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04.嘘をつくのは難しい


「おはようございます、お嬢様。━━起きてください!」


「……ふぁ……い。━━お……はよう」


 朝日がとっても目に染みるわ。

 もう少し……お布団の中にいてはダメかしら。


「マリッサはお嬢様に大切なお話がございます。お着替えの後に、少々お時間をいただきますね」


 あら? なぜか急に寒気が……。

 寝惚け眼の私には、マリッサがとっても怒っているように見えているわ。

 見間違い、ではなさそうね。

 はて、どうして怒っているのかしら?


「お嬢様、これについて、マリッサに分かるようご説明いただけますか?」


 そう言ってマリッサの手から机に置かれたのは、昨日私が書いたメモだ。

 考えを纏めている内にいつものように机で寝てしまい、身体の痛みで目覚めた後は、メモも片付けず、ベットへ直行してしまった。


 メモの内容はこうだ。


『王子に婚約破棄され捨てられた転生公爵令嬢は、平民となりスローライフを心行くまで満喫します! への道』


 1.平民になる前に、お金を稼ぐ

 2.平民になる前に、街に家を買う

 3.冒険者登録をして、少しランクを上げておく

 4.~眠い~zzz


 快適な平民生活を送るため、これから何をすべきか纏めようと、昨晩メモに書き出したのだ。

 調子にのって前世で流行っていた、物語の説明をする親切な長いタイトルを考えた時点で、眠たくなってしまったのよね。

 眠気で頭が回らずざっくりとした事しか書いてない上に、4番目に至っては……忘れましょう。

 そんなものをマリッサに見られたのはまずかったわ。


「そ、それは、ちょっとしたメモよ。えーっと、私も趣味の一つに小説でも書いてみようかと思い立ったの。……それの構想というか、何というか……」


 マリッサの目がとっても怖いわ。

 これは嘘だとバレているわね。多分、きっと、絶対に。


 本当の事を言ったら、頭がおかしくなったと思われないかしら? 悪役令嬢で断罪される前に、修道院に入れられることになったら大変よ! でもマリッサを嘘で誤魔化せた事は、今まで一度もないのだけれど。

 なぜ嘘だとバレてしまうのかしら……。


「お嬢様、マリッサは深い悲しみの中にいます。お嬢様が憂いなく過ごせるよう、今まで、力の限りお世話をさせていただきました。それなのに、━━なぜ平民になりたいなどと仰るのです? マリッサの何処がいけなかったのでしょうか? 仰ってくだされば直します! 直しますから、マリッサを置いて平民になるだなんて、言わないでください!」


「わ、わ、分かったわ! きちんと説明するわ! 信じられないような話しだけれど、きちんと説明するから! 泣かないで、マリッサ」


「はい。では、最初からご説明願います」


 マリッサ……、あなたちょっと、変わり身が早すぎるのじゃないかしら?

 今回こそは、本気で泣かせてしまったと焦ったのに。もう少し余韻というか何と言うか……、あった方が良くないかしら。

 確かに目に光るものが、そこに見えたと思ったのだけれど、今現在からっからよね。

 あなたの涙は、どこへ消えたのかしら!?



 あの後、話が少し長くなるかもしれないと伝えると、先に朝食を取ることになった。

 朝食を咀嚼しながら、どこまで話すべきか考えていたのだけれど、元々前世の記憶があるだなんて、荒唐無稽な話しではあるし、そのまま話してマリッサの反応を見れば良いわね。

 誤魔化すのが面倒になった訳では、……決してないのだ。


「お腹も一杯になった事だし、そろそろメモについて説明するわね」

「よろしくお願いします」


 食後の紅茶で緊張した喉を潤したところで、大切な事を言い忘れていたわ。


「マリッサ、説明する前に約束して貰いたい事があるの。これを了承してもらえないと、話すことはできないわ」


「了承いたします」


「いえ、まだ伝えてないわよ! ━━了承して貰いたい事は、私の話しを聞いた後、頭がおかしくなったとお父様に伝えるのだけは止めて欲しいの。そんな報告で修道院に入れられる事になれば、逃げ出すしかないもの」


「旦那様へ報告は致しますが、お嬢様が修道院に入れられる事は絶対にありえません。万に一つもありえませんので、安心してお話いただければと思います」


 じっとマリッサの瞳を見つめたけれど、そこに誤魔化しの色は見られない。物心つく前から傍にいてくれた、一番信頼置けるマリッサだもの、信じるわ。


「分かったわ。これまでマリッサが私に、誤魔化しや嘘を吐いた事はないものね。信頼しているわ。では話すけれど、これから話す事は、誓って本当の事よ」


 自分自身がまだ信じきれていないもの。

 異世界転生だなんて、荒唐無稽な事を。

 分かりやすく話せる自信もないけれど、仕方ないわ。


「私ね、頭を打ったでしょ。その衝撃なのか分からないけれど、前世の記憶を思い出したのよ。━━まだ記憶が戻ってから数日しか経っていないし、マリッサに分かりやすく説明できる自信は無いわ。私も混乱しているもの。一通り話した後に、疑問があれば聞いてもらえるかしら?」


 マリッサに了承をもらえた後、前世について話した。


 今いる世界とは全く異なる世界で暮らした記憶がある事。

 常識も何もかもが事なり、この世界に転生して一番感動した事が、魔法を使える事だということ。


 前世では悪役令嬢ものの物語が流行っており、今の自分の境遇に酷似している設定だということ。

 悪役令嬢は婚約破棄された後、断罪され、修道院に入れられたり平民として捨てられたり。最悪処刑もあったけれど、この国ではそこまでは無いと思っていること。


 ここからは、私の勝手な妄想だけれど、自分が悪役令嬢に転生しているのではと思っていること。

 万が一に備えて、悪役令嬢として断罪されるような事があれば、平民として悠々自適に暮らせるよう、今から準備しようとしていること。

 前世で魔法を使うのが夢だった為、夢が叶った今、修道院に入れられて大人しく過ごさなければならない人生だけは嫌だということ。

 修道院に入れられるくらいならば、絶対に平民になる道を選ぶと力説してしまったわ。


 悪役令嬢を説明する件では、私は一体何を言っているのかしら? と話の筋を見失いそうになったわ。

 改めて人に説明する事で冷静になるし、客観的に見て馬鹿げた話だもの。


「お話は以上でしょうか? では、質問してもよろしいですか? 魔法が使えない世界とのことですが、不便だったのではないですか?」


 マリッサが一番疑問に思ったことはそれなのね。

 予想外の方向からの質問だわ。


「魔法は使えなかったけれど、とても技術が発展していて、今の世界より色々と便利な物が沢山あったの。これから再現できるか考えてみるもの楽しそうよね」


 今の世界は、前世の世界で言うところの、中世ヨーロッパによく似ている。けれど水回りだけは、前世で私が暮らしていた時代と同レベルなのよね。下水まで完備されているし。

 まだ歴史を学べていないから、いつ誰が完成させたのか調べてみてもいいわね。ちょっと不思議だもの。


 前世で手放せなかった物と言えばスマホよね。買い物もできてしまうし、少しの外出であれば、スマホだけ持ち歩けば良かったもの。流石に全てを再現するのは難しいけれど、通話とメールはもしかしたら魔道具で作れるかもしれないわ。

 

 あら、いけない。ついつい思考が飛んでしまうわね。

 マリッサからの次の質問に、頭を切り替えなくては。


「悪役令嬢とは、暗殺者なのでしょうか? 婚約破棄後に修道院や平民落ちとは、少々の罪で言い渡される刑ではありません。ましてや処刑など。複数人を殺めてしまうのですか?」


「あ、大切な人を忘れていたわ! 悪役令嬢物語には、もう一人、一番の重要人物がいるの。それはヒロインと呼ばれる人よ!」


「ヒロイン?」


「そう、言うなれば物語の主人公ね。大抵が下位貴族か、平民から貴族に引き取られたという設定が多いわね。貴族の常識を知らない、天真爛漫なヒロインは、学園に通う高位貴族達の目に止まり愛されるの。男性限定だけれど。それで自分の婚約者にもすり寄るヒロインを許せず、虐めてしまうのが悪役令嬢よ!」


「虐め……ですか。消しはしないのですか?」 


「実際に殺したりしないわ。ヒロインは最終的に、悪役令嬢の婚約者とくっつくもの。よくあったのは、ヒロインを階段から突き落とそうとする殺人未遂かしら。その罪で最後には断罪されるのよ」


 マリッサったら、とっても腑に落ちない顔をしているわね。

 分かるわ。この国の貴族の常識では、その程度で公爵令嬢が、正式な裁判もなく断罪されるはず無いものね。

 私もそう思うのだけれど、もしもが無いとは言いきれないもの。やはり準備しておくに越したことはないわ。


 マリッサ……、小さな声でヒロインをさっさと消し去れば解決するのでは、とか言わないの。


「それでお嬢様はご自身が悪役令嬢で、断罪されるかもしれない時に備えて、平民になる準備をなさると。お金を稼ぐとは、具体的に何か考えがあるのでしょうか?」


 ふふふ、よくぞ聞いてくれました。

 記憶が戻ってから、色々と考えていたのよね。


「私ね、冒険者になろうと思うの!」


「は!? 冒険者になって賞金を稼ぐおつもりですか?」


 いけないわ。話始めるところを間違ってしまったわ。

 どうにも順序立てて話すのが苦手なのよね。


「違うわ! まあ将来的には、賞金稼ぎも面白そうだけれど。冒険者と言っても、趣味程度に、ゆるーくやっていきたいの。命は大切だもの。それで、冒険する時に持って行ける、美味しい携帯食や、ちょっとした便利道具を今の内に開発して売れたら良いなと思っているの」


 魔法を思いっきり使うため、冒険に出掛けたいとは思っているけれど、出来れば快適な冒険が良いもの。私が欲しいと思う便利グッズを、資金がある今の内に開発しておけば、一石二鳥よね。


「平民になった後は、冒険者向けのお店を開きつつ、お休みの日にちょっと冒険に出掛ける感じかしら。週休二日で、一泊二日のプチ冒険! いえ、帰ってきて身体を休める為に週休三日かしら。とっても楽しそうだわ!」


「お嬢様はお店を開きたいという事ですね。何処に開きたいか希望はおありですか? 大きさなどは?」


「そうねえ、冒険者向けのお店だから、冒険者ギルドに近い所が良いわよね。もしくは、冒険に出掛ける時に必ず通る門の近くかしら……。小さいお店で。あ、でも将来的にお店の上の階に住めた方が通勤時間も無くて楽よね。やっぱり広さがあった方が良いかしら」


 お店を持つのはまだまだ先だけれど、具体的に考えるのはとっても楽しいわね。

 冒険者ギルドの近くだなんて、よっぽど頑張ってお金を貯めないと買えないわ。最初は冒険者向けの携帯食を売る、屋台から始めてみるのが良いかもしれない。


 小さな屋台から、大商会へ。ロマンだわ。


 いえ、よく考えたらそこまで大きいお店だと、忙しくて趣味の冒険に行けなくなってしまうわ。ほど程が良いのよ。

 目指せ、小さな屋台からほど程のお店へ! よね。


「万に一つも無さそうですが、お嬢様が平民になった際、快適に暮らせる準備を今からなさると。ではマリッサも全力で協力いたします。旦那様へ報告がてら、商品開発の資金を頂戴してきますね」


 すごく頼りがいのある味方ができたのは嬉しいけれど、私の今の説明で納得出来たのかしら。


「マリッサ、今話した事、信じてくれるの?」


「お嬢様が悪役令嬢かもしれない部分は妄想のようなので、一先ず置いておきましょう。ですが、前世の記憶が戻られたことは信じます。前世の記憶を持つ人のことを『刻語り』と呼び、過去に何人かいらっしゃいましたので」


私と同じように前世の記憶を持つ方が、過去にもいたのね。『刻語り』って格好いい呼び名だわ。


「ふふふ、私の渾名がまた増えるわね。━━ではマリッサ、これからもよろしくね。商品開発も手伝ってもらうわよ」


「もちろんお手伝いしますが、やはり料理人もいた方が心強いですよね。候補はいるのですが、お嬢様が推薦したい料理人はいますか?」


 色々と作りたい物はあるけれど、まずは携帯食よね。

 だったらプロの料理人が手伝ってくれるのはありがたいわ。料理人に知り合いは居ないから、マリッサに頼むのが一番よね。

 どうせなら、早めに魔道具師も探してもらった方がいいわよね。こちらの人選は時間が掛かりそうだもの。


「推薦したくても料理人に知り合いは居ないし、マリッサにお任せするわ。ついでに魔道具師も探してもらえるかしら。頭が柔軟な、自由な発想を得意とする人が良いわ!」


「料理人はすぐにでも紹介できます。魔道具師は、変わり者ですね。心当たりがある気がしますので、こちらもお任せください」


 そう話終えて、マリッサはお父様へ報告するため、部屋を出ていった。

 正直に話したけれど、マリッサが本当はどう受け止めたか解らない。どうお父様に報告するのか……、マリッサを信用すると決めたのだもの。なるようにしかならないわ。


 マリッサが戻ってくるまで、入れ直してくれた紅茶を飲みながら、売りたい商品でも考えて待つことにしよう。

 そう思ったのだけれど、ぽかぽか陽気に当てられて、マリッサが戻ってくるまでの間、夢の中へ旅立ってしまったの。


 見た夢は忘れてしまったけれど、とっても楽しい夢だった気がするわ!





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