*閑話* 四大公爵と国王の集い
公爵達と国王の無駄話です。
読まなくても問題ありません。
「シシリーちゃーん!! ルルおじちゃまが来たよー! シシリーちゃん!? どこかなー??」
煩いやつが戻ってきてしまった。
残る四大公爵家の当主、ルーベンスト・ナルギリアだ。
これで王国騎士団団長なのだから、もう少し落ち着いてもらいたいね、まったく。
「おい! 形式的でもいいから陛下に挨拶くらいしろ」
私達の中で一番常識人ぶってるララが注意している。形式的でもって、一番非常識なやつだよね。
「ただいま戻りました。オークの目撃情報だったが、デビルオークに進化してた。近くにダンジョンができる前触れかもな。取り敢えず巣は殲滅したし、見張りも立てたから暫くは大丈夫だろ。それで? シシリーちゃんは!?」
「とっくに帰らせたよ」
いったい何時だと思っているんだ。
「何で選りにも選って今日なんだよ! 俺だってシシリーちゃんに会いたかったのに!」
こっちだってコールが余計な事をしなければ、シシリーを皆に合わせる気は無かったさ。
「そうだ! コールが悪い! うちの純真なシシリーを言いくるめて、相談も無く転移魔法陣を付与させたのだ。リリは一体どういう教育をしてきたのかな?」
「私に振らないでもらいたいね。コールは13歳の時にララに預けました。あんな風にした責任はララにあります」
「何故俺のせいになる。コールはリリにそっくりじゃないか。顔も性格もな! 13の時からああだったぞ!」
シシリーの師匠になりたいと、断っても諦めない執拗さは確かにリリそっくりだね。
今となっては、師匠になるのを許したのは失敗だったか。
シシリーの暴走を止めるどころが、一緒になって面白がっているから手に終えないし。規格外が揃うと、大変な事を仕出かす未来しか見えない。
「で? 転移扉ってなんだよ。安全確保はしてるんだろうな?」
昼間居なかったルルに、ララが一から説明している。
こいつは脳筋だが、考えられる脳筋だ。
警備の抜けを見つける目は、ルルが一番確かだ。
あっ、ララ! 何魔塔に転移扉設置してもらうとこまで話てるの! リリ、この野郎!「私の所もです」とか嬉しそうに言うんじゃない!
「ふーん。━━勿論俺んとこの騎士塔にも、設置してくれるんだろうな?」
こうなると思ったよ。
幼いシシリーの負担になることは極力避けたいのに。
……こうなったら、シシリーの為に報酬をたっぷり支払ってもらう事にしよう。
「気が進まないが仕方ない。その代わり、たっぷり報酬は頂くよ。まだ幼いシシリーを働かせるんだからね。行き帰りの安全面だって十分に確保しなきゃならないし」
まだ大丈夫だとは思うが、万が一にもシシリーが狙われていないとも限らない。影を増やすべきか……?
「シシリーは確かに今まで居た『刻語り』とは違うようだな。様々な記憶を鮮明に覚えているとは。初代に近いか……。━━先程食べたミックスフライ定食は本当に旨かった。次の『定食の日』はいつなのだ?」
あっ、陛下! また余計な事を!
「俺は唐揚げが気に入った。次は唐揚げ定食を所望する。シシリーに伝えておいてくれ」
「あ、私は魚のフライが好みです。あのタルタルと言う魅惑のソースをたっぷりかけて頂きたいです。あれの販売はいつなのですか?」
「なんだよそれ! まさか俺が居ない間にお前らだけで旨いもん食ったのか? おい! ロロ! 俺の分は?」
「あるわけないだろ。こいつらが勝手に、我が家に押し掛けて来たんだ。転移扉の確認だと言って強引にね。招いてもいないのに、図々しくも食事までシシリーにねだって。次など絶対に無いから!」
コールが「今日は定食の日だよね」と口を滑らせたのだ。
陛下が定食とは何かを聞き出し、食べるまで帰らないと言い張ったのだ。シシリーは平民の食べ物なのにと、とても心配していたが。
コールにも一言注意しておくべきだな。
一枚のお盆の上に、ご飯、味噌汁、メイン、小鉢、デザートが全てのった定食は、最初はシシリーと使用人達だけで食べられていた。平民の食べ物だから、お父様にはお出しできないと言われたのだ。そんなの関係ないのに!
私ですらステファンに愚痴グチ愚痴グチ言って、やっと出してもらえたのだ。
「今回は本当に特別だよ。我が家の定食は箸が使えない者には出さない決まりなんだ」
本当は箸を上手に使えるようになる為の日なのだが。
定食は箸で食べること、とシシリーが決めた。
今後作る予定の料理は箸が上手に使えないと食べにくいそうだ。尤も使用人逹はすぐに箸の使い方をマスターしたようだが。美味しい物を食べるために苦労は厭わないからね。
私も今では何でも上手に食べられるようになった。
使いこなせるようになると、箸はとても便利だと思う。
「ロロが使って食べていた、細長い棒のことか。食器を持って食べているのを見たときは驚いたな」
「だから平民の食事だと言ったよね。平民の間では、スープを直接食器から飲んだりするそうだ。シシリーの前世の国では、器を手で持って食べるのが正式な作法だったらしい」
今は作れる物から順に定食に使う食器を作らせている。
お椀は持って食べるのに最適だものね。
「本当にシシリー嬢は色々な記憶を持っているのですね」
「そうだね。だからコールにはお目付け役をしてもらいたかったのに、当てが外れたよ」
やはりコールには帰ったら注意することにしよう。
「真面目な話、今後シシリーちゃんは危険になるだろうな。新しい物を開発すればするほどに」
「分かっているさ」
ルルが心配するのも当たり前だ。
私がずっと心配している事だからね。
「そこでだ! シシリーちゃんを守るためにも、俺のとこの長男と婚約させるのはどうだ? 年も近いし、俺が鍛えてるから強いし守れるぞ!」
「それならば、うちのコールが良いでしょう。今日見てましたが、仲も良さそうです。シシリー嬢がもう少し大きくなれば、歳の差も気にならないでしょう」
「俺の息子は妻がしっかり育てているからな。コールより頼りになるだろう。魔力も魔塔に入れるほどに強い」
「いやいや、俺の息子と婚約すれば国一番の守りを付けてやれるぞ。あいつもきっとシシリーを気に入る。━━思い出したが、もうすぐガーデンで顔合わせがあるな?」
「そうだね」
私達四大公爵家と王族は社交界デビューする前に顔合わせする決まりがある。
10歳になる年に、シークレットガーデンと呼ばれる王妃様主催のお茶会に招待される。その為にシシリーを領地から呼び寄せ、王都に慣れさせていたのだが、まさか刻語りとして覚醒するとは思ってもいなかった。
「シシリーは記憶を思い出してから、将来平民になっても良いと考えているんだよ。私としては何としてでも止めたいのだが……」
「力の無い貴族ですら危険だってのに。絶対に止めておいたほうがいい!」
「分かっているさ、ルル。しかしシシリーは既にうちの最強軍団を骨抜きにしている。シシリーが望めば、どこまででも連れて逃げるだろう。下手に刺激できない」
「影達か? 確かに強いが、どうにかできるだろう?」
「最近は影達も胃袋を掴まれているからね。そちらも時間の問題だね。━━うちで最強なのは影じゃない。料理人だよ」
「はあ?? 料理人!? なんで料理人が最強なんだよ!」
「冒険者登録ではAランクだが、実際はSランクの者達がいる。食材にしか興味が無いから依頼を選り好みするし、緊急招集が嫌だからとSランクにならないだけでね」
「おいおい、嘘だろ!」
「つい最近もシシリーの為に、黒の樹海を1日で抜けてきた料理人がいる。美味しいからと火竜をさくっと狩ってきてたよ。食材を前にした料理人達は最強なのさ」
「追手相手だとそう簡単にはいかないのでは?」
「そう思うよね、リリ。でもそこにシシリーが居るんだ」
「??」
「彼ら料理人達にとってシシリーは、新しく美味しい物を生み出す食材よりも貴重な存在なんだよ。『刻語り』として覚醒する前からね」
シシリーを王都に呼ぶ時に揉めに揉めたのが料理人達だ。
誰がシシリーと一緒に王都に行くのか。
王都の屋敷には既に料理人がいるから、必要無いと言っても無駄だった。タダ働きでいいからと何としても付いてこようとするのだ。
面倒になって、料理人達で王都で勤める者を決めてくれと丸投げしたら、三日三晩の死闘を繰り広げていた。キックとロアの料理長対決では死人が出るのではと心配した。
止めたくても危険すぎて無理だったのだ。
「シシリーが奪われそうになった時、料理人達は本気で攻撃してくるだろうね。現役のSランクですら絶対戦いたくないと言っていたよ」
そこに影達と、隠れSランクのアイツまで味方についてしまえば終わりだろう。考えたくもないな。
「シシリーが逃げたいと思わないように、婚約も希望に添うつもりさ。ガーデンで誰かに一目惚れでも……、いや、駄目だ! シシリーはずっと公爵領で楽しく暮らしてほしい」
私がシシリーを守り抜いて見せる!
「親馬鹿だな!」
何とでも言えばいいさ。
「それよりも、今日の事は他言無用だよ!」
「分かっているさ」
「絶対だからね! 奥方達にも内緒だよ。うちの領地の者達に一言でも聞かれでもしたら……、恐ろしくて想像したくもない」
「大袈裟だな!」
「大袈裟なもんか! 30年前の『豆の暴挙』を忘れたのか!? 一粒の豆ですらああなるんだ。シシリーが作った料理がお披露目される前に王都で噂にでもなってみろ。王宮にまで押し寄せかねない」
「ああ、豆の暴挙か……。うちは隣の領地だったからな、それなりに被害が出たみたいだな」
「そういえば、あったな。豆の暴挙……」
「今回の定食が漏れたら、国庫にまで影響しそうですね」
「シシリーが商品化するまでは、今日食べた物の事は絶対に内緒だからな」




