆ね。一粒取って食べてみたが、炒った豆だ。味付けはされていない。

 こっちはドライフルーツ? これも一つ手に取り食べてみる。とーーっても甘いわ。粘りもあるため、上手に食べないと歯にくっついてしまう。水が欲しいわ。

 他の物も、豆に甘味を付けたり、甘味の強いドライフルーツと、似たり寄ったりの物ばかりだった。糖分を摂るため、甘味のある物が多いのかしら。

 甘味好き向けにカロリーバーを作っても良さそうね。


「おにぎりはどう? 冒険者達に受け入れられると思う?」


 言葉で説明するより食べてもらった方が早いかと、朝からご飯を炊き、おにぎりを用意していたのだ。料理人達を驚かせようとマリッサに材料を調達してもらったのだけど、誰も一言も声を発しない。お米は受け入れられないのかしら。


「お米はダメだった? でもご飯は腹持ちも良いし、色々な具材で味も変えられるから、携帯食には良いと思ったのよね」


 この国の主食はパンだが、ご飯も受け入れられるだろうと思ったのは間違っていた? 試食用には具材無し、鮭、おかか、シーチキンマヨネーズの4種類を一口サイズで準備した。どれか一つくらいは、口に合う物があるかと思ったのだけれど。よく考えたら全て魚だったわ。


「これが米?」


 え? お米以外の何物でもないわよね。


「米ってドロドロにする以外の食べ方あったんすね!」

「この茶色いの、甘辛くて旨い」

「白いドレッシング? もっと舐めたい」


 口に合うものがあって良かったわ。

 ピークスはマヨネーズ、アンカーはおかかが気に入ったようね。キックとトックはお米に驚いているみたいだけれど。


「お嬢、あのドロドロをどうやって丸めたんだ? 一粒がこんな綺麗な形保ってるなんて、信じられねえ」


 ドロドロ……。そうだった。この国のお米料理はリゾット一択だったわ。チーズリゾットは美味しいのだが、何故か前世の記憶にある、ちらし寿司風リゾットがあり、余り好まれていないのだ。誰がちらし寿司をリゾットにしようと思ったのかしら。謎だわ。


「違うわ。お米は煮るのじゃなく、炊くのよ。簡単に美味しくできるから、売り出しやすいと思うの。コールはどうかしら?おにぎり口に合った?」


「とっても美味しいし、良いねこれ。研究の合間にも簡単に食べられるし、味も違って飽きないよ。冒険者だけじゃなく、仕事の合間に食べる軽食としても良さそうだね」


 皆から良好な反応が得られたため、『おにぎり』を第一号商品として開発する事が決まった。


 商品開発するにあたり、おにぎりの作り方を離れの厨房で教えようと思ったのだが、そろそろお昼の時間でピークスとアンカーが本邸へ戻らなければならない。でもお米を炊くところが見たいと涙目で訴えるので、皆で本邸の厨房へ移動する事にした。

 今日公爵邸に居るのは私一人で、使用人達の昼食は事前に作ってあり、後は配膳するだけだそうだ。試作品を作ると思ったからなと料理人達は良い笑顔だ。 

 私とコール用の昼食も仕込みが済んでいるため、すぐ作れるぞと言ってくれたが、折角なら一緒に試作品を食べたいと言って断った。コールもおにぎりが良いそうだ。


「お米は洗った後、30分位水に浸けておくの。その間におにぎりに合う、ちょっとしたおかずをつくろうかな。あ、今日の皆の昼食は唐揚げなのね。少し貰ってもいい?」


 昆布とかつお節はお味噌汁用の出汁を取った後、佃煮にする。アンカーがいい笑顔で佃煮を見つめていた。そんなに好きだったのね。

 マヨネーズもこの国にレシピが無かったため、合わせて教える。こっちはピークスが常備決定と言いながら、手際よく混ぜ合わせていた。


「お米の量によってお水の量を調節するの。お米の量に対して水の比率は二割増しで。慣れたら、好みの固さになるよう調節すればいいわ」


 火加減の調節を伝え、コールに相談する。

 売るとなったら同じ品質が求められるし、お米に炊きむらが無いようにしたい。誰もが簡単に同じように炊けるよう、炊飯器があればいいなと思ったのだ。


「魔道具でご飯を自動で炊く、炊飯器が作りたいと思うの。炊き方は今説明したように、時間で火加減が変わるようにすれば出来るかなと思うのだけど」


「……時間で火加減を変えて、出来なくもないな」


「でね、お米の浸水時間を短縮するために、時間を進める魔方陣を組み込みたいの。ついでに炊く時間も時短できるようにしたいのだけど、さすがに魔石の消費が半端ないでしょう……。魔石の消費を抑える組み方を考えて欲しいの」

「…………」


「そうなると炊飯器とは言ったけれど、ご飯を炊くだけじゃ勿体ないでしょ。将来的に自動調理器にしたいと思ってるのよね。密封して圧力鍋にもなるように作れば一台何役にもなるし」

「…………」


「お料理別に火加減調節できるようにすれば、ほったらかしで色々な料理ができちゃうの! でもやっぱり魔石使用量が問題だわ。多く使えば高額になってしまうもの」


 世の中の主婦の味方になるには、価格も大切よね。庶民に手が届く価格帯で、将来売り出したいなと思っている。


「…………」


 あれ、コール?

 どうしたのかしら?

 目を見開いて私を見つめてくれているのに、一向に返事が返ってこない。熱弁しすぎて引かれたかしら。

 前世で重宝した電気調理器を再現したいと、一気に喋りすぎてしまったわ。


「コール? ごめんなさい。急ぎ過ぎたわ。取り敢えず炊飯器を作って、自動調理器はゆっくり考えましょ」


「……時間」


「そうね、時間はたっぷりあるもの。時間をかけて考えた方が良いものができるわよね」


 コールが一人で考え込み始めたので、おかず作りを再開することにした。炊飯器はおにぎりを食べた後、ゆっくり検討していけばいいだろう。


 だし巻玉子を焼いていると、キックもやってみたいと言うので、味を変えて数種類作ることにした。玉子焼の味は好みが分かれるところだ。因みに前世の私は甘い玉子焼が苦手で、だし巻玉子一択だった。


 そうしてご飯が炊き上がる頃には、使用人達の昼食も終わり、恨めしそうな目で去っていく使用人を見送った後、皆でおにぎりを握ることにした。


「米って、ドロドロにする以外に食べ方あったんだな。これなら丸められそうだぜ」


「おにぎりは、こうやって三角に握るの。海苔を巻いて完成ね。具は入れすぎるとはみ出ちゃうから、これくらいで握るといいわ」


 手本を見せると、皆がおにぎりを握っていく。

 以外にもコールが一番上手に、おにぎりを握っていく。機械で作られたように、全く同じ大きさの三角を作っていた。

 料理人達も器用に三角に握っていく中、マリッサが歪な丸を作り上げていた。不器用なところもあると分かって安心したわ。


「料理も揃ったので試食会を始めたいと思います! おにぎりは、手で掴んで直接食べるのがいいのよね」


 いただきます、と手を合わせて、大きなお口でパクリ。

 素朴で懐かしい味だわ。とっても美味しい。


 おにぎりだけでは野菜不足なので、豚汁を作ったのだけれど、野菜とお肉の出汁が出てこちらも美味しい。


「こっちのおにぎりも食べてみて! これ一つで大満足の、美味しい一品よ」


「「「「でか!!」」」」


「爆弾おにぎりよ!」


 小さい手では握り難かったが、驚いてくれたので頑張ったかいあったわ。丁度唐揚げがあったので、皆を驚かそうと作ったのだ。


「あ、唐揚げ入ってんすね。ご飯と一緒に食べるの、めっちゃ合うっす! 玉子焼に鮭まで! え、まだ入ってる! 色んな味を楽しめて、めちゃお得っす!」


「トック、分かってくれたのね。手早くご飯とおかずが一緒に摂れて、一度で二度美味しい、爆弾おにぎりよ!」


 皆、すでに多くのおにぎりを食べていたにも関わらず、爆弾おにぎりも難無く完食していた。

 コールも食が細そうに見えて、結構食べるのね。


「持ち運びとしては、専用のおにぎりケースを合わせて販売したらどうかと思ってるの。潰れないようにね。そういえば皆はどんなマジックバックを持ってるの?」


 冒険者と言えばマジックバックが必需品よね。

 マジックバックにも様々な機能があるため、今後の参考に聞いてみた。


「ダンジョンで運良く手に入れたやつだな。そこそこ大きめの容量で重宝してる」


「俺は買いました。ジャイアントブルがギリギリ入る大きさですね。もっと入るのは高くて……」


「持ってない」


「俺も持ってないっす。ダンジョン潜ってんすけど、中々出ないっすね」


「僕は家にあったのを貰った。容量もあるし時間停止が付いてて便利だったからね」


 高ランクの冒険者達なので、全員が持っているかと思ったが、そうではないようだ。買うとなると値段も高い為、ダンジョンを巡って、運良くドロップするのを待つ冒険者が多いらしい。


「おにぎりは今までの携帯食より嵩張るし、マジックバックが無いと荷物になるわよね。容量が小さいマジックバックをお弁当袋として売るのはどうかしら」


 時間停止を付ければ、おにぎりも温かいまま食べられるしと言葉を続けていたら、突然コールに肩を掴まれた。

 強めに力が入っていて、地味に痛い。


「お嬢様へのお触りは厳禁です!」


 マリッサがすかさずコールの手を払い除ける。

 ありがたいけれど、躊躇いもせず公爵家子息の手を払い除けるのは駄目だと思うわ。


「あの、コール、ごめ……」

「いや、今のは僕が完全に悪い。申し訳なかった」


 コールに一言お詫びをと思ったところで、逆に謝られた。


「痛かったよね。思わず掴んでしまって。本当にごめん」

「大丈夫。━━あの、私何か、おかしな事言ったかしら?」


 マジックバックの話だったわよね。

 調べて無かったけれど、マジックバックを取り扱う資格が必要なのかもしれない。まだまだ勉強不足なのよね。


「━━シアはさ、……もしかしてマジックバックを作れるの? 時間停止や時間を進める魔方陣を組み込んで」


「あ! お父様から魔法は使っちゃ駄目と言われたのだけど、ちょっと試しただけなの! 出来心だったの! これからはきちんと言い付けも守るわ! ダンジョン産とは違うけれど、使用する魔法量も多くないし、安全よ!」


 止められていた魔法を無断で使ったのがバレてしまったわ。

 折角師匠が見つかったのに、辞められては困る。


 開発したい商品を考えている時、ふと冒険に持って行くマジックバックが気になった。

 マリッサにマジックバックが見たいと言うと、家で管理されている物を数点持って来てくれた。鞄のデザインが今一ねと伝えると、どれも似た様な物だと教えられた。


 そこで、前世の冒険物語によくある、亜空間収納の魔法が使えるのか気になったのだ。

 この世界の魔法は想像力が大切になる。前世の記憶を頼りに空中に向かって亜空間収納を開こうとしたのだが、出来なかった。どんなに具体的に想像しても開かなかった。

 やっぱり魔法の先生に教わらないと駄目ね、と諦めたところで、普段使っているポシェットが目についた。

 マジックバックも可愛いデザインがあれば良いのにと思いながら、ポシェットに亜空間収納の魔法を展開すると、あら不思議。普段使いのポシェットがマジックバックに早変わり。ご丁寧に時間停止機能付きだった。


 コールに辞められては困ると、必死で魔法を使ったのはこれだけだと伝える。昨日収納した紅茶のカップも、この通り、温かいまま無事だと。これからはきちんとコールに教わってからマジックバックを作るとも約束する。


「━━ふっ。……あはっ! あははははっ!」


 コールは手で目を覆いながら私の話を聞いていたのだけれど、突然笑いだした。

 一体どうしてしまったのかしら。


「ふふ。あはははっ! やっぱりシアの押し掛け師匠になって正解だったよ! あいつらも悔しがるだろうなー。絶対譲らないけど」


 どうやら師匠になるのは継続してくれるらしい。

 良かったわ、本当に。

 それにしても、コールは何がそんなに可笑しかったのかしら?面白い話はしてないと思うのだけれど。

 相変わらずコールは笑い続けていて、訳が分からないため、首を傾げる。


「お嬢……。この世界の常識では、マジックバックはダンジョン産のみ。今まで、どの魔導師もマジックバックは作った事ねえよ」


 キックに言われて理解した。

 だから皆、私がポシェットから出した紅茶を穴が空くように見ていたのね。ポカンと口を空けて。

 マリッサが報告が必要ですねと言っていたのは、魔法を使った事だけではないのね。


 知らなかったとはいえ、まずい物を作ってしまったわ。

『冒険者の心得』にはそんな事書いていなかったもの。

 そしてコール、笑い過ぎて過呼吸になっているわよ。

 ちゃんと息をしてちょうだいね。





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