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05.第一回クルクリ商会会議(前編)


「お嬢様、お店の名前はお決まりですか? 商会登録と看板作りがありますので、急ぎ考えておいてくださいね。今日中でお願いします」


 オカシイわ。

 お店を持つのはまだまだ先の話で、今は勉強の合間にゆっくりまったりと、商品開発するつもりでいたのに。

 並べる商品も出来上がっていないのに、お店の看板作っても仕方ないと思うの。今から作らないといけない程、豪華絢爛な看板を作るつもりかしら。

 いえ、最初は小さな屋台からと伝えたわよね。

 豪華絢爛な看板だと、重みで屋台が壊れてしまうわ。

 そして私の夢もぺったんこ……、いけない、変な妄想で現実逃避してしまったわ。


 マリッサに前世の記憶が戻った事、今後の希望を伝えたところ、お父様に報告がてら商会立ち上げのお許しと、豊富な開発資金を手に戻ってきた。

 商会で開発を手伝ってくれる人も決まったそうだ。

 後日、第一回商会会議で顔見せする予定だ。

 お店を本格的にオープンする際には、もっと人手を増やすと伝えられた。


 はっきり言って、仕事が早いわ! 早すぎるのよ!

 確かに私がお金を稼ぎたいと言ったけれども、伝えてから二日でお店の名前を決めなきゃいけないだなんて、誰も思わないもの。


 その前にマリッサは言ったわよね。

 三日後に商会会議をするので、開発したい商品をざっくりで良いので数点考えておいてくださいと。

 公爵令嬢としての勉強があるから、三日後と言っても正味、半日しか考える時間が取れ無かったのに。

 そこにきて、今度は今日中にお店の名前を考えろだなんて、今はもうお昼過ぎているのよ。せめて朝食の時間に言ってくれれば、勉強の合間に考えていたのに。


 恨み言を言っても仕方ないわ。考えなくては。

 シシリアーナ商会。自分の名前は入れたくないわ。

 冒険者SHOP。分かりやすくはあるかも。

 便利な道具屋。どこかに同じ名前のお店があったような。

 ……壊滅的に名付けのセンスが無いわ。


 諦めましょう。焦って考えても良い名前など浮かんでこないわ。ここは戦略的撤退よ。浮かぶ時は一瞬で良い案を思い付くはずだもの。


 明日行われる会議で議題にかける、料理と魔道具案も考えなくてはならない。作りたい物は色々あるけれど、最初から難しい物を作るのは無理だもの。取り掛かりやすい物を厳選して、少しずつ形にしていけばいいわよね。


 どうにかこうにか、明日の会議に出す携帯食と魔道具案を纏め、その合間に手繰り寄せた閃きのもとに商会名も決めた。マリッサの無茶振りをどうにかこなし、頭を使いすぎた為か、早々に夢の世界に出発したのだった。



 ◇



「お嬢ー!! 酷いじゃねえか! お嬢に知り合いの料理人はいないって? 俺たちを捨てるのか? 俺たちはお嬢の料理を2年以上も一緒に作りあげてきた仲間じゃねえのかよ。これからもお嬢の料理を一緒に作っていくのは俺たちにしてくれよ……。うぅ……、うっう……」


 昨日ぐっすり寝たおかげで頭もスッキリしているし、今日の会議は上手くいきそうだわ。なんて気分揚々と会議室に着いてみれば、これは一体どういう状況なのかしら? 


「えっ! どうして泣いているのよ、料理長! それに皆も。あなた達を捨てるってなに? どうしちゃったの? 料理長達にはこれからもお世話になるし、何がどうして捨てるなんて話になってるの?」


 第一回商会会議の場所は、公爵邸敷地内の離れで行われた。警備や守秘管理の利便性から、マリッサが商会の本部として、お父様から使用権を貰ってきてくれた。

 少し緊張しながらも、気分良く会議を行う部屋へ一歩足を踏み入れた瞬間、料理長達に詰められたのだ。

 そう、料理長だけでなく、公爵邸の厨房で働く料理人全員が揃って泣いているのだ。何故なの?


「うぅ……、お嬢が新しい料理を作って、商会を立ち上げるって、うっ……、それを一緒に手伝う料理人を新しく雇うって……、おぅぅ……、俺達が居るのに、知ってる料理人はいないからって、おおぅ……、俺達には任せてくれないのかよー」


「そんなつもりじゃ……。料理長達の事は、もちろん長年お世話になっているのだもの、知ってるどころか、親しいわよね。でもあなた達は公爵邸の厨房を任されているのよ。これ以上私の事情に巻き込んで、忙しくさせるのは悪いと思って」


「じゃあ、お嬢を手伝うのは俺達でも良いってことだよな! 厨房に一人補充してもらって、俺達が順番にお嬢を手伝うってことで良いよな! それで良いって言ってくれ! お願いだ!!」


 ここで私が嫌だと告げたらどうなるのかしら?

 料理長達のこんな姿を見る機会は滅多にないもの。ただ泣いていたのもあって、目が血走り過ぎて怖いのよね。ここで嫌だと告げたら殺されそうな勢いだわ。


「料理長達が迷惑ではないのなら、一緒に新しい料理を考えて欲しいわ。でも、新しい料理人を入れるのなら、その人にも同じように手伝って貰いましょう。同じ職場で一人だけ仲間外れなのは悲しいでしょ」


「ではそのように調整しますね。料理人の人選もお嬢様が了承されたことですし、そろそろ第一回商会会議を始めようと思うのですが、宜しいでしょうか?」


 マリッサ、私が料理長達を断らないと分かっていたでしょうに、どうしてここまで拗らせた状態で持ってくるのよ。

 事前に料理人は料理長達でいいか聞いてくれれば、大の男達を泣かせずにすんだのに。絶対に面白がっていただけよね。

 文句を言いたいところだが、さっさと会議を始めようと了承のため、頷いた。


「では第一回クルクリ商会会議を始めさせていただきます。司会は私、マリッサ・グリーグスが勤めさせていただきます。商会では会長補佐となります。よろしくお願いします」


 パチパチパチ……と拍手を贈りながら感動していた。

 ここから、私の平民生活への第一歩が始まるのだわ。


「自己紹介をしていただこうと思うのですが、その前に。皆様が商会員になるにあたり、『沈黙の契約』をさせていただきます。これは商会後見人である公爵閣下からの条件となります。了承いただけない方は、退席願います」


 あら、お父様ってば、そんな条件をつけていたのね。

 商会は商業ギルドに、入会金と年会費を支払えば誰でも作ることができる。しかし未成年の場合は、二年分の年会費一括払いと、商業ギルドに登録している商会会長が後見人となる必要がある。

 お父様が会長を勤めるパブロギルス商会から、新たにシシリアーナ部門を作る話もあった。けれど、ゆくゆく平民として暮らす事を考え、最初から公爵家とは別の商会を立てることにしたのだ。


『沈黙の契約』はその名の通り、契約した事を第三者に話せなくなるのだ。商会や重要な取引では執り行われる、一般的な契約だ。今回の契約内容は、私の記憶のことね。


「退席者はいないようですので進めさせていただきます。━━今お配りした契約書にサインをお願いします。━━はい、ありがとうございます。皆様のサインをいただけましたので、料理長から時計回りで自己紹介お願いします」


 会議室には十人掛けの円卓が置かれていた。

 私の一つ空けた隣の席に座る料理長が立ち上がり、自己紹介を始める。


「パブロギルス公爵家で料理長を勤めるキリック・ポワッツだ。キックと呼んでくれ。兎に角、食べたことのない料理を食べるのが好きだ。その為に料理人になった。お嬢はこれから冒険者向けの料理を作るんだったな。一応Aランク冒険者でもある。力になれると思う」


「同じく公爵家料理人のピークス・オブラインです。お嬢の料理を再現できるよう力の限り頑張ります。冒険者ランクはBです」


「公爵家料理人のアンカー・トッド。冒険者ランクはB。食べる事、寝ることが好き」


「公爵家料理人のトック・ガードンっす。冒険者ランクはCっす。もうすぐBに上がりそうなんで、頑張ってるところっす。毒持ちを見分けられるっす」


 次々に料理人達が自己紹介をしてくれるのだけれど、ちょっと待ってくれる? 何故皆、冒険者ランクを当たり前のように言っているのかしら? しかも皆、上位ランクばかりじゃないの。

 この世界の料理人は冒険者を兼ねるのが条件なの?


「次は僕かな。僕だけが皆と初めましてだよね。魔道具師……と言うか、魔法関係は何でも研究してるよ。最近まで、王宮魔術塔で働いてた。でも退屈してたんだよね。話を聞いて面白そうだったから、ここで皆と働く事にしたよ。僕は魔法関係全般担当だけど、料理も好きなんだ。だから料理開発の時も、ぜひ一緒にさせて欲しいな。あ、名前がまだだったよね。僕の名前はコライゼン・アンガークリフ。コールでいいよ。一応、冒険者ランクはSだよ」


 ん? えっ?? 気になるワードが盛り沢山だったわよ?

 王宮魔術塔ってこの国で五人しか入れないのではなかったかしら? 王宮魔術師団の更に上。スーパーエリート集団だったわよね。

 退屈だからって辞められるのかしら?

 しかもアンガークリフと言えば、四大公爵家の内の一つよね。そんな人が同じ家格と言え、うちで働いていいの?

 Sランクの冒険者って、今三人しかいないのではなかったかしら?

 この商会メンバーでパーティ組めば最強なのでは?


 頭がはてなマークで埋め尽くされ、放心状態だったところを、マリッサが引き戻してくれた。


「最後は会長、お願いします」


「ええ。クルクリ商会会長を勤めるシシリアーナ・パブロギルスです。これから色々と試作を重ねながら、売れる商品を作ろうと思っています。それで、より良い商品を作る為に、意見のぶつかり合いは大切だと思うの。この商会内では敬語無し、身分も気にせず発言したいと思うのだけれど、コール様はよろしいですか?」


「かまわない。様もいらないよ。堅苦しいのは苦手なんだ」


「ありがとう、コール。私もこれから気楽に話させてもらうわ。で、まず始めに聞きたいのだけど、料理人になるには冒険者になるのが条件なの?」


 ずっと気になってたのよね。

 趣味で冒険者をするにしても、皆高位ランク過ぎるもの。


「ああ、別に料理人になる為に冒険者してるんじゃないぜ。いや、あながちそうでもないか……。料理人で冒険者してるやつが多いのは、美味しい物を食べたいからさ。魔物は、高位ランクになればなるほど旨いのさ。だから自分で狩ってくる。そうしてる内に、勝手にランクが上っちまうのさ」


「そうなの」


 職業病みたいなものなのね。

 それにしても料理人達は美味しい物への探求心が凄いのね。だから四人とも、料理人にしては筋肉ムキムキだと思っていたのよね。


「コールに確認なのだけど、本当にうちで働いて良かったの? その、お家の事とか。それにまだ商会を立ち上げる話になってから三日しか経ってないのに、王宮魔術師塔で働いてた人が急に辞められるの?」


「シシリアーナ、君、数日前に王宮まで飛んできたよね」


「ええ。あ、私のことはシアって呼んで。皆もね」


「僕はシアが飛んでくるところを見たんだ。面白い子がいるって思ったよ。誰なのかは王宮ですぐに噂になったからね。パブロギルス公爵閣下のところへ直談判に行ったのさ。シアの師匠にしてくださいってね」


 師匠? 一体何の話かしら?


「閣下にはすぐ断られたのだけど、諦めきれなくて毎日通ったのさ。そうしたら、三日前急に『沈黙の誓い』を立てるならシアの師匠になっても良いってお許しがでてさ。迷いなく頷いたよ。それに商会で好きに研究もして良いって。家は大丈夫さ。僕は三男だし、閣下が父上にも話を通してくれていたからね。ああ、緊急時は国に協力するよう、塔に席は残ったままなんだけどね」


「お嬢様はこれからコール様に、魔法全般を教えていただく事になりました。所謂、魔法学の師匠ですね」


 まあ! 魔法の師匠が決まったのね。

 恐れ多い気もするけれど、とっても嬉しいわ!


「師匠! これから宜しくお願いします!」


「コールでいいよ。師匠って呼ばれると、急に年寄りになった気持ちになるよね。まあ、押し掛け師匠になったのは僕だけどさ。これからよろしく、シア」





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