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03.ポテトと唐揚げは人気者

読んでくださり、ありがとうございます。

後半はマリッサ視点です。


「うま!! お嬢が食べたかったフライドポテトってのはこれかよ! このカリホク感がたまらねぇ! うま!! 塩味も良いが、こっちのスパイス味もたまらねぇ。お嬢料理が旨いとか、奇跡かよ! 手を止めたくねえな。あぁー、酒が飲みてえ!」


 失礼な言葉が聞こえた気がするけれど、許すわ。

 どうやらフライドポテトは、料理長のハートをがっちり鷲掴めたようね。

 止まらない美味しさよね、揚げたてのフライドポテトは。

 でも、そろそろ味見の手を止めて、残りのポテトと唐揚げも揚げてちょうだいね。


 その後、味見をして美味しい食べ物を作っていると認識した優秀な料理人達は、休む事無く大量のフライドポテトと唐揚げを、完璧な揚げ具合で揚げきった。

 何なら美味しいと誉められて気を良くした私は、じゃがいもを薄くスライスし、追加でポテトチップスも揚げてもらった。チーズと胡椒味に料理長が絶叫していたわね。


 公爵家には午前10時と午後3時に30分間の休憩がある。勿論お昼休憩とは別に。門番は時間交代制なので別だが。

 この日も午後3時となり、近くで作業していた者達から順に厨房横の食堂にやってきた。皆でおやつタイムだ。


「今日はお嬢様特製、揚げ物プレートだ」


 料理長がそう言いながら、食堂に来る使用人達にお皿に盛った揚げ物を渡していく。

 大皿に盛って自分達で取ってもらえばいいじゃないと言ったのだが、こんなに美味しいと取り合いの喧嘩が始まっちまうよと言われてしまった。

 美味しい物認定されたのが、とても嬉しい。


「えっ、今日はお嬢様の料理か……」

「口直しの料理が見当たらないけど、もしかしてこれだけ?」


 そこ、あからさまにガッカリするのは失礼よ。

 いつも美味しくない料理の口直しに、料理長が美味しい料理を用意していたけれど、今日は必要ないわ。

 まあ今まで様々な、お世辞にも美味しいとは言えない、謎料理を食べさせ続けていたから、使用人達がそんな反応になるのも仕方ないのよね。

 毎回、料理長の最後の頑張りで、不味くはないのよね。ただ美味しくもなく、微妙な料理になってしまうのだけれど。


「今日の料理は今までと全く違うわよ! 漸く自信を持って皆に振る舞える料理がやっと出来たわ。兎に角、一口食べてみてちょうだい」


 そう言うと、庭師のジョー爺がポテトを掴み、意を決したように口に放り込んだ。

 周りの使用人達が反応を見守っていると、咀嚼したジョー爺は目をカッと見開き、ブルブルと震えだす。


「ジョー爺さん、大丈夫か!? 無理せず吐き出せ!」


 ジョー爺の近くにいた従僕が慌てて背中をさすっている。

 周りの使用人達も心配そうに見守っている。

 本当に皆失礼よね。あれは今まで食べた事のない味に、感動でうち震えているだけなのに。

 不味いのを我慢して震えている訳じゃないのよ、きっと。


「━━うまい!! 何じゃこりゃ!? こんなうまいもん初めて食ったわい!」


 そう言うのが早いか、ジョー爺は凄い勢いでポテトを食べ始めた。

 それを見た他の使用人達も、顔を見合わせながら、おそるおそる口に運び、あちらこちらから「うまい!」や「美味しい!」などの言葉が聞こえてくる。


 良かったわ。

 これで美食のパブロギルス公爵家の者として、不名誉な『謎レシピ開発令嬢』の渾名は無くなるわよね。

 こういった使用人が付ける渾名は、マリッサより逐一報告されている。上手い事言うわねという渾名から、そのままじゃないのという渾名まで、シシリアーナは様々な渾名を付けられていた。面白いので咎める事もなくそのままにしているのだが。


「ショ! ショワー!? なんじゃこりゃー!」

「どうした!? 毒か!?」


 ジョー爺の弟子がコップを片手に叫んでいた。

 そしてそこの従僕! 毎度、本当に失礼だわ。

 私が毒を盛るはずないでしょうに。


 皆には刺激が強すぎたかしら。

 でも揚げ物には、炭酸が合うものね。

 クエン酸と食用の重曹があったので炭酸水を作り、蜂蜜とレモンを入れてジュースを作っておいた。

 美食のパブロギルス公爵家と言われるだけあって、ここの食材庫にはありとあらゆる食材が揃っている。

 これから前世のレシピを再現するのが、楽しみだわ。


 皆が嬉しそうにおやつを食べるのを見届け、マリッサに促され部屋に戻る事にする。私が何時までもここに居たら、使用人達がゆっくり休めないものね。

 全く気を遣われている感は無いけれど、ほんの少しはお嬢様扱いされているはずだものね。


 そう思いながら食堂を後にしたシシリアーナは知らない。

 使用人達からは、本当に、少しだけ気を遣われていた。お嬢様に罵声を聞かせない程には。

 シシリアーナが去った食堂では、もう無いと叫ぶ料理人達と、もっと寄越せとつめよる使用人達とで、ちょっとした小競り合いが始まっていた。

 美食のパブロギルス公爵領に集まってくる人々は、美味しいものに目がない。それは公爵家で働く使用人も例に漏れず。いや、賄いで美味しい物が食べられるからこそ、公爵家の使用人になったといっても過言ではない程に。

 食が関わると人が変わる。

 優秀で知られている普段の使用人達からは、想像もできない姿だった。


 マリッサはこうなる事を見越して、シシリアーナを部屋へ促したし、料理人達は更なる混乱を避けるべく、料理を個別盛りにしたのだ。バイキング形式にしていたら、一つの唐揚げ、一本のポテトを巡り、殴り合いの喧嘩が始まっていただろう。


 休憩時間が終わった後、作る量が少なく、皆に分けられなかったポテトチップスを料理人達がこっそり食べていたのだが、運悪く偶然水を取りに来た使用人に見つかり、もう一騒動起こる事になる。

 その後一週間、3時のおやつは味を変えたポテトチップスとフライドポテトが出る事となった。




 ◆◇◆




 ━━コンコン。


「マリッサです」


 私が旦那様の執務室に呼び出されたのは、シシリアーナお嬢様がお休みになった後。

 呼び出された理由は、一つしかない。

 シシリアーナお嬢様が頭を打たれた後のことだろう。

 お子様達を溺愛している旦那様は、どんな些細な事でも、執事長を介さず、自ら報告の聞き取りをされていた。

 

 中から扉が開き執事長のステファンに中へと促される。

 旦那様は部屋の真ん中に置かれたソファーへ座り、ローテーブルに置かれた揚げ物を召し上がっていた。

 

 美食の公爵家には、料理を出来立ての状態で長時間保存できる魔道具がある。

 旦那様が召し上がっている料理も、料理人達が新たに作り直した物ではなく、昼間にお嬢様が作られた料理を保存しておいた物をお出ししたのだろう。

 普段になくニマニマしたお顔をされているので、かなり気に入られたようだ。



「マリッサ、あの子は完全に目覚めたのかな? あの類を見ない斬新な料理が、急にこんなに美味しい料理になるなんて。頭を打った衝撃がきっかけになったのだろうか。他に何か変わった事はなかったかい?」


「完全に目覚めた、で間違い無いと思われます。頭を打たれ、目覚めた翌日、書かれたメモに平民になるとありました。将来公爵家を出て行かれるおつもりかもしれません。その際には、私もお嬢様と一緒に行く所存でございます」


「ではその際には、私もお嬢様と共に参りましょう」


 旦那様の問いに答えつつ、今後起こりうる、もしもの時の希望を口にすれば、間髪入れずステファンが口を挟む。

 旦那様とステファンは乳兄弟であり、長らく公爵家に勤めている私と三人しか居ない場では、少々気安くなってしまうのが常である。


「いやいやいやいや、何を言っているの、マリッサにステファン。まずシシリーは平民になどさせないし、もし本当にシシリーが平民を望む時は、私が一緒に行くに決まっているだろう」


「それこそありえませんよ」


「無理に決まっているでしょう。旦那様はお立場がございます。ですから、もしもの時は、シシリアーナ様の事は私にお任せください」


 旦那様の呆れた言葉にステファンが間髪入れず突っ込む。

 本当に四大公爵家の一人であり、宰相様が何を言っているのか。許されるはずがない。

 その時は息子に爵位を譲るから問題ないとか、足跡は綺麗さっぱり消すしとか、━━問題しか無い上に、割りと本気で言っているから質が悪い。


「それで、どうして平民になると? 他にはどのような事が書いてあったのかな?」


「平民になりたい理由は、書かれていませんでした。修道院は絶対に嫌! 平民が楽しそう! 冒険者も良い。自由に空を飛び回りたい。お金が必要、儲けなければ! そう書かれていましたね」


 お嬢様はメモを書きながら、色々と思考が飛んだらしい。

 箇条書きされた内容がどう繋がり、どう結論に達したのかは分からなかった。

 余白部分に描かれた、ローブを纏い箒に股がった人物。

 あれがお嬢様の、理想の魔法使いなのかもしれない。

 少々鼻が曲がりすぎでは、と思わないでもない。


「何故いきなり修道院の話になったのかな? 私がシシリーを修道院に入れると思ったのか? え、どうして? それで平民に? 平民になるから、お金が必要だと思ってるんだよね。酷い……。私がシシリーを無一文で修道院に入れると思われているだなんて! 心外だ!! 私はシシリーに結婚せず、ずっと側に居て欲しいと思っているのに! お金だって好きなだけ与えてあげるのに!」


 興奮する旦那様を、ステファンが冷めた表情で「落ち着いてください」と宥めている。確かに何故、修道院から平民という結論に至ったのかは気になるが、好きなだけお金を与えるのは違うと思う。

 ステファンが宥めつつ紅茶をすすめ、ようやく旦那様は一息ついたようだ。


「シシリーは、幼い頃からギフト持ちの兆候はあったよね。料理したいだとか、公爵令嬢にはあるまじきお願いではあったけれど、教えてもいないのに、何故か包丁捌きだけは異様に上手くて……」


「はい。旦那様に料理がしたいと迫り、危ないからと断られると、いきなりキャベツの千切りを披露されましたよね。それは見事なキャベツの千切りでした」


 それを旦那様は美味しい美味しいと召し上がり、お嬢様に料理長付きで料理をお許しになってましたよね。


「シシリーには料理のギフトが与えられたようだね。今までは包丁捌きだけに特化しているのかと思っていたが、まだ完全に覚醒していなかったのだね」


 旦那様はそう言うと、唐揚げを口に放り込んだ。

 余りにも美味しそうに顔を綻ばせながら食べているので、マナー違反だと注意しずらい。それに、今回お嬢様が作った料理は、ナイフで切り分けて食べるのではなく、直接齧りついて食べるのが正解なのだろう。

 

「覚醒したのであれば、シシリーには専属の料理人を付けた方が良いね。これからも料理を作り出すだろうし、料理長も忙しいだろうから」


「それは、料理長が思いきり拒みそうですけどね。……賭けてもいいです。料理長はお嬢様の専属料理人を希望するでしょう」


「いや、ステファン。それでは賭けにならないよ。私だってそう思うのだから。━━まあシシリーと料理長に、希望を聞いてみるしかないね。その後で厨房の人事をどうするのか考えるとしよう」


 料理長は美食の公爵家に強く惹かれてやって来た者だ。

 お嬢様の変わった料理の注文に、毎回自ら付き合ってきたのは、今日こそは、次こそは、今度こそは、『もしかしたら美味しい料理が出来上がるかもしれない』と希望を捨てきれずにいたからだ。

 これから美味しい料理を生み出すかもしれない、お嬢様の側を誰かに譲るなど、決してしないだろう。


「ステファン、シシリーの影を今後三人増やすように。マリッサ、シシリーが平民になりたい理由が分かれば報告するように」


「「畏まりました」」


 シシリアーナお嬢様が、本気で平民にと望まれるのであれば全力で協力するが、回避できるのであれば、その方が良い。

 お嬢様の自由な発想力は、きっと貴族であるほうが現実とするのに都合がよい気がする。

 私にとって、お嬢様が幸せそうに笑っている姿が、なにより尊いのだから。





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